第29話 みんな、仲良くやれよ

 「開封の儀式」って言う程に厳かではないが、それでも一種の緊張はあった。周りの空気が(無音で)張り詰めるように。俺の横からそれを見ている二人も……新しい仲間に緊張してか、「早く、早く」と急かしはしないが、俺の手を促すように、真面目な顔でその動きを見つめていた。


 そんなに慌てなくても、結果はすぐに分かるのに。俺がオモチャの袋を持って、その袋を開けさえすれば、その緊張も一発で吹き飛んでしまう。あとは、どう言うキューブが出てくるのか? そのキューブがどんな風に擬人化するのか? を心配するだけだった。


「銀、金とくれば、次は『銅』が来たりして」


 ここまで幸運(と言う名の不幸?)が続いたのなら、それも十分に考えられる。銅は、金、銀と並ぶスペシャルレアだ。人気の方は、流石にその二つよりは劣るらしいけど。それでも、スペシャルレアなのには変わりない。その証拠として、俺が「それ」を引き当てた時は、俺自身はもちろん、隣で見ていた二人も、「凄い!」と言いながら声を上げていた。


「サーちゃんって、運が良いんだね!」


 どうだか? こう言う運は、良いのかも知れないけど。俺が引き当てた「それ」は、あれ程フラグを立っていた、銅のキューブだった。


 俺は机の上に「それ」を置き、そのキューブが擬人化するのを待った。

 キューブは、すぐに擬人化した。最初は机の上から浮かんで、次は部屋の中を飛びまわり、ある程度飛びまわったところで、その表面をキラリと光らせた。光は、数秒程で消えた。

 

 俺達はゆっくりと目を開け、その擬人化したキューブに目をやった。


 見るからにお淑やかな美少女。髪の色は「銅」なんだろうが、光の加減で鮮やかな茶色に見えた。瞳は日本人のそれを思わせる色で、身長は標準的、体型の方は華奢……つまりは、とても痩せていた。

 年齢は俺と同じくらいで……彼女が「クスッ」と笑うと、俺はもちろん、残りの二人も「あ、うっ」と戸惑ってしまった。大和撫子を体現したような美少女に。

 

 俺は、その美少女に息を飲んだ。


「あ、あの」


 彼女は、俺達に頭を下げた。


「初めまして。わたくし、ウリナと申します」


 声も綺麗。加えて、言葉遣いも丁寧だ。男子達の前に立たせたら、間違いなく無双できそう。彼女には「それ」を可能にするだけの「品」と、それに見合った「美」が備わっていた。男受けする女子とは、正にこの事だろう。

 

 俺は間抜けな顔で、彼女の顔をしばらく見つづけた。


 彼女はまた、俺に微笑みかけた。


「貴方のお名前は?」


「お、俺?」と、声が裏返る。「俺の名前は、時任智」


「ときとうさとる様ですか」


 彼女は「ニコ」と笑って、他の二人にも視線を向けた。


「お二人は?」


 二人は、彼女の質問に答えた。ラミアから順に。ラミアは冷静に「ラミアです」と答え、チャーウェイも天然っぽい口調で「チャーウェイだよ」と答えた。


 二人は特に敵意を浮かべる事もなく、彼女の事を穏やかに歓迎した。


「よろしく」


「よろしくね」


「はい!」


 ウリナは、二人に頭を下げた。


「こらこそ! 同じモノフルとして、よろしくお願いします」


 三人は(とても良い雰囲気に)、お互いの事を見つめ合った。


「智様」


 俺は、その言葉に打ち震えた。「様付き」で呼ばれるのが初めてだったので、「な、なんでしょうか?」の返事も相手と同じく敬語になってしまった。


 は、恥ずかしい。


「ご両親にご挨拶したいので」


「俺の親に?」


「はい! これからお世話になる人達ですから」


「な、なるほど」


 挨拶は、確かに大事だ。これから居候する彼女にとっても、それは外せないイベントだろう。


 俺は自分の心を落ち着かせて、彼女の言葉に「分かった」とうなずいた。


「親父が帰ってきたら、お願いします」


「はい!」


 彼女は、嬉しそうに笑った。


 親父が帰ってきたのはいつも通り、七時頃だった。


 俺達は揃って家のダイニングに行くと、親父から順にウリエを紹介し、真面目な顔で居候の許しを求めた。


「家事労働はもちろん、手伝わせて頂きます。必要とあれば、働きに出る事も」


 親父はその言葉を無視し、テーブルの上に両肘をついて、両手の上に顎を乗せた。


「家事労働はもちろん手伝ってもらうが、働きに出る事はない。君だって、うちの馬鹿息子と仲良くしたいんだろう?」


「はい。智様とは、『懇意になれたら良いな』と思っています」


「なら、無理に働く事は無い。食事は少なく、夜は」


「はい。元の姿に戻ります」


 親父は「ニコッ」と笑って、他のモノフル達に視線を移した。


「みんな、仲良くやれよ」


 モノフル達は揃って、親父の言葉にうなずいた。


「はい」


「もちろん!」


「わたくし達は好敵手であって、恋敵ではありませんから」


 三人は、やる気満々に互いの顔を見合った。

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