第10話

「次にアメリアさんに試してもらいます」


「はい、頑張ります」


 次はリリーの母親アメリアが試す番です。

 魔族が次々と人に狩られ、逃げ込んだ魔境では魔獣に喰われ、瞬く間に数が減り、代を重ねるごとに残された者で結婚を繰り返したので、今では妹と夫を共有しなければいけなくなっています。


「これは土魔法の魔術書です。

 少々強力な魔術書です。

 もっと弱い土魔法もあるのですが、ここで家族を護るとなると、この魔術書が使えないと厳しくなります。

 誰が使えてもいいのですが、まずはアメリアさんに試してもらいます」


「……はい、試させてもらいます」


 少し楽しげだったアメリアさんの顔が引き締まりました。

 今迄のような、生活を豊かに便利にする魔術ではなく、家族の命を護る魔法だと分かって、気が引き締まったのでしょう。


「この魔法は、魔獣や人間に襲われた時に岩盤の壁を創り出す魔法です。

 この洞窟の中で使えば、敵を押し止めることができます。

 元々の土壁や岩壁よりも強固ですから、これを破れるモノは竜くらいです。

 皆はこちらに移動してください。

 アメリアさん、ここを狙って呪文を心の中で唱えてください」

 

「うわああああ!」


 アメリアさんも驚き慌てています。

 それもそうでしょう

 分かっていても、目の前に厚く硬い岩盤が現れるのです。

 生れてから一度も魔術を見たことのない魔族なら、驚いて当然です。

 いえ、いえ、違いました。

 火種と光と水の初級下の魔法は直前に見ていましたね。

 でもその三つの魔術とは桁が三つ四つ違う魔法ですからね。


「さて、このままでは皆さんの出入りができないですから、私が扉を創ります。

 扉作りのような特殊な魔法は、普段必要になる事がありませんから、魔術書がありませんからね」


 私は洞窟の入り口二十メートル付近に出来た、厚さ三十センチの岩盤に扉を創り、同じく強固な岩盤製の閂を五ケ所にもうけました。

 これで扉を突破される心配はないでしょう。


「うん?

 どうかしましたか?

 普段はこの奥の部屋で寝るようにされたら、魔獣や人間に奇襲されることはないでしょう」


 アスキス家の人達が唖然呆然としています。

 これくらいで驚いてもらっては困ります。

 これからもっと色々やってもらうことになるのです。

 これくらい序の口なのですから。


「はい、はい、はい。

 現実に戻って来てくださいね。

 次はエミリーさんの番ですよ。

 次も家族を護るための大切な魔術ですからね。

 それに、生活も豊かに便利になりますからね。

 気合を入れてください」


「はい、頑張ります」

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