3.新年

アストラの王都の年末年始は、14月36、37日と1月1日が必ず休みになるので、3連休となる。


多分、この世界のたいていの国は、同じ暦を使っているので、この辺は同じだと思う。


そして、年が明けた。


王都では、ふだんは鳴らさない夜3鐘を、この時だけは盛大に鳴らすのである。


そして、中心街の店舗は、これを合図に店を開け、新春セール、というか初売りをするのが風物詩になっている。


もちろん、お買い得品満載だ。


人々は、それを待って、中心街へと繰り出し、カウントダウンをする人もいる。賑やかな光景である。


一方、王宮では、新年の合図とともにオールナイトの舞踏会が開催される。


そして、これを以て、今年の社交シーズンが開始されることになるのだ。


タケミナー商会は、薬店という性格上、セール品などはないけど、さりとて、休みにもできず、深夜開店こそしなかったが、通常通り営業していた。


ちょっと寂しいので、開店以来、ずっと売れ残ったままの、私謹製のガラス器や陶磁器をいくつかまとめて、「福袋」と称して並べてみた。


元々が高額商品なので、少々値は張るが、元値に比べると3分の1ぐらいなので、いくつか売れたらしい。


私は、新年のイベント多数で、店へは行けていないのである。


大臣や貴族の参賀、ミラトリア王家との昼食会、王家主催のお茶会、一般参賀・・・と、1月1日はアイドル並の忙しさなのだ。


特に今年は、参賀の人が多かったような気がする。例年なら、私は横で軽く挨拶する程度なのに、今年は妙に話しかけてくる人が多いのだ。これは例の事件が関係しているのか。


夜になって、ようやく解放された。私は、公式晩餐会には出ないからだ。これから先は、しばらく放置プレイになる。


(せっかくのお正月なんだから、お正月っぽいことしたいなー、エレノア嬢も来てることだし...)


私は、前世の記憶から、何か遊びのネタがないか考えてみる。


凧揚げ、羽子板、コマ回し、双六、カルタ、福笑い・・・


知識をたぐってみたが、実は前世の私は、これのどれ一つとしてやったことがなかった。


人○ゲーム、ベイ○レード、○太郎電鉄、オ○ロ・・・


(お正月と言えば、やっぱりこれでしょっ!)


というわけで、ボードゲームのようなものを作ってみることにした。


夜、こっそりワープゲートで母艦へ戻って、研究開発区画へ直行した。


適当な材料がないか物色していて、私はふと気付いてしまった。使えそうな、と言うか、玩具如きに使っても怪しまれない適当な材料、というものがないのだ。


普通は、こういう時、役に立つのは紙だが、この世界の紙の品質は絶望的なまでに酷い! 


玩具にすら使えないレベルなのである。だから、公式文書はいまだに羊皮紙だし、日常的に木簡、竹簡を使う人すらいる。


艦内には紙のような素材は山ほどあるが、当然、それは使えない。


それと、紙が使えないから当たり前だが、印刷技術も未発達だ。手書きでいくとしても、簡単に使えそうな絵の具がない。壁とかに描くための泥絵の具のようなものしかないので、小さいものには使いにくいのだ。


(いずれ、この件は何とかしないといけないな...)


今は、その辺は諦めて、その辺に転がっている素材の物色を続けていると...、薄い木の板を見付けた。


この惑星は、森林資源が非常に豊富なので、何かできないかと色々と試してみたもののひとつである。


厚さ3mmぐらいの薄くて軽い板だが、ものすごく強靱で割れない。吸湿性がないので反ることもない。


色々な色の板があるので、白っぽいのと黒っぽいのを選んで貼り合わせて、3cmぐらいの丸形に切り抜いたのをたくさん作った。


それと、2cm位の厚さの木の板にマス目を彫って、墨を膠で溶いたように見せかけて、黒い塗料を溝の部分に流し込んだ。


オ○ロゲームである。前世では、権利関係を回避するために「リバーシ」とも言っていた、ボードゲームの定番中の定番である。


けっこうインチキはしているが、今のところ、この世界で怪しまれない素材と技術で作れるのは、この辺が限界のようである。


私はこれを5セットほど作って、王宮の私室に引き上げてきた。


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