4.大いなる茶番劇
精霊の森を離陸して、私たちは、国境の向こう側、スーレリア王国の国境の街、ガントへ行ってみた。
この街も、ウインカムの街と同じように、ガント子爵家領の領都である。おそらくは、大昔からこの地を領する貴族家なのだろう。
ウインカムと広さは同じぐらいだが、建物の数は少ない感じである。なので、連絡艇を着陸させる場所には不自由しなかった。
街の中の様子は、ウインカムと同様、とても戦争をしている風には思えなかった。
ここも、街と森の間に領軍の駐屯地があり、常に1000人ぐらいの兵士がいるらしい。ただ、連絡艇で上空から見た限り、そんなにいるようには感じなかった。
試しに、偵察ドローンで生体検知をしてみたところ、300人程度の反応があった。まあ、2段ベッドとかで寝ていたりすると重なって検出されるので一随には言えないのであるが...
続いて、ブランゲルン王国側の国境の街、ルードスへも行ってみた。こうなったら、ものはついでであると。
ここも、家名を冠した領都の街である。
三つの街の中では、ここが一番栄えている感じがする。もちろん、戦争の気配など微塵もない。典型的なブランゲルン王国の地方都市・・・といった感であった。
領軍の規模も公称300人程度と、この規模の街としてはごく平均的だった。
(怪しいところは特にないか・・・)
私たちは、一旦、ウインカム近郊に待機させてある揚陸艇へ戻ることにした。
今日はあちこち飛び回っていたので、既に夕方。仕切り直しである。
揚陸艇へ戻って、夕食を食べていた時、ジジからちょっと興味深い情報がもたらされた。
ジジは、今朝、私たちと一緒にウインカムの街に入って、街の中を彷徨きつつ情報収集を行っていたが、最後には辺境伯邸にまて入り込んでいたらしい。
そこで、思いがけない情報を得たというのだ。
それは、辺境伯と領軍司令官との何気ない会話であった。
「旦那様。ガントの司令官から、王族の視察があるので、兵を貸してくれ、とのことでございます。」
「ああ、貸してやれ。あちらは、視察が多くて大変だな。こちらは、金だけ出して、後はお任せだから本当に助かるわ。」
辺境伯がそう言って、苦笑した。
「そういえは、今年最初の大会は来月の予定でしたな。その王族とやらも、うまくタイミングを外してくれて良かったです。」
司令官が言う。
「今度は、向こうが会場だな。怪我人が出ぬよう気を付けるのだぞ。ところで、後の宴会には、エドワードは来るのか?」
辺境伯の問いに、司令官が答える。
「いえ。今回はエドワード様ではなく、ご子息様の方と伺っておりますが... あと、宴会には、ルードスのジルマール様がおいでになると伺っております。」
「何で、戦争をしていないブランゲルンが来るのだ。あの宴会好きめが...」
辺境伯が吐き捨てるように言うと、
「まあ、御三家は千年の絆で結ばれ死間柄でございますれば・・・」
司令官がそれを笑いながら取りなす。
私はこの会話を聞いて、だいたいの事情を察した。ここからは、あくまでも、私の推測だが・・・
元々、この辺りはどこの国にも属さない独立色の強い地方であったが、ちょうど100年位前に三つの国の版図に呑み込まれたのだろう。
おそらく、ガントかウインカムのどちらかが鳳魔鳥によって滅ぼされかけた街なのであろうが、彼らは大昔の約定に従って、あの森を守るため、森をどこの国にも属さない空白地帯とするため、三つの陣営に分かれて、戦争ごっこを延々とやっているのだと思う。
エトランドもスーレリアも、直接、戦争をする気は全くないと思う。あんな、この世界にはどこにでもありそうな森を巡って戦う意義など、どこにもないからだ。
そして、ブランゲルンは本気で和平を仲介する気がない。現状、何の迷惑も被っていないばかりか、二つの街の迂回交易で何らかの利益を得ているからである。
だから、そこの領主たちが頑張って支えてくれるならば、多少の援助は惜しまないだろう、
多分、ウインカムにもガントにも、領軍の兵士は1000人はいんい。せいぜい、その半分もいれば良いところだろう。だから、1000人の兵士が必要になれば、互いに貸し借りをしているのだ。
(これは、私がどうこう言うことではないな・・・)
いつまで、こんな茶番劇が通用するのかは判らないが、通用し続ける限り、今のままで良いと思った。
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