第5話 あたしの彼氏になってください!
大事な話が話されたのは、残りの袋(ラミア達が他の店で買ってきたヤツだ)をすべて開け終えた時だった。「フォルト以外にも聞いて欲しいから」と。「これは、私達の生活に関わる事だから。フォルトだけに話すわけにはいかない。私達は今、とても危険な状況に置かれている」
ラミアは真剣な顔で、フォルトの目を見つめた。
フォルトは何も言わず、その視線にうなずいた。
俺は、二つ目の袋を開けた。二つ目の袋に入っていたのは「黄色」、ランクとしては「レア」に該当する有色透明のキューブだった。
俺は「それ」を掌に乗せ、「それ」が擬人化するのを待った。
それは、数秒程で擬人化した。例の如く、部屋の中を飛びまわるキューブ。キューブは部屋の真ん中辺りで止まり、まばゆい光を放って、その形をゆっくりと変えていった。「どうもぉ!」の声が聞こえたのは、それからすぐの事だった。少女の姿に落ち着くキューブ。
少女は「ニコッ」と笑うと、かなり楽しげな顔で、目の前の俺達に敬礼した(気持ちの良い敬礼だ)。
「初めまして! モノフルのインリィと言います! 擬人化するのは、初めてなので」
彼女は元気よく、俺達に頭を下げた。
「どうぞ、よろしくお願いします!」
「あ、ああ」と、応える俺。ラミアも「よろしく」と言い、フォルトも「……よろしく」と応えた。
俺達は揃って、彼女の姿に目をやった。
服装は言わずもがな、アニメのコスプレを模したようなヤツ。身長は、ラミアよりも少し低いくらいか? 体型の方は、そんなに変らないけれど。何となく華奢な印象を受ける。髪の色は、見事なまでの黄色。
髪型は、サラサラのショートカットだ。年齢の方はたぶん、俺やラミア達と同じくらい。顔はかなりの童顔だが、その胸には素晴らしい物を持っていた(チャーウェイとは、違った意味でエロい)。
俺は、その胸に息を飲んだ。
インリィは(不思議そうに)、俺達の顔を見渡した。
「あれれ? どうしたんです? みなさん、どうしてそんなに暗いんですか?」
ラミアは、その言葉に目を細めた。
「明るくなれない事情があるから」
「明るくなれない事情?」と驚きつつ、俺の顔に視線を向けるインリィ。「ははーん、なるほど。この人に、ってすいません。お名前は、何て言うんですか?」
「時任智だ」
「智君ですか! 素敵なお名前です! もしよろしければ、あたしの彼氏になって下さい!」
お、おおう。こいつはまた、
「ダメですか?」の上目遣いも、可愛らしい。だが!
俺は、近くのラミアに助けを求めた。
ラミアは「それ」に応え、彼女の興奮を鎮めた。
「あなたの気持ちは、十分に分かる。でも、今は抑えて」
「ふぇ?」と驚いた彼女の顔も、やっぱり可愛かった。「ど、どうしてですか?」
「大事な話がある」
の一言で、空気が変った(と言うより、戻った?)
「大事な話?」
「そう。今後の生活に関わる大事な話」
インリィはその言葉にうなずき、俺の顔を何度か見てから、彼女の言葉に「分かりました」とうなずいた。
「その、話して下さい」
「ええ。でも、その前に」
ラミアは俺の顔に目をやり、真面目な顔で「開封の儀」を促した。
俺はその視線に従い、「開封の儀」を再びやりはじめた。三つ目の袋を開ける。袋の中に入っていたのは……今日は、ある意味でついているのかも知れない。有色透明の「緑」、つまりは「レア」のキューブだった。
俺は掌の上に「それ」を乗せて、以下省略。そろそろ、みんなも飽きてきただろう? だから説明は、キューブが擬人化した所からはじめる。
キューブは、おっとりした感じの女の子に変った。年齢の方はたぶん、俺達と同じくらい。身長もラミアとそう変わりなく、体型の方も大体同じ程度に感じられた。髪の色は(たぶん、キューブの色と同じなのだろう)、ごく一般的な緑。髪型は、ふわりとした感じのシィートボブだった。服装は、ここもカットで良いよね? 察しの良い人ならもう分かっていると思うし。
少女は穏やかな顔で、俺達の顔を見渡した。
「女の子は全員、モノフル。と言う事は」
彼女の笑顔が光った。
「あなたが私の旦那様ね?」
「そう」と一瞬うなずき掛けたが、「旦那様」の所で「おい」と突っ込んだ。「俺は、お前の旦那様じゃねぇぞ?」
「え?」の顔が、マジで怖かった。「違うの?」
「違う! 俺はその、選ばれた人間かも知れないが。お前の旦那様じゃ決してない」
「うううっ」と、マジで落ち込む少女。
え? これって、俺が悪いの?
と思った瞬間、ラミアが彼女に「あなたの名前は?」と訊いた。
少女はその声に驚きつつも、彼女の質問に「フーヌ」と答えた。
ラミアは、その答えに目を細めた。
「フーヌ。あなたの気持ちは、分かりすぎる程分かる。でも今は、堪えて」
「なっ、うっ。ど」
の続きが遮られた。
「大事な話があるから」
「う、うん」の返事を聞くのに数秒程掛かった。
フーヌは複雑な顔で、俺の顔をチラチラと見た。
ラミアはその顔から視線を逸らし、俺の顔に目をやって、四つ目の袋を開けるよう促した。
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