2.新型馬車の衝撃

提携先の候補となった工房主との会合はすぐに決まった。


孔明が、


「ちょっとご相談したいことがあります。」


と声をかけたら、二つ返事でやって来た。


そして、出した条件すべてを一つ返事?で承諾した。


まあ、あの条件なら、私でもそうするけど。


だって、仕事あげます。売れたらヤマワケ。自分は秘密を守るだけ...そりゃ受けるわ。


工房の名前はマルダーロ工房。工房主は、コレム・マルダーロと言う。


工房は、ダウンタウンの外れ、あの貧民街とは逆の方向になる。想像していたより大きい建物だった。


従業員は30人ぐらいいる。木工、鉄工をこなす。青銅鋳物とかもできるそうだ。


孔明は、元々、新型馬車の技術的な検証をこの工房でやらそうと考えていたみたいで、ちょうど良いタイミングで、私からもお願いをしたので、業務提携という形にしたという。


ここで言う、「技術的な検証」って言うのは、この世界で違和感なく受け入れられるか?と言うことだ。できる、できないの話ではない。


共同ブランドは、「TMマルダーロ」になった。この世界の文字はアルファベットではないのだが、表記できないので、ここではTMとしておく。言うまでもなく、タケミナカタのアナグラムである。


業務提携の話が決まった翌日。


私たちは、早速、工房を訪れた。


私は、王宮を量産型ワタシに任せて、こちらに来ている。実は昨日も同席していたのだが、先方は、私の正体に全く気付いていなかった。ワープゲートは本当に便利だ!


「孔明様。例の馬車の艤装が終わっております。」


工房主が、うやうやしく、そう言った。


孔明は、この工房の力量を計るため、新型馬車の内装工事を依頼していたのであった。


工房主は、興奮した口調で話を続ける。


「それにしても、あのお預かりした、薄い木の板と黄銅製の止め金具、それに軽いのにふわふわの布地・・・素晴らしい材料でございますなー!」


「それでは、見せていただけますかな。コレム殿。」


「はい。こちらでございます。」


私たちは、工房の中を案内されて、別の建物へ入った。


「うわーっ! 大きいですねっ!」


私は思わず声を上げた。


目の前には、かなり大型の馬車があった。長さは6m近いか。普通の馬車のような角張ったとみろがなく、丸みを帯びている。空力を考えている・・・としか思えない形だった。


「こんなに大きいのに、馬1頭でも引けるぐらい、軽いのですから驚きですよねえー」


工房主が他人事のように、妙に客観的に言う。そして、ため息混じりに...


「私たちも、目方を増やさないよう、苦労しましたけどね... さあ、中をご覧下さい。」


工房主が、扉を開けて、私たちを案内した。


内部には、1ヶ所だけ大きな窓があり、そこにはガラスが入っていた。この世界では、ガラスはけっこう貴重品で、特にこんなに薄いのは希少である。他は小さな横長の覗き窓のようにのがあって、そこにもガラスが入っている。もちろん窓は開閉も可能だ。


入ってすぐの所には椅子とテーブル。奥にはベッドが2台。その下は、外から取り出せる荷物スペースになっている。


なお、ベッドはここの上部に後2台、前の客室の上部にも2台が引き出して使えるようになっているので、合計6人が車内で眠れる。


車外には、水タンク、荷物スペースが両側面(ベッドの下)と後部にあり、野営用の機材や飼い葉、薪などを収納しておける。また、天井には天窓が付いている。


そして、何と、車輪にはゴムタイヤが使われている!


一見、木製車輪にゴムを巻き付けたように見せかけているが、しっかり細いチューブレスタイヤをはめ込んであった。


2頭立て、6人乗りで、だいたい、1泊2日、無補給で300Kmぐらい走行できるように設計されている感じだ。


この世界では画期的な馬車でアル。


ワープゲートは引き渡し後に取り付けるつもりなのだろう。


(孔明。やるなー! クラウゼンへ行く気満々だねー)


その後、工房の馬を借りて試乗会をすることになった。


工房の中庭までは、職人さんが2人で引っ張り出して来た。まだ荷物も積んでいないので、人間でも簡単に動かせるとのこと。


街を一回りしてみた。かなり目立っていた。


見たこともない形の馬車が突然現れたので、指さす人、追いかける子ども、まるでスーパーカー登場! の図であった。


どうやら独立サスペンションになっているらしい。


この世界にはベアリングもないが、簡易構造の似たようなものを使っているらしい。定期的に交換すれば、使わないよりもはるかにマシだそうだ。


ベッドは小さいけど何とか眠れるだろう。私は野営の経験がないが、同行した職人さんが、テントで寝るよりかは、百倍はマシだと言っていた。


ちなみに、今の試乗では、孔明、ユキ、私、と工房の人が御者を入れて3人乗っているが、極めて警戒である。


そのまま、屋敷の方へ廻ってもらって、馬車を引き取らせてもらった。

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