第2話:ただ切る少女(二)
笑いながら首をかしげる早苗を無視して、烏輪は少し腰を落とす。体の中に流れる気。それを体の中心、
わきあがる熱。それを力に変えるように、息を言霊と共に吐きだす。
「我、
リズムよく言葉を口にしながら、烏輪は脳裏でそれを創造していく。
形や輝き、そしてその威力までもイメージする。
体の中心にわいた熱が力となる。
それは誰もが内包しながらも、選ばれた者にしか発することができない【霊力】と呼ばれる力。
その霊力を手にした模造刀に送りこむ。
「我、切に求める力の名、
烏輪の呼び声に、
さらに刀全体から放たれるのは、神々しい力。
それが本当にあったのか、それが本当はどんな形をしていたのか、そしてそれが本当に力を持っていたのか……それらはすべて些末なこと。重要なのはイメージであり、それまでに人々がその名に抱いた「想い」である。
それを霊的に召喚する能力、それが烏輪の使う術【
京都の
その威圧感に早苗の足が数歩、後ずさる。
「ね、ねぇ。まさか……早苗を斬る気じゃないよね?」
「友達の早苗は……ここにいないの」
烏輪は無表情のままで、肩口までのショートヘアをかるく振った。
「お前は、もう【
ジャギーの入った前髪の下で、烏輪の双眼が烈火を宿す。
それは、揺るぎない意志。
「やだ……なに……なに言っているの? ねぇ、なに言っているの? 早苗だよ。友達の早苗だよ……」
今にも泣きだしそうな声で、早苗は上半身を前のめりで訴えかける。そこに先ほどまでまとっていた、不気味な悠然さなど微塵もなかった。
「さ、早苗は、ただ三浦君と……」
そして話ながら、自分の手にある三浦の心臓を見る。
「えっ? ……いっ、いやっ!」
まるでそれを今初めて見たかのように驚き、唐突に悲鳴をあげて投げだす。
放られたそれは、そのまま廊下の壁に叩きつけられ、ペチャッと音を立て床に落ちた。ペンキでいたずらされたような壁についた赤黒い跡が、それを夢ではないと見ている者に訴えかけている。
「――っ! いや……いやいやいやああぁぁっ! なんで……えっ!? なんで、三浦君を……早苗、食べちゃった…の……三浦君っ!?」
涙声で自分の両手を見つめながら、早苗は狂ったように叫び出した。そして今日一日の己の狂気の行いを思いだしているのか、「嘘よ」「夢よ」と否定し始める。
(わざと正気に……。さすが悪趣味なの)
烏輪は奥歯が軋ませる。
「烏輪! ねぇ、ねぇ、ねぇ!? ……これ、夢っ!?」
両手で顔を覆っていた早苗が、声をわななかせながらゆっくりと前に歩みだす。
窓から入りこむ
「嘘だよねぇ、こんなの……。早苗、こんな事知らないもの……。烏輪、助けてぇ……」
「ほむ。ボクが助けてあげるの」
まるで何事もなかったように、太刀から力を抜いた烏輪は無表情を崩す。
そしていつもの微笑みを浮かべてから、片手を早苗に向けた。
「こっちにおいでなの、早苗ちゃん」
それを救いにしたように、早苗が一瞬、破顔してから烏輪に駆けよる。
「烏輪! うりっ――!?」
だが抱きつく手前で、早苗の腹部を刃が貫いた。
串刺しにされ、じんわりと滲み出る血液。何が起きたのかわからなかったように、早苗がしばらくの間、それをじっと見つめていた。
そして視線が刃をたどる。無論、それは鬼切の刃。
刹那の動きで烏輪は、腰元に構え両手でしっかりと柄を握っていた。
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