第11話 本当に何でもあり、かよ?

 家に帰ったのは……正確な時間は分からないが、それから二十分後の事だった。いつもの場所に自転車を停める。

 自転車を停めた後は、家の母ちゃんに「ただいまぁ」と言いながら玄関の扉を開け、自分の靴を脱いで、家の中に入り、鞄の中から弁当箱を出して、母ちゃんに「それ」を渡し、母ちゃんの「みんな、部屋で待っているわよ」を聞いてからすぐ、自分の部屋に行った。

 部屋の中では(母ちゃんの言葉通り)、チャーウェイ達が(少々、定員オーバーだが)俺の帰りを待っていた。

 

 俺は、床の上に鞄を置いた。


「ただいまぁ」


 彼女達は揃って、俺の挨拶に微笑んだ。


「お帰りなさい」


 俺は女子達の匂い(すげぇ良い匂いだ)に戸惑いつつ、その間を何とかすり抜けて、椅子の上にゆっくりと座った。


「その……みんな、どうだった?」


 の質問に答えたのは、ドアの近くに立っているインリィだった。


「それはもう、大変でしたよ? 街中のオモチャ屋を回って。自転車も無いから」


「そ、そっか。それは……うん。でも、ありがとう」


「いえ」


 彼女は、嬉しそうに笑った。


「智君を守る為ですから!」


 俺は、その言葉に胸が熱くなった。


 モノフル達は、机の上に今日買ってきたキューブマニアの袋を置いた。袋の数は、合計で36個。それらの表面には、それぞれのオモチャ屋で使われるシールが貼ってあった。


 俺はそのシールを撫で、周りのモノフル達に頭を下げた。


「みんな、本当にありがとう」


 モノフル達は、その言葉に「クスッ」と笑った。


「お礼の言葉は、要らない」と、ガルシャさん。「私達は、お前に尽くせれば」


 彼女は、恥ずかしげに微笑んだ。


「それが私達の生き甲斐だからな」


 他のモノフル達も、それに「うん、うん」とうなずいた。


「だから、気にしなくていいよ!」


 キュティの言葉が嬉しかった。彼女は俺の前に歩み寄ると、嬉しそうな顔で俺の頬にキスした。他のモノフル達も……今の光景に触発されたのか、俺が頬の感触にドギマギしている隙を突いて、反対側の頬にキスしたり、俺の上半身を抱きしめたり(む、胸が)、その頭を優しく撫でたりした。


 モノフル達は満足そうな顔で俺の目を見つめたが、フーヌが俺に「袋はいつ開けるの?」と訊くと、その表情を消して、俺の答えを不安そうに待ちはじめた。


 俺はポケットの中から彼女、銀色のキューブを取りだした。


「ラミア?」


 ラミアはキューブ状態のまま、俺の掌からふわりと浮かんだ。


「今日の夜にでも。最新の情報が欲しいから……開封は、ウリナ達が帰って来てから行う」


「だ、そうだ」


 モノフル達は、彼女の返答にうなずいた。


「分かった。それでは」


「はい! その時間まで待たせて貰います!」


 彼女達は互いの顔を見合い、ウリナ達が家に帰ってくるのを待った。


 ウリナ達は、親父とほぼ同じ時間に帰ってきた。


 親父は自分の後ろにウリナ達を連れて、ダイニングの中に入ってきた。


「ただいま」


「……ただいま」


「ただいま帰りました」


 俺は三人の声に「お帰り」と返し、親父が母ちゃんと話している隙を突いて、ウリナ達の所に歩み寄り、その二人に向かって「どうだった?」と訊いた。


 二人は、俺の質問に暗くなった。


「……詳しい事は」


「はい。夕食の後にお話しします」


 の返事を聞いて、俺も気持ちが引き締まった。


「分かった」


 俺は晩飯を食い終えると、自分の部屋に戻って(インリィ達はキューブの状態に戻っていた)、ウリナ達の情報に耳を傾けた。


 ウリナ達は俺の顔を見、そしてまた、ラミアの顔(ラミアは擬人化していた)に視線を戻した。


「……ウリナは鳳来高校の生徒を中心に、私は近所の人達を主として情報を集めたけど」


「残念ながら、彼らの居場所は分かりませんでした」

 

 俺は、二人の話に肩を落とした。


「そっか。まあ、まだ」


「でも」


「でも?」


 フォルトは、ベッドの上に腰を下ろした。


「彼女が家から出て行った時刻、その大体の時間は分かった」


「え?」と、驚く俺。「本当か?」


 無言のうなずき。からの「彼女は」が少し怖かった。


「事件があった前日の夜、時間としては午後八時くらいに自分の家から出て行った。学校の制服を着て……その両手には荷物、背中にも、大きなリュック鞄を背負っていた。荷物の中にはおそらく、必要な機材や着替えなどが入っていたと思う。彼女は、家の庭に出て」


「庭に出て?」


「突然、見えなくなったらしい」


「なっ! そんな事が?」


「できる、モノフルの力を使えば。彼女はモノフルの力を使って、現在の廃墟に移動した」


 ウリナが、俺達の会話に割り込んだ。


「廃墟に移った後のお金は……生徒達の話では、彼女はお金持ちだったらしいので。『きっと、自分の貯金をすべて下ろしたんだ』と思います。今後の生活の為に」


「な、なるほどね。でも」


「でも?」


「金は、いつまでも有る訳じゃないだろう? いくら、金持ちだからって」


「資金が無くなったら奪えば良い」と、フォルトが目を細めた。「それこそ、モノフルの力を使って。襲った相手から金銭を奪えば、半永久的に生きつづけられる。お風呂の問題も、『青系』のモノフルがいれば、万事解決」


「そんな」


 俺は、彼女の話に項垂れた。


「本当に何でもあり、かよ?」


 ウリナ達は、その言葉に押し黙った。

 

 フォルトはベッドの上から腰を上げ、真剣な顔でラミアの目に視線を移した。


「報告は、以上で終わり。あとはキューブに戻って、仲間の擬人化を見守る」


 ラミアは無言で、彼女の言葉にうなずいた。

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