第18話 あなた達は、彼とデートしたくないの?

 モノフル達の修行は、お世辞にも良いモノではなかった。子供がチャンバラ遊びをするように。彼女達の修行には(レイレなどは別だが)、「殺気」と言うモノが感じられなかった。俺の命を守るためとは言え、その戦意には気恥ずかしさ、気まずさのようなモノが感じられる。


 モノフル達はそれぞれに剣を構えると、目の前の相手に斬り掛かっては、気まずそうに「ごめんなさい」と謝って(赤系のモノフル達は、やる気満々だったが)、剣と剣をぶつけてからすぐ、お互いが傷つかないぎりぎりの距離を取った。

 

 レイレは、そんなモノフル達に溜め息をついた。


「貴様ら! そんなモノで主人を守れると思うのか?」


 彼女の殺気は、周りのモノフル達を脅えさせた。特に彼女と相対するシュロ(こんな時もエロイ)は、見るからに脅えきっていった。


「う、ううう。レ、レイレさん」


「なんだ?」の声も恐ろしい。それを聞いていた俺も、思わずブルッと震えてしまった。「こんな程度で脅えていては、緑山蘭子の軍勢には勝てないぞ?」


 彼女は鋭い眼で、周りのモノフル達を見渡した。


「それは」


「そうかも知れないけど」


 モノフル達はそう言いつつ、互いの顔を見合った。


 フォルトは右手の剣を下げて、モノフル達がいる中央部に足を進めた。


「この修行に耐えれば、時任君とバーチャルデートができる。あなた達は、彼とデートしたくないの?」


 を聞いて、モノフル達の顔が変わった(ウリナは、暗いままだったが)。


「したい」と誰かが言った瞬間、周りのモノフル達も「彼と。私達は、彼とデートがしたんだ!」と叫んだ。


 彼女達の叫びは、夜の森に響き渡った。


「だったら」


 フォルトはまた、周りのモノフル達を見渡した。


「この修行に集中すべき」


 モノフル達は、彼女の言葉にうなずき合った。そして……。それからの彼女達は、まるで人が変わったかのように「とりゃ!」と、修行に集中しはじめた。


 剣と剣がぶつかり合う。


 無属性の剣は、実際の剣よりは弱いものの、相手に擦り傷を付けるくらいは威力があるらしく、当たり所が悪かったモノフルからは、「痛い」の声が聞こえてきた。


「傷の治療は、シュロ達がやれる。だから、剣に脅えるな!」


 レイレは相手の剣を捌いたまま、周りの全員に向かってそう言った。


 周りのモノフル達は、彼女の言葉にうなずき合った。その中でも赤系のモノフル達は、最初からやる気満々だったので、ほとんど殺し合いのような状態になっていた。


 ドンファンは、右手の剣をくるくると回した。視線の先には、火傘(こっちの方が使いやすいのだろう)を持ったシンネが立っている。


「へっ! 口ばっかりの自信家だと思ったが。結構やるじゃないか?」


「当然です! わたくしは、自分の実力を正直に話しているだけですから」


 二人は「ニコッ」と笑って、互いの目を見つめ合った。


 周りのモノフル達は、二人の勝負に息を飲んだ。やはり赤系のモノフルは違う。彼らは、戦いに対する姿勢が根本的に違うのだ。殺らなければ、殺られる。口には決して出さなかったが、その意識を本能的に感じていたのだ。


 二人は口元の笑みを消すと、両手の剣を構え直して、相手に向かって勢いよく突進した。


 剣と火傘の衝突音。

 それに混じって、二人の殺気がぶつかった。


 ミズハは、その光景に「すごい! すごい!」とはしゃいだ。


 ウリナは、武器の衝突音を聞いて暗くなった。


 タンミは彼女の表情に驚き、ウリナの前に駈け寄った。


「どうしたの? ウリナ」


「え?」と驚くウリナだが、すぐに「い、いえ」と誤魔化した。「何でもありません。ただ」


「ただ?」


「タンミさんは、嫌じゃないんですか?」


「ふぇ?」


 タンミは、質問の答えをしばらく考えた。


「嫌じゃない……って言うか、良く分からないよ」


「え?」


「わたしは、智君を守れれば良いだけだからね」


 ウリナは、その言葉に目を見開いた。


「智様を守れれば……」


 の続きは、良く聞こえなかった。


 ドンファンは、相手の火傘を捌いた。


「へっ、どうだ!」


「うっ」と、怯むシンネ。「まだ、です!」


 シンネは傘を回して、その表面から火を打ち出した。火は、ドンファンの周りを包み込んだ。

 

 ドンファンは、その火に怯まなかった。


「火属性のオレに火の攻撃が効くわけがないだろう?」


「くっ!」


 シンネは悔しげな顔で、右手に持っている火傘を捨てた。


「だったら」の声に合わせて、その右手に剣を出現させる。「これで勝負致しましょう」

 

 彼女は、嬉しそうに笑った。ドンファンも、嬉しそうに笑った。


「最初から『そう』すれば、良かったのに」


 二人はまた睨み合うと、相手に向かってサッと走り出した。


 周りのモノフル達もまた、彼女達に合わせて修行しはじめた。今日の修行が終わったのは、スマホの時計が十二時を示した時だった。


 疲れ顔で息をし合うモノフル達。あれだけ元気だったドンファン達も、今では肩で息をし合っていた。


 シュロは、全員の傷を治した。

 

 ラミアは、モノフルの全員に「キューブに戻って」と指示した。


 モノフル達は「それ」に従い、俺の前に集まって、キューブの状態に戻った。

 

 俺は鞄の中に彼女達を入れて、自分の自転車に跨がり、自分の家に帰った。家に帰った後は、(家族にばれないように)風呂に入り、風呂から上がった後は、机の上にキューブ達を置き、彼女達に「おやすみ」と言って(彼女達も「おやすみ」と返してくれた)、ベッドの上に寝そべった。

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