2.百年戦争
実は、昨夜、ケッヘン子爵邸の夕食会の時、子爵から、今後の予定を尋ねられて、エトランドをからスーレリアへ廻ると言ったら、真剣に止められた。
この2国は、常に戦争状態にあって、特に国境地帯は非常に危険だという。
実は知ってたけど・・・
何でも、100年戦争をやってるとかで、よくもまあ飽きないものである。
私としは、この飽きない理由が何かを知りたい。だから、現地まで見に行こうと思ったのである。
とりあえず、エトランド王都まで後2時間ぐらいの街道沿いで、森に遮られて見通せない場所をみつけて、そこで馬車を降ろした。
後は、何食わぬ顔で街道へ合流して、夕方までにはまだまだ早いという時刻に王都へ入った。
ここは城郭都市である。街門は東側と南側にある。
戦争中というには、かなりのんびりとした雰囲気で、特に警備が厳重というわけでもなく、あっさり、街へ入ることができた。
今夜は、ここで泊まって、明日、ゆっくりと情報収集をすることにしたが、今日のうちに、ハンターギルドと商業ギルドを覗いてみることにした。
ハンターギルドは、紛争地帯の情報がないかを確認するたるである。特に注意喚起とか、そちら方面の護衛依頼とかは見当たらない。
受付の人に聞いたら、商隊は迂回ルートを通るし、ハンターもその辺りへは近づかないから、注意する必要もないということらしい。
続いて、商業ギルドでも聞き込みをしてみたが、戦時経済のような雰囲気はどこにもない。
紛争は、たしかに存在するが、南部の局地的な範囲に限定される・・・っていうことのようだ。
スーレリアとの国境貿易は、元々、国境地帯が大きな森に阻まれていて、道路事情が悪く、昔から、双方の隣国であるブランゲルン王国の国境の街を経由してきたという。
しかし、何でこんな国境の、何の変哲もない森を巡って、戦い続ける必要があるのだ? 疑問はどんどん拡がるばかりであった。
翌日も、日中ずっと街の様子を見て廻ったが、有力な情報はなかった。
敵対国のはずのスーレリアに対する憎悪みたいなものも感じないし、厭戦気分、というか、そもそも戦意すら感じないのであった。
「とにかく、国境の街へ行ってみるしかないわねー」
私たちは、夕方、王都を出発して、暗くなってから、揚陸艇で離陸。
先に国境の街の近くまで移動した後、木々の間で見通しの悪い場所を選んで朝まで待つことにした。
ちなみに、揚陸艇は、馬車をそのまま積めるよう、少し大型の機体を使っている。
そのため、居住性はけっこう良い。元々は、野戦陣地としての利用を想定したものだからだ。
艇内は、操舵室兼指揮所と居住区画、格納区画、武器区画、動力区画に分かれている。
居住区画には、カプセルホテルのようなベッドが8基。多用途室、ミニキッチン、トイレ、シャワー室などを備える。ちょっと潜水艦の艦内に似ている。
多用途室は、会議室、食堂、談話室、娯楽室、何でも兼用の空間である。
武装は、対地、対空、対宙攻撃兼用パルスレーザー砲3門。実弾兵器は精密誘導弾を16基搭載しているが、いずれも小型で、火力は大したことがない。
なお、今回は戦闘ロボットも2体乗せている。馬車を丸ごと乗せているので、これが限界である。
私たちは、まずレーションで遅めの夕食をとって、明日の行動について打ち合わせをした。
今回は、馬車で街へ入らず、夜明け前に、母艦から小型連絡艇を地上へ下ろして、それで街の中へ入り、情報収集をして、必要があれば、森の中へ侵入する・・・ということにした。
おそらく、森を抜けてスーレリアへ行く道は封鎖されていたと思われるからである。
その後、私とミニエ、パラはシャワーを浴びて、カプセルベッドで仮眠をとった。孔明たちは、上空の偵察ドローンと監視衛星の情報をウオッチしながら、周辺監視をしている。
夜明け前、私たちは、連絡艇に乗り換えて街へ入った。
この街の名はウインカム。この地を領地とするウインカム辺境伯の領都である。
地名と家名が同じということは、たいていの場合、昔から代々、この地を領する貴族家だと伺い知ることができるが、中には拝領間もなく自分の家名に変えてしまうお調子者もいるので、あまりアテにはならない。
連絡艇は8人乗りの超小型のもので、軌道降下可能なものとしては最小の機体である。
荷物スペースは乗客の手荷物を搭載できる程度。武装も小出力のパルスレーザー砲1問のみ。基本的に、戦う船ではない。
街の中では、光学迷彩を施したとはいえ、しばらく駐めておくには、スペース的に厳しいか、と思って、揚陸艇ではなく、こちらにしたのだが、表通りを一歩入れば、空き地だらけであった。
私たちは、陽が昇り切るのを待って、ハンターキルドと商業ギルドを巡って情報を集めた。
やはり、案の定、森を抜ける道は領軍によって封鎖されており、スーレリアへ行くにはブランゲルン方面への道を行くしかないとのことであった。
あと、領軍の駐屯地が森の手前にあって、常に1000人ぐらいの兵士がいるらしい。
たしかに、ただの国境警備としては、ちょっと多い気がする。
でも、ここも最前線という割に、全く緊張感が感じられない。物資も普通にあるし、人々は普通に暮らしている。
(本当に戦争やってるの? 100年もやってるとこうなるの?)
街の中での情報では、何とも埒があかないので、森の中へ行ってみることにした。
街外れの空き地に駐めていた連絡艇に再び乗り込む。
光学迷彩を効かせたままで離陸して森の方へと向かう、
途中、領軍の駐屯地ま上空に差しかかったので、地上すれすれまで高度を落として観察する。
建物の数からすると1000人ぐらいはいそうだが、地上を歩く人影は少ない。おそらく、昼食時だと思うので、もう少し賑やかでも良さそうなものだが...
(定期パトロールとかで出動中なのかも知れないな・・・)
森の中心部の上空に来た。鬱蒼としていて、下の様子は全く判らない。
そろそろ国境付近かな?と思しき辺りまで来たところで、真ん中に巨大な1本の木が生え、周囲はぽっかりと開いた空間があったので、そこへ降りてみることにした。
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