第16話 緑山蘭子は、俺達が止める。絶対に

 数が同じになったからと言って、必ずしも戦いに勝てるとは限らない。相手の力量はもちろんの事、その性質も微妙に異なっているからだ。100の剣を持った戦士が、同じ100人の銃を持った戦士に勝てるかも知れないが、その可能性はかなり低いだろう。剣と銃とでは、戦闘力がまるで違う。


 接近戦ではまだ、剣の側に勝てる見込みがあるかも知れないが……遠距離戦になれば、まず間違いなく負けてしまうだろう。俺達が今やろうとしているのは、その剣で銃に勝とうとする事だった。

 

 ラミアは(キューブ状態のモノフルも含めた)モノフルの全員を見渡し、部屋の中を何故か歩くと、部屋の全員に語りかけるように「ゴホン」と言って、これからの事をゆっくりと話しはじめた。

 

 俺はそれらの話を聞き、頭の中で一つ一つまとめて行った。

 

 ① 実力の底上げ。これは前から言っている事だが、「修行」と言う形で個人の力を高め合う。相手は……現段階で分かっているのは、こちらよりも数倍強い事。現実の男が、腕力なら女性よりも勝っているように。向こうの戦士は、こちらよりも戦いに慣れていた。108の家々を壊した実力を見てみても。彼等は(彼女達と同様、属性こそあるが)自分の属性に加えて、「無属性」の技も使えるようだった。無属性の技は属性ありの技と比べて、威力が何倍も強い。これは、文字通りの脅威だった。モノフル達の話では、彼等も無属性の技は使えるらしいが、スーパーレアのラミア達よりは威力が格段に落ちるらしく、家一軒はもちろん、下手をすれば、人間一人すら倒せないかも知れなかった。人間がモノフルに戦いを挑むのと同じくらいに。俺達はその現実を知って……ラミアはそうでもなかったが、何度も肩を落とし合った。


 ② 情報収集。これは、黒系と白系のモノフルに任せられた。彼等の能力は基本、味方のバックアップや自身の防御に関する内容が多いため、「戦闘」よりも「サポート」の方が合っていると思われたからだ。でもだからと言って、修行自体を疎かにするわけではなく、修行を行う夜には、彼女達も参加する事になっている。ただし、体への負担を考えて、修行量は他のモノフル質よりも控えめにするとの事だ。


 ③ 俺とのバーチャルデート。これは所謂、修行を頑張ったご褒美らしい。フォルトの話では、修行がない昼間、心と体を回復させる意味で、前に話した眼鏡を使い、モノフル達に俺との疑似デートを楽しんで貰う。そして俺は、ダイジェストに彼女達が楽しんだ疑似デートの内容を確認する事で、彼女達一人一人とどう向き合っていくのか考えると言うわけだ。誰か一人に偏らないように。彼女達を平等に愛すると言う事は、それだけ彼女達のメンタルを支える事になるのだ。「愛する者に支えられた者は、どんな強敵にも立ち向かって行ける」と。その意味では、彼女達のバーチャルデートはとても意義のある事だった。


 俺は頭の中を整理し、自分のやるべき事に……覚悟なんかできなかったが、それでも「よし」とうなずく他なかった。「最初から逃げ場なんてないんだ」と。普段から何かと流される俺には、その現実が何よりも重く感じられた。


 俺は、モノフルの全員を見渡した。


「緑山蘭子は、俺達で止める。絶対に」


 モノフル達は、俺の言葉にうなずいた(と思う)。キューブ状態のモノフルは分からないが、擬人化しているモノフル達は全員、「ニッコリ」と笑っていた。


「もちろん」と、(一部を除いて)彼女達の声が重なる。


 ラミアはそれらの声に「クスッ」と笑い、それからまた、俺の顔に視線を戻した。



 翌日の天気は晴れだったが、テレビのニュースは暗くなるような内容だった。緑山蘭子がまた、鳳来高校の生徒を襲った。今回の犠牲者は、彼女の同級生だった。名前の方はもちろん、伏せられている。アナウンサーのインタビューに答える声も……本人のプライバシーを考えてか、微妙に加工されていた。


 俺は、そのニュースに暗くなった。特に被害者が言った言葉、「突然の事で、何が何だか分かりませんでした」と言う言葉に。彼は襲われる瞬間まで、自分が何に襲われたのか、まったく分かっていなかった。


 暗い顔で、今日の朝飯を食べ終える。

 

 俺はいつもの用意を済ませると、学校の鞄を背負って、家の中から出て行った。

 

 ラミアは黒系と白系のモノフル達を集めて、昨日話した指示をもう一度を話した。

 

 モノフル達は特に拒む事もなく、彼女の指示に「了解」とうなずいた。

 

「そちらも気を付けて」


「分かっている」と言って、彼女に微笑むラミア。

 彼女は彼等の背中を見送ると、キューブの状態に戻って、俺の着ている制服のポケットに入った。

 

 俺は自分の自転車に跨がり、いつもの学校に向かった。学校の前ではいつも通り、風紀委員が生徒達の服装をチェックしていたが、神崎宇美の目を上手く擦り抜け、学校の昇降口に向かった。昇降口の中に入った後は、そこで上履きに履き替えて、自分の教室に向かった。


「おはよう」


「おはよう」と、周りの仲間達が応える。


 俺は黒内達に事情を話すと(戦いの事は上手く誤魔化したが)、自分の席に戻って、机の上に方杖を突きはじめた。

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