第19話 たわわに実る、メロンの如く

 金髪の少女、それも飛びっきりに可愛い美少女だった。髪はふわりとしたセミロングで、瞳は桜色に輝いている。まるで桜色の貝殻を嵌めたように。

 彼女の浮かべるあどけない表情、いかにも天然らしい笑顔には、その色がありありと浮かんでいた。年齢の方はたぶん、俺と同じくらい。

 身長はラミアと同じくらいだが、胸の方は……ラミアの「それ」を遙かに凌駕していた。たわわに実る、メロンの如く。彼女の胸には、男のロマンを満たす何かが詰まっていた。

 

 俺は、その胸にドキドキした。


「う、ううっ」


 に「ニコッ」と笑う、金髪少女。


 少女は嬉しそうな顔で、俺の手を握った。


「こんにちは、マスター!」


「マ、マスター?」


「うん! あなたは、あたしのマスターでしょう?」


 俺は、その言葉に戸惑った。何だか知れないが、俺は彼女のマスター、つまりは支配者らしい。彼女の諸々を支配する、文字通りの……じゃあねぇ!


「俺は、マスターじゃねぇぞ?」


「ええ?」と驚く彼女の顔は、マジで男殺しだった。これに惚れない男は(俺もマジで「くらっ」と来たわ)、まずいないだろう。

 天然の中に、一種のあざとさが混じっている。何人もの男を手玉に取ってきたような……彼女の表情には、人の心を動かす何かが潜んでいた。

 

 彼女は不思議そうな顔で、自分の顎に人差し指を当てた。


「それじゃ、ご主人様?」


「ぶはっ!」


 これまた、強烈なワードが出た。男の煩悩を擽る、凄まじい……って! 何、興奮しているんだよ? 相手は、どう見ても天然なのに。それにイチイチ反応していたら、こっちの方が疲れてしまう。ここは、冷静にならなくては。


 三回ほど、深呼吸する。

 

 俺は胸の動揺を抑えて、彼女の目をじっと見かえした。


「マスターでも、ご主人様でもない。俺は、時任智だ」


「ときとうさとる?」


 じゃあ! と、彼女は微笑んだ。


「あなたは、今日から『サーちゃん』だね?」


「サ、サーちゃん?」


「そう! 時任智だから、サーちゃん!」


 上目遣いで俺を見る、彼女。


「嫌?」


「じゃ、ねぇよ」


 女にあだ名で呼ばれるのは、恥ずかしいが。それでも、うん! 悪い気はしない。周りの奴らはみんな、「時任君」とか「時任」とか言わねぇからな。唯一名前で呼ぶのも、家の親しかいねぇし。

 そう考えると、うん! あだ名で呼ばれるのも悪くないな。と言うか、寧ろ推奨? そう言う女子は、何だか幼馴染みてぇだし。幼馴染との恋愛は、男にとっては一種の憧れだよな?


「うん!」


 俺は、彼女のセンスを気に入った。


「良いね、それ」


「ホント!」


 やった! と抱きつくのは、反則だろう? たわわな感触が、ダイレクトで来る。何の防御壁もなしに。お陰で、アレがパンパンだ。


「うううっ」

 

 俺は、彼女の身体を何とか離した。


「君の」


「え?」


「君の名前は?」


「あたしの名前は、チャーウェイ! 流行の力が集まって」


「知っている。キューブが擬人化したんだろう?」


「うん!」と笑った彼女は可愛かったが、「そうだけど? どうして、それを知っているの?」と言った彼女は少し怖かった。


「チャーウェイ以外にも、擬人化した子がいるからさ」


「ふうん。ねぇ?」


 と、また抱きつく彼女。


「その子とあたし、どっちが可愛い?」


 彼女は真剣な顔で、俺の目を見つめた。


 俺は、その迫力に思わず怯んでしまった。


「ああ、ええっと。うん! どっちも可愛いよ。チャーウェイが犬っぽい可愛さなら、あの子は猫っぽい(性格は、かなり違うと思うけど)可愛さかな?」


「ふうん」と、また顔が怖くなった。「あたしは、犬なんだ」


「う、うん」


 彼女の表情が変わった。今までの「それ」が嘘のように、その口元も。

 彼女は嬉しそうな顔で、俺の顔を抱きしめつづけた。


「嬉しい! あたし、犬が大好きなんだ!」


「そ、そう」


「ねぇ?」


「なに?」


「今度、犬を買いに行こうよ!」


「はぁ?」


 俺は、彼女の腕から何とか抜け出した。


「『犬を買う』って? そんなん、いくら掛かると思っているんだよ? 第一、家の親が許すとは限らねぇし(って言うか俺、この子が居候する前提で話していないか?)」


「ええ、すごく可愛いのに」


 しゅんと落ち込む彼女も、やっぱり可愛かった。感情表現が豊かすぎる。ラミアとは、反対に。ラミアは笑いこそするが、彼女ほど感情が豊かではなかった。俺に対する行為や言動は、ストレートだけど。うーん。


 俺は彼女の事を何とか説得しようとしたが、俺が彼女に話し掛けた瞬間、部屋のドアがゆっくりと開いて、ラミアが「ただいま」と言いながら入ってきた。


 部屋の中に緊張が走る。


 ラミアは(若干)不機嫌な顔で、目の前の少女をじっと睨みつけた。


「時任君」


「は、はい?」


「この子、誰?」


 彼女は冷たい目で、俺の顔に視線を移した。

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