第5話 遠くへ行きたい

1.提携工房

タケミナー商会は、現在、薬店部門は、昨年の風邪騒ぎがほぼ終息したため一段落。王立お助け処への薬の供給も一時期と比べて落ち着いてきた。


それで今は、薬用洗顔石鹸と薬用化粧水をラインナップに加えたが、これがそこそこ売れている。


元々は、ニキビケア用であったが、肌のコンデスショナー機能が高いので、基礎化粧品のようにも使えるのだ。


物販部門は、例のオ○ロゲームを売り出したところ、これが飛ぶように売れて行く。製造が全く追いつかない。


早くもニセモノが現れはじめたようだが、この世界、大量生産ができないから、あまり影響がない。自家用で自作するのは、むしろ歓迎したいぐらい。


これがこれほど売れているのは、どうやら社交界で話題になっているかららしい。


何でも、ミラトリア国王とローデン国王が戦ったとか? 事情を知らずに聞けば、腰を抜かしそうな不穏な噂まで聞こえて来る。


ひょっとして、あの日、みんなに差し上げたゲーム盤が、親たちのところにまで行ったのか?


そういえば、エレノア嬢が、王妃殿下が嵌まっていると言ってたから、国王陛下が嵌まっても、別に不思議ではないか?


あのゲームが王都中に拡がるのは、もはや時間の問題のようであった。この世界、娯楽が乏しいのである。


そういうことで、商会はかなりまったりとした状態になっているので、その間に、懸案となっている新製品や新技術の開発に勤しんでいる。


私は、このところ、王宮の方は量産型ワタシに任せて、母艦の研究開発区画にいることが多い。


木から製紙原料を作るのは、だいたい目処が付いた。


元々、この世界でも紙があり、当然、その原料を作る方法はあるのだ。ただ、色が黒くて、厚みにムラがあり、脆くて、すぐに朽ちる・・・原料にも、製紙方法にも問題があるようだった。


まず、素材選びが適切でない。繊維質がうまく解れていない。漂白していない。・・・原料については、この辺が問題か?


そして、製紙方法は、環境が合ってない。おそらくバインダーを使ってない。製紙機材のできが悪い。・・・多分、こんなとこだろう。


この辺から詰めて行ったら、方法はすぐに見つかった。


とりあえず、人力で動かす小さいヤツを作った。鋭く尖った歯車を組み合わせた機械である。割り箸ぐらいの木しか入らないが、ハンドルを回せば粉砕できる。


何日も水に浸けておいた木をこれでグチャグチャにして、それを煮込む。さらに、それをこの機械で細かくしていく。細かさはツマミで調節できるようになっている。


こうして、十分に細かく、滑らかになったものを、水で何度も洗うと、かなり白くなってくる。


多分、この工程で雪で晒すと、漂白効果が高まるのではないかと思う。


その時、ふと思った。


(地上にも、工房を確保しないといけないなー)


そうなのだ。たしかに、ここでは原始的な仕組みのものにしているが、それはここの工作機械を使って作ったもの。


めちゃくちゃ精度が高いのだ!


これを本当に世の中に出すには、そこで作れなければ話にならない。


直接、私たちが運営する必要はないが、信頼できて、腕も立つパートナーが必要だろう。


私は、思念波で孔明を呼び出した。


「如何がされました? シャルナ様。」


「地上にも工房を確保したいと思います。技術の検証と、形式的な製造元にするためです。ちょっと考えてくれますか。」


私は頼んだ。AI、とっても便利である。


「判りました。計画を作成いたします。」


数日後。


孔明から提案を受けた。


それによると・・・・・


既存の工房と業務提携の形で関係を持ち、私たちは直接運営には関わらない。


私たちとその工房の共同ブランドを立ち上げて、今後、一部の製品はそのブランドで販売する。販売利益はその工房にも分配する。


業務提携はアストラ王国内での販売についてのみ有効とする。外国でも、適当な提携相手となる工房があれば同様の祖著を執る。


・・・・ということであった。


「工房は、それぞれ得意分野がございますので、複数の工房と提携できるよう考えております。」


孔明は付け加えた。


孔明は、既にこの世界の情報をタキに渡って収集している。ヘタな学者や業界通より、よほど詳しい。


「さすが孔明さん。よく考えていますねー! 後は相手を探すだけですね。」


私が言うと...


「以前、製品開発の相談に来た工房主がおりまして。中堅クラスで、技術的にも問題ないかと...」


孔明が答える。


「判りました。声をかけてみましょう。手配して下さい。」


「かしこまりました!」


こうして、私たちは、提携先となる工房の確保に動き出した。

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