2.社交シーズンと放置プレイ
年末てある。
アストラ王国では、もちろん北部の大森林では凍える寒さではあるが、ここ王都では、冬といつても比較的温暖で、北方の国から避寒にやってくる人もいるぐらいである。
そして、年が明ければ、社交シーズンがはじまる。
北方の国では秋を社交シーズンとしているところもあるが、アストラでは、周辺諸国からの避寒客も交えて、冬にシーズンを置いているのである。
まあ、これには、アストラ王国だけでは貴族家が少なく、周辺の国も似たり寄ったりの状態なので、みんなで一緒にやりましょう!的な事情もないわけではない。
これに、大商人の多いお国柄が交わって、駆け引きと権謀術数にまみれた、華やかで、国際色豊かな社交界が繰り広げられるのである。
14月の最終週になって、隣国、ミラトリア王国から王室ご一行が避寒にやってきた。毎年の恒例行事だ。
王族が入れ替わり立ち替わり、最長、4ヶ月ぐらい滞在する人もいる。
まず、第一陣として到着したのは、王妃殿下と王太子妃殿下、それと第3王女殿下、王孫殿下の4人。国王陛下と王太子殿下、第2王子殿下、第2王女殿下は遅れてやって来るらしい。
あちらは、自国のシーズンを秋に追えて、こちらでは、外交や産業振興を目的に社交界を利用する。ただの寒さ避けではない。なかなか抜け目がないのである。
ちなみに第1王女殿下は既に他家に嫁いでいる。
このうち、第3王女殿下は、私と歳が近くて、親しくさせてもらっている。
実は、私たちは未成年なので、パーティーや舞踏会には行けない。だから、社交シーズンと言っても蚊帳の外。大人たちはそれどころではないので、放置プレイ状態にされるのだ。
なので、私たちは自ずと仲良くなった。まあ、後、2、3年もすれば彼女も社交界デビューだけど...
「お久しぶりでございます! シャルナ様。今年もお世話になりますわ。」
「ようこそ! エレノア様。夏はありがとうございました。こちらでも楽しんで行って下さいませ!」
夏は逆に、避暑と母上様の里帰りで、あちらにお世話になっている。
彼女の名は、エレノア。エレノア・ドレ・ミラトリアと言うのが本名である。
ちなみに真ん中の「ドレ」と言うのは身分を表す称号で、私の「アズル」と同じもの。
西方標準語では「デ・ラ」なのだけど、どこの国も、威厳を出すためか、大昔に自国で使っていた古語を使うことが多い。
ミットランド地域の国は「アズル」、西方の中原では「フォン」とか、色々ある。
間違えると大変なので、王族や貴族の子どもは、まず最初に覚えさされる基本知識だ。5歳の子どもでも知っている。
「シャルナ様。お噂は伺っておりますわよ。大活躍なさったとか。是非、お話を聞かせて下さいまし。」
エレノア嬢はにっこり微笑んでそう言った。
私は、父上様たちに話している、「公式ストーリー」を少し盛って聞かせた。
彼女はケラケラ笑って、目を輝かせて、それを聞いていた。
そして、
「本当にご無事で何よりでございましたわ。知らせを聞いた時は、心臓が止まりそうでしたもの。」
彼女は、私の手を、両手でぎゅっと握りしめた。
「ありがとうございます。エレノア様。」
私は、彼女の態度に感謝しながら、話を続けた。
「その時、私を助けて下さった方が、弾みで、私の直臣になって下さいましたの...」
彼女は、口を半開きにしたまま、黙って話を聞いていた。
「今は、この街で薬店を開いて、私も、時々、見習い店員をしていますの。」
「ええーっ! シャルナ様がー・・・?」
彼女は、口だけでなく、目も見開いて、声を上げた。
「よろしければ、今度、そちらへご案内いたしますね。その方をご紹介もしたいので...」
実のところ、エレノア嬢は、エンセル事件の時に、優れた軍略家と凄まじい手練れがシャルナを助けたことは、王宮ルートでかなり正確に知っていた。
しかし、その後日談は知らなかったのである。
「それは本当ですか? ぜ、是非、ご案内下さいませっ!」
彼女は、天才軍師と噂されるその人物と直に会える、ということに、好奇心の限界値を越えさせてしまっていた。
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