7.閑話-ザールン国王執務室
宰相が国王に報告に来ていた。
2ヶ月前に国境の町、コンタに届けがあった盗賊団討伐の件の追加報告である。
この件は、国境山脈を通行していた、アストラ王家の王子一行が、盗賊団と遭遇して、これを討伐した・・・という、特に注目する内容ではなかった。
その一帯では盗賊団が跋扈しており、その被害はかなりのものではあったが、仮にも、厳重な護衛に守られているであろう王族の一行を狙うという愚行を犯しただけ、と考えられていたからである。
しかし、内容をよく聞いてみると、一行は、わずか馬車2台。
まともな護衛はたった2人で、残りは文官と女、子どもだけだったという。
それで、40人近い盗賊団を壊滅させたのである。
警務隊が現場に駆けつけた時には、10人ほどが熊か狼に喰われ、生き残っていた者は5人もいなかった。
ということは、20人ぐらいは、このアストラの一行に討たれたことになるが、たった二人でそれができるのか?
(アストラの兵はそんなに強かったか・・・?)
・・・という話は全く聞いたことがない。
何か釈然としないものを感じて、再調査を命じたのであった。
「何人かはこれで撃たれて死んでおりました。」
宰相がそう言って、差し出した物は、矢のようなものであった。
「これは矢だな。それにしても短いな。玩具ではないか?」
国王が訝しんで、そう返した。
「臣も玩具の矢かと思いましたが、これで頭を射貫かれていた者もいたそうでございます。」
宰相は話を続ける。
「他の者も、皆、一矢で死んでおりましたか、、致命傷とは思えぬ所を射られてで...おそらくは毒矢かと。」
「こんな武器は見たことがないのう。」
国王がため息をつく。
「東方の国の、弩(ど)と言うものが、こういう矢を使うと、軍の幕僚が申しておりました。」
宰相が答える。
「東方か? アストラならば、入手は容易いか?」
国王は、アストラの王家が、こんな少人数の隊列で旅をさせているのは、最初から盗賊団など脅威とは考えていない・・・ということだと確信した。
そして、もう一度、深くため息をついてから、言った。
「しかし、こんなものが世に出回れば、戦の形そのものが変わってしまうぞ。その武器の調査をさらに進めよ!」
「ははっ!」
宰相は、それで話を切らず、さらに続ける。
「それで、この件に関して、もうひとつご報告がございます。」
「何だ。まだ、あるのか?」
国王は、うんざりした顔でそう言った。
「申し訳ございません!」
宰相は話を続ける。
「アストラの王子殿下一行の馬車でございますが。ここ王都へお立ち寄りになられた時に、それを見た者の話によりますと・・・」
宰相は、その馬車が、おそらく新型で今まで見たこともない形をしていたこと。
人でも牽けるぐらい軽いことや、中で、寝泊まりできることなどを話した。そして、最後に。
「2台の馬車が、全く同じ形をしていたとのことでございます。」
国王は考える。
そんな馬車を何台も作れる技術力。しかも、それを秘匿することなく、ホイホイと外国へ晒す。つまり、これぐらい、隠すことでも何でもない、大したことではない、ということだ。
先ほどの、強力な謎の武器の件と考え合わせると、答えは一つしかなかった。
それに加えて、最近、よく耳にする、「アストラの神子」と噂される王女の存在・・・
(アストラには逆らってはならない。取り入って、歓心を得るべきだ。)
そして、少し前、彼の国にちょっかいを出した国の末路を思い出す。
そう、イルキア帝国である。
皇帝は空位のまま。政治も軍もボロボロで、革命の噂すら聞こえてくる。
もちろん、それはアストラが報復したものではないが、タイミングが絶妙すぎて、ついつい関連づけて考えてしまうのである。
「アストラ王に会うために、何か良いネタを探せ! 良い土産も忘れぬようにな。」
国王は宰相に命じた。
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