第6話 アタシだけの王子様
四つ目の袋に入っていたのは「茶」なのだが、これまた驚きの「レア」だった。自分の強運(種類は多いが、レアも結構当たらないらしい)に苦笑する。それこそ、「こんな所で運を使って良いのか?」と思うくらいに。今は事態が事態だけに「仕方ない」と思っているが、普段の俺なら間違いなく気絶する勢いだった。
掌の上にキューブを乗せる。
俺は真剣な顔で「それ」を、以下省略。ついでに擬人化する所も省いて(我ながら良い判断だろう?)。それをしっかりと聞いたのは、そいつが「チース!」と笑いかけた時だった。
俺はそのチースに辟易する一方……まあ、男だから仕方ないよな? 今までのコスプレモドキとは、違って。彼女の服装は、この俺でも「すげぇ」と思うくらいにオシャレだった。センスの良い着崩しはもちろん、その茶色に染まった髪(髪型は、サイドテールか?)も。
彼女は今までの中で、最も今風な女の子だった。年齢の方も、俺とあまり変らなそうだし。身長はラミアよりも若干高く、体型の方は「それ」と大体同じだった。
彼女はニヤニヤ笑いながら、右手の人差し指で俺の頬を何度か突いた。
「ふむふむ、なるほど。これは、なかなかのイケメンだね?」
俺は、彼女の言葉、特に「イケメン」の部分に戸惑った。
「お、俺がイケメン?」
「そう! 顔の形とか、ずっと見ていられる!」
「なっ!」と驚いた時にはもう、彼女に抱きしめられている俺(む、胸が)。
「お、おい!」
「えへへ! アタシだけの王子様。ねぇ?」
「なに?」と割り込んだのはもちろん、さっきから不機嫌全開のラミアである。「その続きは?」
ラミアは、俺から彼女の身体を離した。
それに合わせて聞こえる、少女の悲鳴。
少女は不機嫌な顔(プンスカしながら)で、ラミアの行為を非難した。
「ちょっとぉ! せっかくのラブラブタイムだったのにぃ」
「そんなものは、最初から無い」
と言い切ったラミアの顔は、鬼のように怖かった。
「今は、それよりも大事な事がある」
「大事な事?」と、少女が驚いた。「って、なに?」
少女は不安げな顔で俺の方を見、そしてまた、ラミアの顔に視線を戻した。
ラミアは「ゴホン」と咳払いし、彼女の名前(「キュティ」と言うらしい)を訊いてからすぐ、彼女に「最後の一つが擬人化したら話す」と言った。
キュティは、その言葉に「わ、分かった」とうなずいた。
俺は、最後の袋を開けた。袋の中に入っていたのは……もう説明しなくて良いだろう。紫色のキューブ、しかも、レアのキューブが入っていた。
俺は「それ」を、以下省略。
キューブは一人の少女に擬人化し、周りのモノフル達に気づいてからすぐ、厳かな顔で俺も含めたモノフル達に頭を下げた。
「突然の無礼をお許し願いたい。私もキューブが擬人化した存在、名をガルシャと申す」
「ガルシャさん、ですか?」と言った俺に、視線を向ける彼女。
彼女は穏やかな顔で、俺の(たぶん顔)に微笑んだ。
「お主が私の主か?」
「そう」とは、やっぱり言えなかった。なので「違います」と答えた。
俺は、ただの高校生だ。
「あなたには、不思議かも知れないけど」
彼女は俺のような、「平凡な男子」が話して良いような人ではない(と思ってしまった)。その物腰はもちろん、喋り口調も含めて。彼女の周りには独特の、つまりは高貴な雰囲気が漂っている。男の俺が決して汚してはいけないような。
服装も、何だか落ち着いた感じだし。とても自分と同い年(だと勝手に思った)とは、思えない。身長もラミアより高く、それが影響してか、体型の方も物凄く痩せて見えた。髪の色は当然、紫。髪型はもちろん、お姫様カットだ。
彼女は「クスッ」と笑って、俺の言葉に首を振った。
「お主が選ばれた人間である以上、お主は私の主だ」
「そうだよ!」と、キュティもうなずいた。「王子は、アタシの王子」
「様でも、主でもない」
ラミアは二人の言葉を遮り、ガルシャさんの目を見つめた。
「ガルシャさん」
「ん? なんだ? と言う前に」
「はい?」
「お主の名は?」
ラミアは彼女に自分の名前を名乗り、それから「大事な話がある」と言った。
ガルシャさんは、その言葉に首を傾げた。
「大事な話?」
「そう」
「それは、主と懇ろになるよりも大事な事なのか?」
「ええ」と、うなずくラミア。「ある意味では、それよりも大事」
ラミアはすべてのモノフルを見渡し、そして、その「大事な事」をゆっくりと話しはじめた。
モノフル達は(ウリナ達は、既に聞いているが)、その話に青ざめた。
「そ、そんな!」と、インリィ。キュティやガルシャさんも、不安げな顔で「女の子の犯罪に」、「モノフルが使われるなど!」と驚いた。
二人は、ラミアの前に詰め寄った。
「そんな事、あっても良いのか?」
ラミアの答えはもちろん、「ダメ」だった。
「モノフルは、選ばれた人間を愛する。それ以上の事は、してはいけない」
を聞いて、フォルトがそっと呟いた。
「その子は、それを破った」
フォルトは、ラミアの顔に目をやった。
「ラミア」
「なに?」
「……私は、あなたに協力する」
フォルトは真剣な目で、彼女の前に歩み寄った。
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