第二章 事件、擬人化VS擬人化編

第1話 108の破壊

 詳しい事は知らないが、人間には108の煩悩があるらしい。人間の生に関わる……それらの欲望は、俺達の生活を豊かにするが、その一方で多くの不幸をもたらしてきた。いまだに無くならない戦争も、その戦争がもたらす飢餓も。


 すべては、まあいい。とにかく、人間は碌でもない生き物だ。銃を持ったら粋がるし、金を持ったら「凄いだろう?」と自慢する。かくいう俺も……自分では気づいてないかも知れないが、その意識を持っているのだろう。


 ラミアを含めた、モノフル達に愛されて。気づかない内に傲慢な、自分勝手な思いを抱いているかも知れない。「自分は、これだけモテるんだ!」と。他の奴と比べているかも知れないのだ。それこそ、ラノベの主人公のように。自分は……。

 

 俺は学校の制服に着替えると、ラミア(今日は、ラミアの番だ)と連れ立って、家のダイニングに行った。

 ダイニングの中では、親父が今日の朝飯を食っていた。その目をテレビに向けて。テレビの画面には、いつものニュース番組が映っていた。

 

 俺は親父の隣に座り、台所の母ちゃんと、隣の親父に「おはよう」と挨拶した。

 

 二人は、俺の挨拶に「おはよう」と返した。


「ラミアちゃんもおはよう」


「おはようございます」


 ラミアは母ちゃんに頭を下げ、正面の父ちゃんにも「おはようございます」と微笑んだ。


 父ちゃんは、彼女の挨拶にうなずいた。


「ああ、おはよう」


 母ちゃんは、テーブルの上に俺とラミアの朝飯を運んだ。


 ラミアは「頂きます」と言ってから、自分の味噌汁に手を伸ばした。俺も自分の味噌汁に手を伸ばしたが、それが茶碗に触れた瞬間、テレビのニュースに思わず驚いてしまった。


 俺は左手に茶碗を持ったまま、そのニュースをじっと観はじめた。


「今日未明、○○県△△市で異常な数の倒壊事故、火災事件が発生しました。警察は詳しい原因を調査していますが、それらはほぼ同時刻に発生したものと見られ」


 の続きは、残念ながら聞けなかった。それを聞こうとした瞬間、ラミアが「108の破壊」と呟いたからだ。

 彼女はテーブルの上に箸を置くと、不安な顔でそのニュースを観つづけた。

 

 俺は、その表情に首を傾げた。


「な、なあ、ラミア」


「なに?」


 ラミアは、俺の顔に視線を移した。


「どうしたの?」


「い、いや、何でも」


「そう」


 彼女は、テレビのニュースに視線を戻した。


 俺はその顔をしばらく見ていたが、「遅刻したら神崎に怒られる」と思って、自分の朝飯をさっさと食い、いつもの準備を済ませて、鞄の中に彼女を仕舞い、庭の自転車に跨がって、いつもの学校に向かった。

 学校に着いた後は(服装検査はオッケーだった)、学校の上履きに履き替え、その廊下を通って、自分の教室に行った。

 

 俺は、教室の連中に挨拶した。


「おはよう」


「ああ、おはよう」


「おはようさん」


 俺は自分の席に座り、机の中に教科書類を入れたからすぐ、鞄の中から彼女を取り出して、黒内達の所に「それ」を持って行った。

 

 黒内達は彼女の登場に喜んだが、岸谷だけは微妙な表情を浮かべていた(あれから数日経っているのに)。

 

 俺は、彼女の表情に胸を痛めた。


「岸谷、あの」


 と言った瞬間、黒内が俺に「ねぇ、ねぇ」と話し掛けた。


「時任君、今朝のニュース観た?」


「今朝のニュース?」


 ああ。


「108の破壊事件だっけ?」


「そうそう! 『誰も見ていない時間に108軒の家が壊された』って言う。アレ、マジで驚いたよね? △△市っていいや、アタシらの住んでいる町だし。壊された家も……確か」


「うん?」


 彼女は(何故か)、声を潜めた。


「これはその、極秘情報なんだけど。みんな、『鳳来高校に通う生徒の家だったんだ』って」


 ラミアの雰囲気が一瞬、変った気がした。


 ラミアは机の上から浮かび、黒内の前で止まった。


「全員、同じ学校に通っていたの?」


「う、うん」と、驚く黒内。「友達の話じゃあさぁ」


 黒内は、ラミアの耳元(らしい部分)に囁いた。


「ほとんど助からなかったんだって。辛うじて助かった子も」


「助かった子も?」


「みんな、何に脅えている。『窓の外が突然光った』とか?」


 ラミアは、その言葉に押し黙った。周りの空気を無視するように。それを見ている俺や黒内達も、沈黙の意味が分からず、ただ間抜けな顔で彼女の事を見つめていた。


 ラミアはまた、机の上に着地した。


「時任君」


「ああん?」


「今日の昼休み」


 と、彼女が言った時だった。仲間の一人が俺に駆け寄って、「時任」と言いながら俺にスマホの画面を見せた。

 スマホの画面には、何かの動画だろうか? 鳳来高校の制服を着た少女が一人(不気味な笑顔だな)、そのカメラに向かって何やら話していた。

 

 仲間は、興奮気味に画面の彼女を指差した。


「これ、さっき上がった動画なんだけど?」と言いつつ、スマホからイヤホンを抜く。「この子も、お前と同じ『選ばれた人間』らしい」


 仲間は不安な顔で俺を見、俺も同じ顔でその目を見かえした。


 俺は、スマホの画面に視線を戻した。

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