第16話:刑事と異能力者(二)
「あの子は……【
那由多が名前を言ったことに、柳は驚く。
「ちょっと! まさか、あんな子供まで?」
「子供と言ってもランクCの異能力者で、しかも我が社の【契約者】なんよ」
「え? 子供なのに!?」
「この世界じゃ、子供かどうかは――あっ!」
窓の外を見ていた那由多に、また視線を戻させられる。
今度は助手席側から男の子が出てきた。やはりまだ高校生ぐらいに見える。
「まさか、【七藤
那由多は片手で口を押さえて、まるで何かの想いを呑みこむように黙りこむ。
漆黒の瞳が、不安で濁る。彼女のそんな動揺の理由で、柳が思いつくのは一つだけだ。
「あの男の子、ランクは?」
「あの子は、七藤家の長男。次期宗主であり、ランクは……B」
「…………」
それは、那由多と同じランクだった。しかし、那由多は自分のランクを隠している。
ランクCからEの間で、彼女はいくつかダミーの名前をばらまいた。その中の一つ、ランクCに招待状が送られてきたのだ。つまり相手は、ランクCだと思って那由多を呼んだはずなのである。
しかし、あの陽光という少年が招待状を受けとっていたとしたら、ランクBが明示的に誘われていたことになる。
「ともかく、異能力者だろうがなんだろうが、子供がこんな危険そうな場所にいるべきじゃない。彼らをすぐに……」
と、そこまで言った柳を那由多が肩を掴んでとめる。
「あの二人、ここにいる他の連中よりもよっぽど強いんよ。もちろん
柳禅というのは、【
本名を使わない方がいいからと、那由多がそう柳に名のらせたのだ。
とはいえ、実は学生時代のあだ名が柳禅だったので、はたしてどの程度の意味があるものなのか怪しい。
「まあ、柳禅ちゃんの気持ちもわかるんよ。けどね、なんか悪い予感もするんよ。だから、ここはあの二人に協力してもらおう」
柳は、しばらく考えてから承諾した。
今さら帰れと言っても、乗ってきた車をとめるのはまにあわないだろうし、自分が送って行くにしても那由多一人を残していくわけにはいかない。それに、そもそもあの子供たちがおとなしく帰るとは思えない。なら、なるべく身近にいた方が守ってやれるかもしれない。
「で、あの子たちはなんの異能力者なんです?」
柳はあきらめたように尋ねた。一応は情報として聞いておいた方がいい。
「一言で言うなら、霊能力者。でも、ちょっと変わっているんよ」
「変わっている?」
「そう。七藤家というのは、【
「まあ、神降ろしってのは、いろいろなところに儀式として残っていますね」
「そうそう。で、神降ろしは、確かにすばらしいものなんよ。でも、神を召喚するから、呼び出す者にも大きな力が必要になるわけ。そのためなのか、彼らは剣神ではなく、神剣――神のごとき力が宿る剣――の力を呼び出すように変わっていったらしいんよ。そこからさらに変化し、
「……えーっと。先生、よくわかりません。伝説の力を真実としてってのは? もともとなかった力だったら呼び出せないのでは?」
「嘘から出た誠……というわけじゃないんだけど、信仰や念などでも力は生まれるんよ。【つくもがみ】は知ってる?」
「ええ。長い年月をかけて存在したものに神が宿るみたいな日本の民間信仰」
「うん、それ。よく『付着』の『付く』に『喪中』の『喪』で【
「……なるほど。たとえば、『この木には神が宿る』と長年、崇められることで神木となったり、長年愛用されたからこそ、物に魂が宿ったり、そういう考え方ですか。偶像崇拝的な思想もそうですよね」
「うん。たとえそこに本当は力がなくとも、信じること、伝えられる言霊、念などでそれは本当の力になることもあるんよ。【切】はそれを形にする……ってことかな」
「長年伝承された想いを力にする……か」
柳の視線が、また外に向けられた。
しかし、そこには二人の姿も、白いスカイラインもすでに見えなくなっていた。
たぶん、もうすぐあの二人もここに現れるのだろう。
(本当に夢物語だな……)
そんな空想に生き、あまつさえ次期宗主と呼ばれて奉られている子供。きっと自由はないにしても、なにも困ったことなく、ちやほやとされて育てられたに違いない。
そしてここで自分さえも騙して、幽霊退治をするのかもしれない。
いや。もしかしたら、本人は現実を見ていて、大人の妄想につきあっているだけの子供かもしれない。
(……どんな子供たちなんだろうな)
不謹慎ながらも、柳の好奇心がうずいていた。
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