3.便乗

クラウゼン・メッセの参加申込書を送った。


欲しいスペースの大きさと展示日数、その他、要望事項を書くだけだった。


普通なら羊皮紙を使うところだろうけど、私は試作した紙を使った。ちょっと分厚いけど、何とか実用に耐えるレベルになってきた。


さて、これから父上様と交渉に入る。


最悪、量産型ワタシに留守を任せて、こっそり行く気だが、まずは正面から攻めてみようと思う。


「父上様。私を、兄上様の付き添いとして、クラウゼンまで同行させていただけませんか?」


私は上目遣いの潤んだ目でお願いしてみた。


「どこの世界に、兄の付き添いを妹がする家があるのだ。」


父上様の返事は冷たいものだった。


私は粘り強く交渉する。埒が開かないので必殺の殺し文句を繰り出した。


「私が行けば孔明さんたちも同行しますので、道中は安心だと思いますが...」


父上様はあっさり陥落した。


アストラからクラウゼンまでは馬車で1ヶ月以上かかる。


沿道には宿場町が整備されているので、だいたい1日の行程毎に宿のある街へ着くようにはなっている。


ただし、ミッドランド地域と西方地域の境にある山岳地帯には街が少なく、どうしても野営をしなければならない区間が存在するのである。


そして、そういう場所には出るのだ。アレが...


それはお化けとかではない! それよりもよほど厄介な...そう、盗賊である。それも、大人数のが...


そのために、護衛にかなりの人数を付けなければならず、それが長旅ともなると、それこそ、輜重部隊まで必要になってくるのである。


それが、孔明たちが同行するとなれば、少人数で、かつ安全性が高まるのだから、許可せざるを得ないのであった。


こうして、私のクラウゼン行きが決定したのは、出発予定日の20日前のことだった。


同時に、先遣部隊がクラウゼンへ向けて出発して行った。


私は、対盗賊用として遠距離戦闘用の武器を考えてみることにした。


この世界の武器は、剣と槍と弓が基本である。つまり、遠距離専用は弓しかない。


他に、投石とか投げ槍とかもあるが、使える環境や量に制限がある。


そして、弓は専門的な訓練を受けないと、飛ばないし、当たらない。誰でも使える武器ではないのだ。


だからこそ、遠距離兵器は貴重なのである。


で、考えているのはボウガンと焙烙玉。


最初は、火縄銃と思ったが、火薬の調達や装弾の手間を考えて止めにした。何だか、ミリタリーバランスを劇的に変化させそうな気もしたし...


ボウガンは、私やミニエでも使えるよう、かなり小型にしたので、有効射程は30~40m程度。


通常サイズのものより非力だが、矢を工夫することでそれを補うようになっている。


本体は、松の圧縮集成材を使っている。馬車のホイールにも使っている素材だ。鉄よりはるかに強靱である。


弦はカーボン。金属部品はチタン製である。とても軽い!


矢は、基本的に毒矢を使用するが、他に、不気味な音を出す蕪矢、閃光を発する光矢、爆発して榴弾を撒き散らす爆矢、着弾すると周りを焼き尽くす火矢を用意した。


毒は致死性のものと、一時性のものを使い分けられる。


焙烙玉は、元寇の時に蒙古軍が使ったとされる伝説の兵器をイメージした手投げ弾。


実は焙烙玉自体は、当時の人の事実誤認のようで、実在しないらしい。


小さなビール瓶のような陶器製の容器に、黄リンと火薬を詰めたもので、蓋を開けて投げると、爆発して黄リンが飛び散り、周囲を燃やし尽くす。


黄リンの代わりに小石やガラス片、釘とかを詰めた、手榴弾タイプも用意した。


これらを、けっこうな数、作った。


ボウガンは兄上様の護衛の人たちにも渡しておくつもりである。


焙烙玉は、割れたら大惨事なので、マジックボックスで保管する。


こうして、準備期間はまたたく間に過ぎ、出発の朝を迎えた。



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