第14話 俺達はみんな、罪人だよ

 学校の屋上でラミアから聞いた話をまとめると、以下のような内容になった。

 

 ①仲間を集めるグループ:ドンファン、アドノガ、シンネ、サガリ、ピナ、オルソン、インリィ、ルーノ、ヤフキ(予想が当たった)、キアサ、タンミの11人。赤系と黄色系の混合で、どうやら行動力をメインに選んだようだ。彼等が買ったキューブがもし被らなければ、すべてのキューブが揃う事になる。

 

 ②情報を集めるグループ:ウリナ、フォルト、キュティ、モタ、ミューノ、クルン、ギャニ、レイレ、ネヴィ、インリィの10人。社交性が高く、また冷静な奴らが集められた。

 

 ③待機組:残りのメンバー全員。

 

 ④護衛:ラミア

 

 俺は改めて、自分の仲間(と言うかハーレム)に驚いた。


「今の時点で45人もいるのにさ。そこにまた、63人が加わるなんて」


 考えただけでもクラクラする。コイツらは全員、俺に対して好意を抱いているのだ。まるで俺が世界の中心であるかのように。俺の隣に座っているラミアも……今は俺の肩に頭を乗せているが、その中の一人に加わっていた。


 俺の顔を見て、「クスッ」と微笑みかける。


 ラミアは俺の目を見つめ、そしてまた、自分の正面に向き直った。


「私は、あなたが生きてさえいれば良い。そのためなら」


 の続きは聞けなかったが、俺には何となく察せられた。彼女が抱いている不安も、そして、緑山蘭子に対する怒りも。彼女の瞳には、それらの思いがありありと浮かんでいた。俺の肩から頭を退けて、地面の上からサッと立ち上がる。


 ラミアは、屋上のフェンスに向かった。


「運が良ければ、今日ですべての仲間が揃う。彼女と戦うための戦力が」


「あ、ああ。アイツらの引きが良かったらな」


 俺も今の場所から立って、彼女の隣にそっと並んだ。だが……間が悪いのか、それとも単なる偶然か、俺達がお互いの目を見つめ合った時、屋上の扉を開けた神崎宇美が「不純異性行為!」と叫びつつ、俺達の所に駈け寄ってきた。


 神崎は不機嫌な顔で、俺達の顔を睨みつけた。


「貴方達はまた! 学校は、恋愛を育む所ではないのよ!」


 とか言いながら、俺にキスしたのは何処のどいつだよ? なんて突っ込めるわけがなく……。俺はただ黙って、彼女のガミガミを聴きつづけた。


「とにかく!」と、ラミアに視線を移す神崎。「貴女は早く、キューブに戻って!」


「いや」


 ラミアは、彼女の目をじっと睨みかえした。


「今は、彼との大事な時間。それを邪魔する権利は、あなたには無い」


「うっ」


 神崎はラミアの目を睨みかえしたが、やがて俺の方に視線を移した。


「もとはと言えば……くっ! まあいいわ。彼女はどうせ」


「何だよ?」


「私や時任君とは、違うんだから」


 屋上の空気が静かになった。神崎の言った言葉を受けて。屋上の空気はしばらくの間、氷のように固まっていた。

 神崎は俺達の顔を睨むと、ラミアにまた「元の姿に戻りなさい」と言って、今の場所から歩き出した。

 

 俺は神崎の後を追おうとしたが、隣のラミアに「大丈夫」と止められてしまった。


「彼女は、少し感情的なだけ」


 ラミアは、悲しげに「クスッ」と笑った。


 俺は、その笑みに胸を締めつけられた。


 もし、モノフルが普通の人間だったら。

 こんな事件は、起きなかったはずなのに。


 俺は人間の持つ煩悩、そのエゴに憤りを感じた。


「俺達はみんな、罪人だよ。ラミア達みたいな物を生み出して」


「……時任君」


 彼女は俺の頬に触れて、その身体を優しく抱きしめた。彼女の身体は、温かかった。既に知っている温もりなのに。今に限っては、「それ」が新鮮に感じられた。


「私は、そうは思わない。人間がいなければ……人間の持つ夢や希望が無かったら! 私はこうして、あなたの身体を抱きしめられなかった」


「ラミア」と、何故か涙が溢れる。「俺」


「時任君」


 彼女は、俺の唇にキスをした。


「ありがとう。私を買ってくれて」


 俺は、彼女の身体を抱きしめ返した。


「こちらこそ、ありがとう」


 俺達は予鈴のチャイムが鳴るまで、互いの体温を感じつづけた。



 放課後の部活は正直、憂鬱だった。藤岡は、俺の事をチラチラ見てくるし。作品のプロットを作る作業にも、やっぱり集中できなかった。


 不安な時間だけが過ぎる。

 

 俺は、心の不安と戦いつづけた。その戦いは、学校のチャイムが鳴るまで続いた。部活の終わりを告げるチャイム。そのチャイムを聞いて、藤岡がパソコンの電源を消した。


「時任君」


「ん? なんだ?」


「収集の方は、どう? 再開できる?」


「ああ」と、一応うなずいた。本当は、とっくに再開しているのに。「臨時収入が入ったからね。昨日からまた、集めているよ」


「そう」


 藤岡は「クスッ」と笑い、自分の席から立ち上がった。


「頑張っているんだね?」


「ああ……」


 本当に頑張っているのは、ラミア達だけど。


 俺は憂鬱な顔で鞄の中にノート類を仕舞い、部長の藤岡に「じゃあな」と挨拶して、部室の中から出て行った。部室の中から出た後は、学校の駐輪場に行き、自転車の鍵を開けて、それに跨がり、自分の家に向かって走らせた。


「ただいま」と言って、家の玄関を開ける。


 俺は鞄の中から弁当を出すと、母ちゃんに「それ」を渡して、自分の部屋に行った。部屋の中では、待機組の連中と、キューブを買いに行った連中(流石に全員は入らないので、擬人化していたのは数人だけだったが)が、俺の帰りを待っていた。

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