第35話 オレの仲間は、そこにいるマスターと喧嘩の強い奴だけだよ
その男子高校生がもし、店の商品を毎日のように買っていたら。その店員は一体、何を思うだろう? 数ある客の一人として、別に何も思わないか。それとも「コイツ、オタクだ」と思いつつ、無表情で商品のバーコードを読み取るか。どちらにしろ、あまり良い印象は抱かれないだろう。
一週間に一遍、多くても三日に一遍の割合で行けば、その印象も大きく変わってくるだろうが。周りの空気に逆らえない俺には、それを変えるだけの力が無かった。ここで買わなかったら、また我が部長様の逆鱗に触れてしまう。「全種類を集めて、って言ったよね?」と言う風に。俺の事を睨みつけるに違いない。
そうなったら……。
俺は憂鬱な顔で、キューブマニアの袋を買った。
「最初にスペシャルを当てちまったからな。流石にダブらないだろう」
「ええ。たぶん、新しい仲間が増える」
「仲間」と言う表現は魅力的だが、今の俺には重い言葉に聞こえた。これを買えばまた、俺の部屋に美少女が増える。今度は一体、どんな美少女が来るんだろう? 冷静、天然、お淑やか、と来て。次は、腹黒系ドSか?
俺は不安な気持ちで、自分の家にキューブを持ち帰り、ラミアやチャーウェイ達が見ている中、その袋をゆっくりと開けた。
袋の中には、赤色のキューブが入っている。それも有色透明の。袋の中から取り出されたキューブは、夕陽の光に相まって、その赤をより一層に光らせていた。
俺は、その光に生唾を呑んだ。「赤って言いや、情熱の赤だよな?」と。コイツは、物凄い熱血女が出てくるかも知れない。
俺は複雑な顔で、そのキューブが擬人化するのを待った。
キューブは、すぐに擬人化した。夕陽の光に呼応するように。それが擬人化する時も、美しい光を放っていた。
俺は、その光に息を呑んだ。
キューブもとへ、モノフルの少女は、俺達のぐるりと見渡した。
見るからに戦い好きな、好戦的な目。その髪も真っ赤に燃えていて、顎のあたりまでしか無いショートカットの髪が、その雰囲気をより一層に醸し出していた。
体型の方も、無駄なく引き締まっている。それこそ、アスリートのように。その全身から攻撃的雰囲気を漂わせていた。
彼女は、少女達の顔に目を細めた。
「モノフルが三人か。そんで」
と言ってから、俺に視線を向ける。
「アンタが、オレのマスターと?」
マスター呼びに抵抗はあったものの、とりあえず「あ、ああ」とうなずいた。
「そうだよ。俺の名前は、時任智」
「トキトウサトル?」
彼女は、自分の耳穴をほじくった。
「ッケ! 俺の趣味にはドストライクだが、見るからに弱そうなマスターだぜ。オレの名前は、ドンファン。流行の作りだす力が」
「ストープッ!」
俺は、彼女の言葉を遮った。
「その
「ふうん。そっ」
彼女はまた、周りのモノフル達を見渡した。
「アンタ達は?」
彼女達は、ラミアから順に「ラミア」、「チャーウェイだよ」、「ウリナと申します」と答えて行った。
ドンファンは、部屋の壁に寄り掛かった。
「ふうん。どいつも、こいつも、みんな弱そうだぜ」
彼女達は、その顔に顔を顰めた。特にウリナは(暴力事が嫌いなのか)怒ったような顔で、彼女の目をじっと見かえした。
「弱くても別に良いではありませんか? わたくし達は、同じモノフルの仲間なのだし」
「同じ仲間のモノフル、ねぇ」
ふん! と、ドンファンは笑った。
「オレの仲間は、そこにいるマスターと喧嘩の強い奴だけだよ」
彼女は、自分の指をポキポキと鳴らした。
「ああ! どっかに強い奴はいないかな。身体が疼いて仕方ねぇぜ」
「ドンファンさん」
ウリナはまた、彼女の顔を睨みつけた。
「どんな理由があろうと、喧嘩はいけません」
「はっ!」
ドンファンは、俺の唇をいきなり奪った。
「なら、こう言う喧嘩は好きなのか?」
「なっ!」
「おっ!」と、彼女は笑った。「今の反応。こっちの喧嘩は、やっぱり負けたくねぇみたいだな」
「当り前です! わたくし達は」
残りの二人も、その言葉に続いた。
「そうだよ!」
「彼の事が大好きだから!」
二人は、彼女の顔を睨みつけた。
うううっ。予想していたとは言え、この展開はやっぱり辛い。こんなにも可愛い子達が、俺を巡ってガチバトルとか。バトルまんがも真っ青の展開だ。
彼女達の喧嘩を必死に止める。
俺は真剣な顔で、全員の顔を見渡した。
「俺の事を想ってくれるのは、嬉しいけど。それで喧嘩するのは、なしだ。お互いの事を挑発し合うのも。それを破った奴は、この家から出て行って貰う!」
少女達は、その言葉に押し黙った。今まで笑っていたドンファンも、今は仔犬のように大人しくなっている。まるで俺の言葉に脅えるように。
ドンファンは悔しげな顔で、俺の言葉に「分かったよ。アンタの前じゃ、喧嘩はしねぇ」と言った。
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