5.港湾都市ポルトナ

エトランドvsスーレリア百年戦争の、あまりにも壮大な茶番劇の毒気に当てられて、しばらくの間、呆然としていた私たちは、ようやく気を取り直して再始動した。


まず、精霊の木が発するエネルギー波の特性が判ったので、偵察衛星で、この惑星上のすべての精霊の木を監視して、異常があれば警報を出すよう指示した。


私は、この木が地震エネルギーとかプレートの歪みとかを外部に放出することで、大地の安定を保っているのではないか、と考えている。


だから、この木がなくなれば、地殻変動を起こして海に沈んでしまったりするのではないか? ということだ。


そういう事態だけは、絶対に避けねばならない。


本来の予定では、次はスーレリア王国の王都を目指すことになっていたが、何か急に色褪せてしまった気がして、行き先を変更することにした。


目指すは、南西部の港湾都市、ポルトナである。


この世界では、基本的に港町は珍しい。


外洋船が発達していないこの世界では、船を使った交通は沿岸航路に限られており、大きな街ができにくいのである。


しかも、エトランドからスーレリアにかけての海岸線は、断崖絶壁が続く上、強烈な季節風が吹きすさぶ、最悪の環境なのである。


ところが、このポルトナは、はるかミラトリア王国の北方に源を発し、ブランゲルン王国の王都やスーレリアの王都近くを悠々と流れる大河、マジラ川の河口部に位置し、海運と舟運の両方に対応できたことで、大きく発展したのであった。


私たちは、揚陸艇で、ウインカムの街でジジを回収後、西へ跳んで海上に出て、海からポルトナを目指した。


岬を曲がった辺りの、あまり目立たないところで馬車を陸揚げして、海岸沿いの道からポルトナの街へ入ることにした。


この道は、街へ入る直前にあるマジラ川の川幅が非常に広く、渡し船で対岸か、もしくは直接、中心街へと運んでもらえるようになっている。


馬車もそのまま乗せられる。いわばフェリーボートである。


私たちは、中心街へ運んでもらった。


この街は、街の中に運河が張り巡らされていて、道路よりも便利が良かったりする。


私たちがこの街へ来たのは、単に港町の風情を感じたかったのと、シーフードを食べたい!というものである。


この世界の大都市はみんな内陸部にあるので海の幸とは縁がない。アストラやブランゲルンの王都のように、近くに大きな川があれば川魚にはお目にかかれるが、それほどメジャーじゃないので、美味しい料理法も少ないのである。


エビやカニも淡水産のがいるけど、海のには敵わないし...


そんなわけで、今夜はこの街で一泊して、シーフードを堪能するつもりでいた。


そう「いた…」のであるが、肝心の海産物がこのところさっぱり手に入らないのだという。


それどころか、ゴルドン王国やタフト海沿岸諸国から、海を経由して来る物資もこのところ滞っているそうだ。


ここ、スーレリアやブランゲルン王国と、ゴルドン王国やタフト海沿岸諸国との間には、それほど険しいわけではないが山脈が横断しており、陸路より海路の方が輸送が容易なのである。


つまり、この街で北と南の物流が途切れているということで、穀倉地帯を抱える北側では飢える心配こそないものの、海産物やテンサイ糖、果物などが欠乏し、南側では穀物が乏しくなる...という深刻な事態を招く可能性があるのだ。


そして、私は、今夜のシーフードを食べ損なう・・・という極めて遺憾な状況に陥ったのであった。


理由を尋ねると、単純明快なものだった。


「海賊」である。


私は、当初、天候のせいだろうと予測していて、それならば仕方ない・・・と考えていたのだが、それを聞いて、猛烈に腹が立ってきた。


(私のシーフードが、そんなくだらない連中のせいで・・・)


「殲滅します!」


私はみんなに宣言した。


そうは言ったものの、話はそう簡単には行きそうにはなかった。


たしかに、大きな海賊船とかなら、揚陸艇で補足して、精密誘導弾をお見舞いすれば、それでおしまいである。


しかし、この世界の船はそんなに大きくない。まだ、この辺の船は、ジャンク船ぐらいあって、比較的大きいが、それは襲われる方の船の方で、襲う側は小舟で獲物に近づいて船内に侵入し制圧するのである。


いかに「精密」とは言っても小舟に百発百中は無理だ。


それに、往来が途絶えている状態で、そんなうまい具合に現れてくれるとも思えない。


(何か作戦を考えないといけないみたいね・・・)


結局、囮で連中の根拠地を炙り出して、そこを叩くことに決まった。


私たちは、夜を待って、海岸に出て、呼び寄せた揚陸艇に戻り、作戦準備に取りかかった。


海賊のアジトとみられるのは、聞き込んだ情報によると、この街の南にある岬の向こう側の海岸沿いに洞窟がたくさんある場所があって、その辺が怪しいらしい・・・ということだった。


私たちもその辺りに狙いを定めて揚陸艇を移動させた。


囮になるのはユキとシータ。


揚陸艇のマジックボックスから地上戦用の組み立て式ボートを取り出してスタンバイ。


テントとか、色々な野戦用装備をこの世界用に偽装させてあるが、これもその一つである。


明るくなってきたので、二人にボートで沖に出て、漁をする真似をしてもらった。


今回は久しぶりに、私も、シータに意識を移して実戦に参加することにした。食べ物の恨みは尋常ではないのだ。


朝の漁をするには絶好の時間である。網を打ったり、らしくことをやっていると・・・


(来た、来た!)


