第25話

「お嬢様、巡視の準備が整いました」


「ありがとう、ジョージ。

 もう一度斥候の話を確認したいわ」


「はい」


 ジョージがうれしそうです。

 私と馬車に同乗して領地を見て回るのが楽しくて仕方がないのです。

 勤務中はいつも厳めしい顔ですが、今日は笑み崩れています。

 何度も引き締めようとしていますが、直ぐに笑み崩れてしまいます。

 可愛いモノです。


「クルル、クルル、クルル」

「ゴロゴロ、ゴロゴロ、ゴロゴロ」

「クルル、クルル、クルル」

「ゴロゴロ、ゴロゴロ、ゴロゴロ」


 アオとアカもうれしそうです。

 甘えているような感じもあります。

 アオとアカもお散歩が楽しいようです。

 普段は一緒のお部屋でゴロゴロしているのが好きなアオとアカですが、ベヒモス様が新たに創り出されたダンジョンが楽しみなのでしょう。


 四日前にベヒモス様からお知らせがありました。

 領内にダンジョンを創ったと言われるのです。

 しかも、地下奥深くに隠されていた、古き時代のダンジョンを経由して、地下世界とつながっているというのです。

 急ぎ調べないといけない重大案件となったのです。


 問題はダンジョンの入り口でした。

 他の人間が入り込まないように、王城内に、王城でも奥深くの王宮につなげたというのですから、驚くしかありません。

 しかも馬車で出入りできるくらい大きな入り口です。

 斥候が確認に行ってくれたら、そもそもの王宮の形から変わっていました。


 まあ、そもそもこの城自体がベヒモス様のお手製です。

 一晩で創られたという話のお城です。

 一晩で人知れず消えてなくなってもおかしくないのです。

 形が変わるくらいで驚いてはおられません。


 地上の奥殿から入るところは、この城の城門を数倍する大城門になっていました。

 当然その防御力も数倍でしょう。

 広々とした城門を入ると、片側四車線の馬車道がはるか先まで続いています。

 王都にある大通りが狭く感じるほど、広々とした車道です。

 馬車道の両側は、これも広々とした歩道となっています。

 歩道の左右は、切り立った岸壁になっているのですが、空気と光を取り入れるための穴が開ています。

 そう、横穴式の住居が規則正しく岸壁に掘られているのです。


 ベヒモス様のお話通りでした。

 ここは単なるダンジョンではありません。

 ダンジョンはもっと地下深くにあるのです。

 王宮から入ってしばらくは、地下城なのです。

 地上で言えば詰めの城です。

 普段は統治に都合がよくて生活のしやすい平城にいて、いざ戦いの場合は裏山に築いた防御力のある山城にこもるようなモノです。

 私を心配したベヒモス様が、詰めの城、自給自足ができる地下大要塞として、私に与えてくださったモノなのです。

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