7.お助け処と「アストラの神子(みこ)」
翌日、孔明が王宮に参内した。このところ王都に流行る悪性の風邪についての報告と、対策を奏上するためである。
「もう考えてくれたのか? 早いな。シャルナが褒めるだけのことはある。孔明殿は優秀であるな。」
国王は満足そうにそう言った。
「お褒めいただきありがとうございます。」
孔明は昨日の調査の結果と、貧民街での出来事を話した。
「・・・と、いうことでございます。」
「それは手数をかけたな。民に代わって、私からも礼を言うぞ! して、今後はどうすれば良いと思うか?」
「はい。今回、王都で流行っております風邪は、少々性質(たち)が悪うございますが、重症化するのは、体力のない者、栄養状態の悪い者に限られておりますので、今のうちに対策を取れば、大事には至らぬと思います。」
ここで一呼吸置いて、
「しかし、あの貧民街は今後も流行り病の発源地になることは間違いないと思われます。常日頃から注意して、芽の小さなうちに摘み取るのが得策かと思います。」
「それは、どのようにして、であるか?」
国王は尋ねる。
「地区の衛生状態を改善し、同時に、病になった者、飢えている者を一時的に保護し、治療する場所を作るのです。」
孔明は付け加える。
「あそこを潰しても、また、他へ移るだけですから、それより、一箇所へ集めて。まとめて管理した方がよほど楽というものです。」
「なるほど! さすがは孔明殿。『お助け処』でありますなー。」
先ほどまで黙っていた宰相が口を開いた。
「おおっ、それは良い考えだ。早速、建設に取りかかろう。良いな? 宰相。」
「ははっ!」
「それで、衛生状態の改善と云う手追ったが、具体的にはどういうことなのだ?」
国王が尋ねた。
「貧民街につきましたは、水場の整備が重要かと思いますが...、これは王都の民すべてにですが、手洗いとうがい、そしてマスクの使用が肝要かと思います。」
孔明がいう。
「手洗いとうがいは判るが、マスクとはどんなものだ?」
国王が聞いた。
「口と鼻を覆う布でございます。綿布が良いですが、重ね合わせた朝布でもかまいません。誰でも簡単に作れますので。後ほど作り方はお教えいたします。」
「これを、咳をしている者が漬ければ、他人に伝染(うつ)すことが格段に減ります。」
「うむうむ。されは良い!」
国王は弾んだ声でそう言って、さらに言葉を続ける。
「その『お助け処』は国が建設し、人を置くとして、そこで使う薬は孔明殿のところで手配してくれるか?」
「はい。喜んでお引き受けいたします。元々、シャルナ様は王国の民の助けになることがしたい、と仰せでございますので。」
こうして、貧民街に「お助け処」なる、この世界でおそらく初となる社会福祉施設が誕生することらなった。
そして、それは、国が設置した、入院可能に医療施設、すなわち「国立病院」としても、おそらく世界初のものであった。
この画期的な試みの話題は瞬く間に世界へ拡がり、何故か、その発案者がシャルナである、という尾鰭がついて、シャルナは「アストラの神子」と奉り上げられてしまったのであった。
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