第13話 絶望は……
絶望は、死に至る病。誰の言葉かは忘れたが、今の男子達にはピッタリの言葉だった。すべての希望を失ったようで。
特に彼女のいない男子には最悪だったらしく、ラミアが「それ」を言った瞬間、まるで「この世の終わり」と言うように、床の上に倒れて、それから「わんわん」と泣き出してしまった。
「我が貞操は、永遠のモノである」と。彼らは女子達がドン引きしているのも気づかず、ただ自分の不幸を嘆きつづけた。
俺はその光景に苦笑したが、先生が教室の中に入ってくると、急いでラミアに「キューブに戻れ」と言い、彼女がそれに従ってからすぐ、鞄の中に彼女を仕舞い入れた。
周りの生徒達は「それ」に驚いたが、流石に俺の意図(先生にバレるのは、流石に不味い)に気づいたらしく、先生が「ん? 何だ? 今何か光らなかった」と驚いた瞬間、先生に「え? 何も光りませんでしたよ?」と言い、今の現象を上手く誤魔化した。
俺は、周りの厚意に頭を下げた。
「ありがとう」
周りの奴らは、俺の言葉に「いいや」と微笑んだ。
先生は朝のホームルームを進め、簡単な諸連絡を伝えると、「授業中は寝るな」とか「体育の時はサボるな」とか言って、教室の中から出て行った。
それに合わせて鳴る、学校のチャイム。学校のチャイムは電子音で、「キンコンカンコン」の音が現代風(俺はね)に聞こえた。
俺は机の中から教科書類を取り出し、女子達の質問攻め(彼女とは、何処まで行ったんだ?)を上手く回避しつつも、未だ再起不能の仲間達を起して、今日の学校が早く終わるのを待った。
今日の学校は……早くとまで行かないものの、いつも時間に終わった。
俺は鞄の中に道具を仕舞って、文芸部の部室(俺以外にも部員が一人いるが、ほとんど話さない。ちなみに文芸部に入ったのは、見るからに暇そうだったからだ)に行こうとしたが、帰宅部の女子達に「待って」と止められてしまった。
「ラミアちゃんと一緒に帰りたいからさ」
「ねぇ、良いでしょう?」
俺は、鞄の中から彼女を取りだした。
「って言っているけど、良いか?」
彼女は、俺の掌からふわりと浮かんだ。
「良い。同性の友人なら、私も歓迎する」
女子達の顔が輝いた。
「やったぁ!」
女子達(正確には、その一人)は、自分の掌に彼女を導いた。
「よろしくね、ラミアちゃん」
「こちらこそ、よろしく」
彼女の笑顔が、見えた気がした。
ラミアは、俺の方に視線を移した(と思う)。
「家には、一人で帰れる」
「分かった。それじゃ、気を付けて帰れよ。俺は、部活に行くから」
「ええ」
女子達は俺に「じゃあね」と言い、彼女を持って、教室の中から出て行った。
俺はその様子を見送ると、自分の仲間に「それじゃ、また明日な」と言い、彼らの「おう」、「じゃあな」を聞いてからすぐ、文芸部の部室に向かった。
部室の中ではやっぱり、アイツが物語を書いていた。パソコンのキーボードをパチパチと叩いて、俺が「よぉ」と話し掛けた時も、俺の方に視線こそ向けるが(コイツは、いつもビクビクしている)、それ以上の反応は見せなかった。
俺は「恥ずかしがり屋の美少女」から視線を逸らし、椅子の背もたれに寄り掛かって、鞄の中からまんが本を取りだし、それをゆっくりと読みはじめようとしたが……。
「時任君」
彼女、
俺は、彼女の顔に目をやった。
「何だよ?」
「作品、書かないの?」
「え?」
から先の言葉が出なかった。彼女は今まで、そんな事は一度も言わなかったのに。今日は、「俺に作品を書け」と命じ……いや、促そうとしている。「お前も、文芸部の一員なんだ」と。
俺はその言葉を拒もうとしたが、うーん。普段大人しい奴が言うと、ほら? 一種の威圧感があるだろう? 「私の言う事を聞け」と言う。彼女の言葉には、その雰囲気が漂っていた。
机の上に目を落とす。
俺は、右の頬を掻いた。
「俺、書くのが苦手だからさ」
「わたしも、文章は上手くない。でも」
彼女は、俺の目を見つめた。
「わたしは、文芸部だから。時任君も、文芸部でしょう?」
「う、ううん」
「なら、作品を書かなきゃ」
否定の言葉が出ない。本当は、書きたくないのに。それを否定するのは、俺の性格からして無理な事だった。
両手の拳を握る。
俺は暗い顔で、まんがの頁を閉じ、窓の外に視線を移した。
「分かったよ。俺も、自分の作品を書く」
本当に書けるかどうかは、分からねぇけど。
「まあ、頑張ってみるよ」
「うん!」
藤岡は嬉しそうに笑い、そしてまた、パソコンの画面に視線を戻した。
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