アジトの目の前であったのが効いたのか、すぐにお出ましである。小舟が2艘。挟み撃ちをするつもりだろう。


「お前たち。俺たちの言うことをききな。大人しくしていりゃ、殺したりはしねえから。」


奴らは、そう言って、舟を寄せて、乗り込んできた。


私、いや、実際はシータなんだげと、今は私なので、私たちと言っておく・・・は、大人しく、奴らの言う通りにする。


私たちは、奴らのアジトの近くと思われる海岸で舟から降ろされ、そのまま洞窟の中へと連れて行かれた。


(ここまでは、計画通りだね・・・)


私はユキと思念波で会話した。なお、孔明もこの様子を共有している。


「お頭。娘、二人も獲れましたぜっ!」


奴らの一人が言った。


「おう。よくやった! 東方の物か、この辺では見かけねえ顔立ちだが、なかなかの上玉だな。こりゃ、高く売れそうだな。」


お頭と呼ばれた男がそう言う。多分、コイツが頭目だろう。


「売る前に、いただきましょうぜー! 」


他の男が下卑た声でそう言う。


私は、「上玉」と言うのには同意するが、こういう奴は絶対に許さない。まあ、許すも許さないも、コイツら全員、近いうちにこの世から消えるけど・・・


「それで客はいつ来るんだ?」


頭が、横にいる男に聞いた。


「今夜です。積み荷がだいぶ溜まってますし、他の女もいますしね。」


男がそう答えた。


(他にも、捕らえられている人がいるのか・・・)


私たちは、孔明も交えて思念波で話し合った。


その「客」、おそらくは買い取りの商人であろうか・・・、もろとも殲滅することに決めた。


私たちは、洞窟の奥の方にある牢らしき所へ連れて行かれた。


そこには、少女が二人いた。海ではなく、陸路で移動中に掠われて来たらしい。奴らは盗賊でもあるのだ。


けっこう時間が経ったと思った頃、孔明から商人一行の舟が着いたと知らせてきた。状況開始である。


「助けが来ましたので、ここから脱出します。」


私は、二人の少女に言った。二人はキョトンとしていたが、縛られていたロープをこともなげに引むしり取ったユキが、素早く二人のロープもちぎっていく。


私は二人に声をかけたと同時にロープを外していた。



「さあ、外へ出ますので、付いてきて下さいね。」


私はそう言って立ち上がって、二人の少女の肩をポンと叩いた。


ユキは既に牢の扉を蹴破って外に出て、見張りの連中を殴り倒している。頭や顔を殴られた者は多分即死だろう。


私も襲いかかってきた奴には容赦なく拳を叩き込む。


ただ、長身のユキとは違い、背の低いシータの私では、相手の胸までしか届かないが、即死しないだけで、致命傷には違いないだろう。


洞窟の外へ出てみると、そこには、孔明と戦闘ロボット2体が、残敵掃討の段階に入っていた。


こちらは剣を使っているので、五体満足な者はいなかった。


前方には、服装でしか判らないが、あの、お頭とか言われていた男らしいのが、頭がない状態で転がっていた。


(「お頭」から「頭」がなくなったから「お」んー・・・)


私たちは、手分けして、まだ息のありそうな海賊と悪徳商人を洞窟の中へ放り込み、奥の方に一つ、手前の方にも一つ、照準マーカーを投げ込んだ。


それから、撤収作業に入る。


・・・と言っても、回収するのは、組み立て式のボートだけだったが。


救出した二人の少女も、ここに置いて行くわけにはいかないので、一緒に揚陸艇に乗せている。


離陸後、一旦、沖合に出て、洞窟に置いてきた、照準マーカーに向けて、精密誘導弾を、最初に2発、少し間を開けて3発、発射した。


気化弾頭を用いた最初の2発が洞窟内を完全に燃やし尽くし、後の3発が洞窟そのものを破壊した。


(これで、二度とあそこをアジトとして使えないだろう...)


二人の少女には、艇内で温かい飲物と、レーションのハンバーガーを食べさせた。多分、ろくなものを食べていなかったのだろう。この世界には本来存在しない食べ物だけど、何の疑問も抱かず、ガツガツ食べていた。


この二人には、全部見られてしまったが、すべてを話しても、信じてもらえないか、ヘタすりゃ狂人扱いされて座敷牢かも?・・・と言ったら、ウンウンと頷いていた。


二人は、15歳と16歳だと言ってたから、物事の道理が十分判るだろう。


ちなみに、二人は、姉妹でも知り合いでもないそうだ。それぞれ、別々に掠われてきたという。


「すごく強い人たちに助けられた・・・」ぐらい言っとくのが良いと思うよ・・・とアドバイスしておいた。


無原則に口止めするより、よほど効果があると思う。


私たちは、ポルトナの警務隊の詰め所の近くまで、彼女たちを送り届けて、そのままゴルドン王国の方向へ飛び去った。

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