第15話 今日の夜は、長くなると思う
「お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
俺は床の上に鞄を置くと、鞄の中からラミアを取りだし、学校の制服を着たままで、机の上に目をやった。
机の上には、モノフル達が買ってきたキューブの袋が置かれている。俺の帰りを待っていたかのように、その姿をじっと保ちつづけていた。
「改めて見ると、66個って凄いんだな。机の上に山積みされている」
「金も結構掛かったからな」と、ドンファンが笑った。「当分は、贅沢できないぜ」
「う、ううう。それは、ちょっと嫌だな」
俺は財布の中身に俯きながらも、真面目な顔でラミアの方に視線を移した。
ラミアはキューブ状態のまま、俺の掌に乗っていた。
「ダブりが出た時は、仕方ない。その時はまた、あなた達に買い物を頼む」
「もちろん、智を守るためだからね! いくらでも買いに行ってやるよ!」と、アドノガ。それを聞いたヤフキも「あたしも同じ。まあ、大変だけどね」とうなずいた。
二人は「ニコッ」と笑い、互いの顔を見合った。
俺は二人の態度に感動したが……まあ、照れ隠しってヤツかね。表情には、「それ」を見せなかった。「う、ああ、うん。ありがとう」
ラミアは、二人も含めたモノフルの全員を見渡した。
「開封は、夕食の後。説明は、前と同じ方法を使う」
「いくつかのグループに分けるのですね?」と、シンネ。
「そう、あなた達と同じように。今日の夜は、長くなると思う」
モノフル達の顔が強ばった。それを見ていた俺も。俺達は今夜の光景を想像しつつ、真剣な顔で今の言葉にうなずいた。「今回は、マジで長くなりそうだな」
俺は収集グループの面々を労ったが、情報を集めるグループが家に帰ってくると、収集グループに元に戻るよう促して、彼等が部屋に入って来られるようにした。
彼等は部屋に向かうやいなや、「ただいま、みんな」と言い、フォルト、ネヴィ、キュティ、クルンを残して、元の姿に戻った。
フォルトは、ラミアの方に視線を移した。
「緑山蘭子の居場所が分かった」
「え?」と、彼女の前に歩み寄った。「本当か?」
「本当」
「図書館のパソコンを使って」と、ネヴィ。「彼女のコンピューターに入ったわ」
「つまりは、ハッキング」
「へ、へぇ」と、俺は驚いた。「すごいな」
フォルトはネヴィの顔に目をやり、それからまた、俺の顔に視線を戻した。
「これでいつでも攻め込める。だけど」
「ん? なんだ」
「修行は、急いだ方が良い」
「ど、どうして?」
「政府が動いているみたい」と、キュティ。「そっちの方も調べてみたらさ。『特殊対策チーム』だっけ? それが秘密裏に動いているみたい」
俺はその言葉に驚いたが、ラミアの方は至って冷静だった。
「あれだけの事が起ったのなら、そうなるのも当然。この国もバカじゃない」
「対策チームには、特殊な武器が使われるようです」と、インリィ。それに続いて、クルンも「通常なら使われないような武器をさ。彼等は本気で、緑山蘭子を潰すつもりだよ」と言った。
二人は深刻な顔で、俺達の顔を見渡した。
「アタシには」
「無謀だと思いますが」
「それは、わたしくも思います」と、シンネが言う。「わたくしのような者ならまだ知らず、たかが普通の人間に倒せる相手ではありません」
「これはまた、犠牲者が出るかも知れないね」と、ヤフキもうなずいた。
俺達は、その一言に暗くなった。
だが、「だからこそ、修行を急ぐ必要がある」
ラミアだけは、「それ」に暗くならなかった。
「私達は遊びで、こんな事をしているんじゃない」
ラミアは真剣な顔で、俺達の顔を見渡した。
「彼女が潜んでいる場所は?」の質問に答えたのは、フォルトだった。「〇〇県にある廃墟。彼女はそこで、あの軍団を指揮している」
「モノフルの美少年達を従えて」
「そう」
「彼等の情報は?」
「それはまだ」
「その情報も集めて」
「分かった。明日」
「蘭童優」と、俺。
「え?」
俺は、フォルトの顔に視線を移した。
「緑山蘭子に従っているモノフル。俺は、そいつと」
「会った事がある?」
「ああ、家に帰る途中で。アイツは……」
フォルトは、俺の言葉に目を細めた。
「蘭童優はたぶん、本当の名前じゃない。本当の名前は」
「そんなのは知らなくて良いよ」
俺は、フォルトの肩を掴んだ。
「フォルト」
「ん?」
「あいつの情報が分かったら、で良い。何とか」
「説得するのは、難しい。その人は、緑山蘭子の
「くっ」と、その言葉に項垂れてしまった。「うっ……」
「あなたは、あなたの考えるべき事を考えて」
フォルトは俺の手に触れ、それから「クスッ」と微笑んだ。
俺は、その微笑みに眉を潜めた。
「分かった」
今日の夕飯を食い終えたのはたぶん、いつもと大体同じ時間だった。
俺は今日の風呂に入り終えると、いつもの寝間着に着替えて、自分の部屋に戻った。部屋の中では、ラミア(他の連中は、キューブに戻っていた)が俺の帰りを待っていた。「おかえりなさい」と、俺に微笑む。
ラミアは俺の隣に立って、キューブの袋を開けるよう促した。
「開封のグループは、各4個ずつ。すべてがダブらないと仮定すると」
「合計で16個の開封グループ、か」
俺はその数に頭痛を感じながらも、真面目な顔で(本当は憂鬱な顔で)キューブの袋を開けはじめた。
キューブの中に入っていたのは……。
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