第36話 これは、没収します!

 俺の仲間曰く、「ハーレムモノでヒロインが増えると、テンションが上がる!」らしい。最初からいるヒロインを差し置いて、新しく入ったヒロインにスポットを当てるのは、子どもが新しいオモチャを買って貰ったが如く、「超楽しい、嬉しい気持ちになる」と言う。


 まあ、俺にはまったく分からない気持ちだが、新しいヒロインが増えたとしても、自分の中に本命がいれば、それは有象無象のモブと同じ、そこら辺の石ころと大差なかった。主人公は一途に、ヒロインの事を想いつづけるモノ。

 俺が好きで堪らないまんがの主人公達は、その大半が一途で、恋愛に対しても真っ直ぐな奴らだった。相手の事を真っ直ぐに想う気持ちは、読んでいてやっぱり気持ちが良い。


 この文章嫌いな俺でさえ、「続きが読みたい」と思ってしまうのだから。その意味で、今の状況は芳しくない……もっと言えば、修羅の世界だった。新しく仲間に加わった少女は、文字通りの「オレッ娘(と言うらしい)」、喧嘩上等の危ない女の子だった。

 

 俺はその事実に辟易しつつ、自分の両親に何か彼女を紹介して、彼女がこの家にいても良い事、親父の扶養に入る許しを涙ながらに得る事ができた。

 

 ドンファンは、親父の厚意に(そう言う所は、素直らしい)頭を下げた。


「親父さん、ありがとう。こんなオレの為に」


「いいや」


 親父は(何故か)、嬉しそうに笑った。


「この家には、女の子がいなかったから。俺としても、娘が増えたようで嬉しいんだよ」


 何処か照れ臭そうに笑う親父。母ちゃんも、それを同じ表情を浮かべた。二人は互いの顔を見合うと、優しげな顔で俺達に夕食をたべるよう促した。


 俺は「それ」に従い、今夜の晩飯を食った。晩飯を食った後は風呂、風呂の後は軽く勉強し、彼女達の過激なスキンシップを受けて(ラミアが裸の状態で俺に抱きついたり、チャーウェイが自分の胸に俺を押し付けたり、ウリエが俺の頭を撫でたり、ドンファンが俺の背中に蹴りを入れたり)、作品のプロット作りに取りかかった。


 俺は、プロット作りに集中した。自分の実体験を書くのは、空想の話を描くよりも易しい。自分が実際に体験した事を書き並べれば良いのだから、文才がどんなに無い俺でも、そんなに苦しむ事無く、すらすらと書く事ができた。まるで魔法にでも掛かったのように。最新の内容を書き終えた時には、時間の方も十一時を回っていた。

 

 俺はプロット用のノートを閉じ、机の彼女達に「お休み」と言って(彼女達も、それぞれに「お休み」、「おやすみぃ」、「お休みなさい」、「おう」と返した)、ベッドの中に潜り込んだ。


「ふぅ」


 疲れたぁ。頭の中がぐるぐる回っている。自分の書いた文章で、酔いに近い状態になっていた。右手の方も、半端なく疲れているし。


 俺は自分の頑張りに呆れつつ、何処かホッとした顔で両目の瞼を閉じた。


 次の日も、いつもと同じ時間に起きた。お馴染みの準備を済ませて(今日は、チャーウェイの番だ)、庭の自転車に跨がる。左足からゆっくりと、自分の眠気を覚ますように。


 俺は間抜けな顔で、いつもの学校に向かった。学校の前……校門の前では相変わらず、風紀委員達が生徒達の服装を検査していた。それを指揮する神崎宇美も。


 彼らは俺のような生徒(俺の服装は、ちゃんとしているのに)を見つけると、威圧的な態度でそいつを注意したり、あるいは罵倒したりした。

 

 俺はその光景に苛ついたが、「関わるのは面倒だ」と思って、彼らの前を素通りしようとしたが、神崎宇美に「あっ!」と見つかってしまい、嫌々ながらも彼女の検査を受ける事になった。

 

 彼女は、俺の服装をじっと睨んだ。


「服装自体は、大丈夫だけど」


「なら、良いだろう? 通してくれ」


「嫌」の意味が分からなかったが、とにかく言われた。「また、あのオモチャを持ってきているかも知れない」


 彼女は、俺の鞄を(どうやったんだ?)無理矢理奪った。


「見せて!」


「なっ!」


 彼女は俺の許可も無しに、鞄の中を調べた。その結果、鞄の中からキューブを見つけ出し、恨めしい顔で俺の顔を睨みつけた。


「不純異性行為! また、学校の中で淫らな事を」


 周りの生徒達が、「なんだ? なんだ?」とざわめきはじめた。


 俺はその声に脅えて、彼女の手からキューブを奪い返した。


「人の物を勝手に!」


「私には、その権利がある! 今までは一応、見逃していたけど」


 彼女はまた、俺の手からキューブを奪い取った。


「これは、没収します!」


「なっ!」


「また、あんな事が起らないように。学校の中では、この子も人間になれないでしょう?」


 彼女は「ふんっ!」と怒って、ポケットの中にキューブを入れてしまった。

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