3.精霊の森と古(いにしえ)の約定

それにしても大きな木だ。


樹長は優に100mはあめうか。上の方はよく見えない。


この世界で「魔物」というのは、巨大な生き物とか賢い生き物とかを指す。


その考え方に則れば、これは疑いなく魔物の仲間だろう。


ちなみに、この世界には恐竜が存在しているらしい。火を吐いたりはしないようだが...


私たちは、連絡艇を降りて、木の近くまで行って見上げていた。


葉が風に吹かれたのか、ザワーッザワッと鳴った。


孔明とユキが気配を感じて、突然、私の前に出たと同時に、木の茂みの中から、巨大な鳥が2羽、舞い降りてきた。


上空では、偵察ドローンが赤外線センサーで監視していたはずなのだが、木から発せられる正体不明の線源によって検出が不完全になったらしい。


鳳魔鳥である。


「聖域を汚す者は何者であっても許さぬ!!」


声は頭の中に直接響く。あの時と同じだ。


「あなたたちの聖域を侵すつもりはありません。人間たちがここで争いをしている、と聞いたので、見に来たのです。」


私が答える。


「ここは精霊の森。人間たちは、古(いにしえ)の約定により、ここへは来ぬ。」


今にも攻撃して来そうな、殺気に満ちた眼で睨みつけてくる。


孔明が、思念波で攻撃許可を求めてきたが、私はそれを制止して、鳥たちに言った。


「あなたたち。ゴラドさんって知ってる? 私、知り合いなんだけど。」


「ゴラド? ・・・お前、知ってるか?・・・」


片方の鳥が、もう片方の鳥に尋ねた。


「ゴラドって...ひょっとしたら長老様のことじゃないのか? たしかそんな名だったような気が...」


「その辺の小鳥でも多分知ってるだろ~・・・って言ってたけど。」


私がそう言うと、鳥たちの態度が少し変わった。


「で、お前は長老様と、何の関係があるのだ。」


(あの、「お鳥よし」の鳥さん。けっこうエラいさんだったんだ...)


「いや。以前、大高地(グレートハイランド)にあった邪魔な物をどかしてあげた時に、何かあったら声をかけてくれって言われたんだけど...」


「あの禍々しい魔物を退散させてくれたのは、おま、いや、あなたさまだったのですか?」


片方の鳥が、変な言葉遣いで言う。


「長老様からは、人間のこむす、い、いえ、少女がアレを追い払ってくれたとは聞いておりましたが... それが・・・」


もう片方もかなり微妙な感じになってきた。


あの大高地の件は、鳳魔鳥たちの間ではかなり有名な話になっているみたい?


まあ、400年近くも気味悪がっていたのが解消されたんだから無理もない話なのだろう。


それにしても、タケミナカタは、魔物に魔物扱いされているのかーと、言い得て妙てはあるけれど、ちょっと笑ってしまった。


「経緯(いきさつ)を教えていただけますか?」


私は、その「古ま約定」というものについて尋ねた。


鳥たちが言うには、この森は精霊の森と呼ばれ、この巨木がその精霊なのだと言う。


そして、精霊はその圧倒的な「気」の力で、この世界を守っている・・・ということであった。


鳳魔鳥たちは、先祖代々の言い伝えに従って、この木を守護しているそうだ。


精霊の木は、この世界に何本か存在していて、他の場所では、竜が守護している所もあるらしい。


竜とは、おそらく、あのドラゴンではなくて、恐竜の仲間だと思うけど、こんな風に話ができるのなら、一度、会って、話がしたい。


それで、肝心の「古の約定」だが。


大昔、鳳魔鳥が「大昔」と言うからには、本当にものすごく昔のことなんだろうけど、人間がここに入り込んできて、当然、鳳魔鳥たちと争いになり、これまた当然のように、人間側が一方的に負けて、街が一つ滅ぶところまで行ったらしい。


その時、私みたいに鳥たちと話ができる人間がいて、この木のことを聞いて、自分たちも木を守る約束をすることで許しを得た・・・ということであった。


以来、人間たちは、この森に一切近づかないようになったという。


「では、何故、100年前から、ここで戦争をしていることになっているのですか?」


私は鳥たちに聞いてみたが、


「知らぬ! とにかくここに人間は来ないから、争いもない!」


というのが返事だった。


(そもそも、鳥に人のことを聞くのが間違いだわね...


「では、この精霊の木は、何から世界を守っているのですか?」


私は、質問を変えた。


「実は我らもよく判らぬ。ただ、精霊の木を喪った土地は、大地すべてが消えたそうだ。」


鳥たちが言うには、この木が発する「気」とは、何らかのエネルギー波の一種らしくて、偵察ドローンのセンサーを狂わせたり、鳳魔鳥たちの高い知性やコミュニケーション能力などとも関係があるらしい。


まだ何か釈然としない部分もあるが、とにかく、この木に万一のことがあると、大変なことが起きそうなことは分かった。


「ありがとう! 色々、話してくれて。私たちも、世界中の精霊の木を守っていきますね。長老様によろしくね。あ、私、シャルナね。」


私はそう言って、皆に撤収を指示した。


「長老様にはお伝えしておきます。どうかお気を付けて!」


鳥たちは、出会った時とは真逆の最敬礼で私たちを見送った。


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