4.お茶会

翌日。


エレノア嬢が王宮の私のところに遊びに来たので、昨夜、作ったオ○ロゲームをやることにした。


彼女は、アストラに来た時は、王都の貴族街区にあるミラトリア王家の別邸に滞在している。


私があちらへ行くこともあるし、お互いに泊まってくることもある。どちらかの屋敷にいる限り、私たちの行動の自由度は非常に高かった。


この世界には、まだ、外交官制度のようなものは確立していないが、そこは、ミラトリア王国の大使館みたいな役割も果たしている。


そして、アストラ王家の別邸が、ミラトリアの王都にもあった。


「これはどうやって遊ぶのですか?」


エレノア嬢が首をかしげて私に問う。可愛い!


「お互いに白いコマと黒いコマを以て、順に盤上に置いていくのです。エレノア様が白、私が黒とします...」


私はコマを置いて、説明を続ける。


「エレノア様も、白い方をうえにして好きな場所に置いて下さい。」


何手かコマを置いた後、私は彼女のコマを何枚か、挟んで、裏返しにした。


「こうやって、挟めば、相手のコマを裏返して自分の色に出来ます。置ける場所がなくなった時の、自分のコマの数の多い方が勝ちです。」


そして、私たちは、もう一度最初からやり直した。


最初は私が圧勝していたが、何度か再戦を続けていくうちに、たまに彼女が勝つようになってきた。


「これ、面白いですわーっ! 黒と白ではどちらが得なのでしょう?」


彼女は、その後も勝率を上げ、短時間のうちに互角の勝負となってきた。


実は、私は前世で、このゲームがあまり得意ではなかった。パソコンのオマケに付いていたのを、たまにやっていたが、大して強くもないPC側に、いつも血祭りに上げられていたのであった。


気がついたら、エレノア嬢の帰る時間になっていた。


あまりに名残惜しそうにするので、1セット進呈した。


彼女は大喜びで帰って行った。


2日後。


今日は、私主催のお茶会の日。実ははじめての試みである。


これはどうしようもないことだが、私には友人がほとんどいない。王女という立場上、仕方ないことである。


唯一、対等に接してくれるのはエレノア嬢ぐらいだが、あちらも同じような事情を抱えている。


二人でお茶会では、いつもと変わらないので、今までは考えたこともなかったが、最近、私のお友達リストにアロア嬢が加わったので、ちょっと考えてみることにしたのだ。


まあ、私に加えて、ミラトリアの王女まで来れば、相当な気を遣わせることになるとは思うけど、あちらも伯爵令嬢。面識を持つのは決して悪いことじゃないから、頑張ってもらおう。


そういうことで、初のお茶会は、エレノア嬢とアロア嬢、そして、エレノア嬢が誘ってくれたローデン王国の第4王女殿下、アロア嬢が誘ってきてくれた、アストラ最大の財閥のご令嬢、と私の5人となった。


(王女、もう一人増えてるわー! 王女率高すぎっ!)


先に、みんなで自己紹介をした。案の定、アロア嬢と、一緒に来たタチアナ嬢はちょっと固まっていた。


私はアロア嬢に、先日、マキナス邸に孔明と共に招かれたことに礼を述べた。


「先日は、私にまで、お招きの上、マキナス卿からお礼のお言葉をいただいて、本当にありがとうございました。」


アロア嬢は慌てて言う。


「お父様ったら、王女殿下に直接お礼を申し上げるにはあれしかなかった・・・とかもうしまして...ほ、本当に失礼いたしましたっ!」


「失礼なんて、とんでもありませんわ! マキナス卿には、見習い店員にまでお言葉をいただき、感謝しています、と私が言っていたと、お伝え下さい。」


「ありがとうございます! 父にはきつく言っておきます!」


(いや、違うって、私、本当に嬉しかったんだから・・・)


そんなこんなで、お茶会が始まる。


場所は王宮のサロン。小さな丸テーブルが人数分。


メイドがティーカップにお茶を注いで廻る。お菓子は既に容易されている。


「本日は私のお茶会においでいただきありがとうございます! 実は私、はじめてですので、色々と至らぬところもあるかと思いますが、どうかよろしくお願いいたします。」


私はかしこまって挨拶をしてから、さらに付け加えた。


「本日は、お歳も近いことですから、皆様、お友達として接していただきたいと思うのですが...」


私が周囲を見渡すと、王女組の二人が激しく同意していた。


「では皆様。お互いはファーストネームでお喚びになって下さいませ。」


エレノア嬢が口火を切った。


「シャルナ様。あの白と黒のゲーム。うちで大流行りですの。お母様やお義姉様まで嵌まってしまって、そこに使用人まで加わって、勝ち抜き戦みたいになっていますの。」


「エレノア様。それはどんなものですの?」


ミイナ嬢が聞いた。


彼女はローデン王国の第4王女、ミイナ・ド・ローデン。エレノア嬢の中等学院の後輩で13歳とのこと。


ローデン王国はミラトリアの西隣にある、北西諸国と言われる地域の国だ。


「シャルナ様。実物はここにありませんか?」


エレノア嬢がそう言うので、侍女に頼んで、ゲーム盤一式を私の前に持って来てもらった。


これの話題が出るかな?と思ったのでここまで持って来ていたのである。


「こういうゲームです。」


私は、この間、エレノア嬢にしたのと同じ説明をみんなにした。


「シャルナ様。それはどこでお買い求めになられたのですか?」


アロア嬢が尋ねる。


「いえ。これは私が作ったものです。」


「ええっ。シャルナ様がお考えになられたのですかー?」


今度はタチアナ嬢が食いついてきた。

彼女は、アストラ最大の財閥、エンケ商会のご令嬢だ。


アロア嬢の一つ下なので、14歳のはずだ。


エンケ家は貴族ではないが、おそらくアストラで一番のお金持ちである。多分、王家よりも...


「書物で読んだものを、こんなものかな?と想像して作ってみたものです。」


「すごいですわ! シャルナ様。」


タチアナ嬢とミイナ嬢の声が揃った。


「コマの加工とかは、孔明さんの伝手(つて)にお願いしましたけどね。孔明さんは工匠でもありますから、色んな職人に伝手があるのです。」


私がそう説明すると...


「孔明様は何でもおできになるのですねー! 私も、あの薬用石鹸と薬用化粧水のおかげでニキビの悩みから救われました。本当にすごい方ですね!」


タチアナ嬢がそう言うと。


「ええっ? それはどういうことですの? ニキビに効く薬があるのですの?」


今度はミイナ嬢が真剣に食いついてきた。


「はい。タケミナー商会というところで売られています。たしか、シャルナ様がご出資なさっている商会ですよね?」


タチアナ嬢が答える。さすが、大店の娘。この辺の情報には詳しい。


私は、薬用石鹸と薬用化粧水のことを説明した。


軽症であれば、あれだけで十分効果があるので、今は既成薬、いや正確には医薬部外品か?、として店頭販売しているのだ。


ミイナ嬢も、そしてエレノア嬢も興味津々で、お年頃の乙女はこの手の話題にとっても敏感なのであった。


この後、あのゲームをやったり、王都の流行りもの話題とかで、アッという間に時間がすぎた。


帰りにあのゲームを皆さんに差し上げた。


エレノア嬢とミイナ嬢には、今度、タケミナー商会へご案内する約束をして、散会となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る