第26話 これは、修羅場待ったなしか?
将来の夢が強制的に決まった。将来の夢は、ノンフィクション作家。自分の身の回りで起った事を書きため、それを「作品」として世に出して行く仕事だ。綿密な取材は、日常で関わった奴らのインタビュー。
それに対する考察は、俺が内心で思った愚痴、その他諸々で書かれている。自分の文章に悶えるようなクオリティーで。たぶん……それを読んだ読者も、苦笑はおろか、失笑すらしないだろう。俺の書いた話なんて、「変態野郎の戯れ言」か「危ない奴の妄想」と思われるのがオチだ。
流行りのオモチャが擬人化したなんて、異常にも程がある。
俺は自分の現実に苦笑する一方、「どうして、自分が選ばれたのか?」、「自分以外にも、そう言う現象に遭っている者はいないか?」を考えた。
その結果、隣のラミアに「時任君?」と話し掛けられてしまった。
彼女は心配げな顔で、俺の顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
「ああ、うん。大丈夫」
ラミアは、正面の景色に向き直った。
「あの子、凄かった」
俺は学校の廊下を歩きつつ(部活は、終わった)、部室での光景を思い返した。確かに、藤岡は凄かった。普段は、大人しげな女の子なのに。小説の事になると、まるで人が変わったようになる。
あの天然なチャーウェイすら「お、面白い子だね」とドン引きする程に。覚醒した藤岡澄子は、俺達三人を怯ませるのに十分な力があった。
俺達は、彼女の変わり様にただただ苦笑した。学校の昇降口で靴を履き替え、それから外に出て、いつもの道を歩きはじめた時も。その苦笑を消さず、三人並んで歩きつづけた。
チャーウェイは俺達の少し前を歩き、その後ろを振りかえった。
「ねぇねぇ?」
「ん?」
「帰りにどっか寄っていかない? あたし、お腹減っちゃった!」
俺とラミアは、互いの顔を見合った。
「どうする?」
「私も、何処か寄りたい」
「分かった」
俺は、チャーウェイに向き直った。
「良いぞ! 何処に行く?」
チャーウェイは、近くのファミレスを指差した。
「あそこ!」
「あそこか。ラミアは、良いか?」
「良い」
「分かった」
俺達は揃って、そのファミレスに入った。ファミレスの中は、混んでいた。時間が時間なだけあって、様々な人が食事を、あるいは勉強に励んでいる。俺達の近くにいた女子高生達なんか……ん?
あの女子高生達、何処かで見た事があるぞ? 制服も、うちの高校と同じだし。
俺はその女子高生達をしばらく見ていたが、その女子高生達が俺達に気づくと、今までの気持ちを忘れて、会計所の前から場所からゆっくりと歩き出した。
ラミアは俺よりも早く、彼女達の所に行った。
「黒内さん」
黒内凛は(そのグループも含めて)、ラミアの登場に驚いた。
「あれ? どうしたの、ラミアちゃん?」
「時任君の部活が終わったから。帰りに」
「ふむふむ、なるほど。んで、その時任君は?」
ラミアは、俺の方を振り返った。
黒内は「ニヤリ」と笑ったが、俺の隣に「え?」と驚いた。
「その子は?」
の説明は、ラミアがしてくれた。
「私と同じモノフル」
「へぇえ」
黒内は(品定めするように)、チャーウェイの足下から彼女を見た。
「ふむふむ、なかなか可愛い子だね」
彼女の口元が笑った。
「そこのあなた?」
「はぁい?」
「名前は、何て言うの?」
チャーウェイは「ニコッ」と笑って、その質問に答えた。
「チャーウェイ!」
「ふうん、チャーウェイちゃんか。チャーウェイちゃんも、時任君の事が好きなわけ?」
「うん! 大好きだよ」
女子達が黄色い声を上げた。は、恥ずかしい。
「ふふふ、時任君。モテモテだね」
「これは、修羅場待ったなしか?」と、他の女子達も笑った。
俺は、その言葉に「冗談じゃない」と思った。
「そう言うのは、ラノ、まんがの主人公だけにしろよ!」
まったく! と言いながら、少し離れた所に座る俺。
俺はスマホで家の親に連絡すると、店のメニュー表を取って、何を注文するから考えはじめた。
二人のモノフルは……最初は俺の前と横を陣取っていたが、やはり女子トークに花を咲かせたくなったらしく、俺が注文のコーヒーを啜った時には、女子達のテーブルに混ざって、男子の連中には決して聞かせられない、女子のブラックワールドを話しはじめた。
俺は、その世界にブルブルと震えた。
男子諸君! 女子の世界には、決して入ってはいけない。そこには闇が、決して抜け出せない暗黒が待っている。それを聞いていた(と思われる)店のウェイトレスも、ブルブルと震えていたし。彼女達が作る世界は、闇鍋よりも黒く、そして、底なし沼よりも深かった。
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