4.造船所を見に行く
翌日。
昨夜、あの島で大暴れして、夜更かししてしまったので、かなり眠い。
アンドロイドのみんなは、情報を共有しているので、昨夜のことはすべて、隣で見ていた感覚で知っている。
かなり羨ましそうだった。
孔明が、あの島の上空への監視衛星の射出を具申してきたので、もちろん許可した。
そういうことで、今日は、この街で造船所を見に行くことにした。
造船所は、ポルトナにもあったが、やはり王都であるこちらの方が規模が大きい。
この世界の船は、すべて木で出来ている。本来なら良材に恵まれている北方の国々の方が有利なように感じるが、残念ながら港に適する場所が少なく、海運そのものが発達していない・・・というジレンマがあるのである。
ただ、本当は、厳しい気候風土にある北方の国の方が外、とりわけ南の温暖な土地へ向く力が大きいと考えられるので、何かのきっかけで変わる可能性はあると思う。
私たちは、造船ギルドで紹介してもらった、ゴルドン最大、ということは、おそらくこの大陸最大の造船所を見学させてもらうことになった。
「今日はお忙しいところ、ご無理を申し上げて、申し訳ございません。」
孔明が、案内してくれた造船所長に礼を述べた。
「いえいえ。遠路はるばるお越しになったお客人を粗略には扱えませんよ。それにしても、アストラのお客様とはお珍しい。」
造船所長が応える。
「はい。私は、工匠でもありますので、船にも興味がございまして...」
と、孔明。
「それでしたら、技師たちも呼びましょう。」
実は、クラウゼン・メッセでのタケミナー商会の評判は、様々な分野の工房に及んでおり、それはここ、ゴルドン王国の、しかも造船所という、全く異業種の工房でも同様だったようである。
たちまち技術交流がはじまった。
「皆さんは、西の海の向こうにも、大きな土地があって、色々な国があることをご存知ですかな?」
孔明が切り出した。集まった人々は意外そうな顔をする。
「へええー! それは知りませんでした。そこにも人はいるのですか?」
造船所長が言う。
「もちろんです。私たちより進んでいる国もあるそうですよ。東の果てにある国には、そういった国の色々な物が浜辺に流れ着くそうです。」
孔明が前振りをしたところで、話題を変えた。
「ところで、そういう遠い国へ行ける船をお作りになる気はありませんか?」
「今の我々の船では行けませんか? よそと比べるとかなり大型で安定していると思いますが。」
技師長が言った。
「航海日数が長くなりますし、風読みが複雑になりますので、もっと大きくて、複数の帆を細かく操作できることが必要だと思います。」
孔明がそう言いながら、持参した木箱から何かを取り出した。
「これは、私が考えた船の模型です。」
それは、2枚の三角帆を持つ帆船の模型であった。
実は、孔明オリジナルではない。
量産型ワタシがオーストル帝国で見た新型帆船を参考に、建造可能な技術に置き換えて、再設計したものである。
15世紀頃のヨーロッパで活躍したキャラベル船に似た形をしている。
木と布、縄、銅と青銅・・・すべて実物と同じ材料で作られている。人間国宝級の模型職人と化した支援ロボット、渾身の作品であった。
「うおおーっ! こんな船は今までに見たことがありません!」
技師長が興奮気味に叫んだ。
造船所の人たちは、全員、食い入るように、それを見つめている。
「この三角帆は、風向きが悪い時は使いやすそうですな。風向きがほぼ一定のタフト海ですと、今の四角帆の方が速度は出そうですが...」
技師の一人が言った。
「この大きさだと、竜骨の木材が厳しいですな。この辺には、こんな大きな木がありません。これをどうするか?ですなー。
別の技師が口を挟む。
すっかり、「どう作るか?」という話に傾いている。いかにも、技術者同士の議論らしい・・・
「さすがに、普通の作り方では、これほどの木は滅多にありませんな。小さな木を継ぎ足せば良いと思っています。」
孔明は続ける。
「東方の国に、木の端面に複雑な切れ込みを入れて継ぎ合わせる技術があります。そうすると、一木造りの物より強度が増します。」
孔明は、そう言いながら、帆船模型が入っていた木箱の中から、二つの角材を取り出して、みんなの前に置いた。
「これを、こう組み合わせて...」
孔明は、二つの角材の端同士を切れ込みに合わせて繋ぎ、最後に小さな木の棒のようなものを、その隙間に差し込んだ。
二つの角材はぴったりとくっついて、元から一つの角材であったかのようになった。
孔明は、前にいる技師長に、それを手渡す。
技師長は、最初、それを四方八方から眺め、力を入れて、それを引っ張ったり、折り曲げようとしていた。
「すごい! これなら、たしかに、大きな船が作れますな。」
技師長は、角材を隣にいた若い技師に渡しながらそう言う。
その後も、延々と技術談義に花が咲き、気がつくと、予定時刻を大幅に超過していた。
造船所長が言う。
「どうでしょう。孔明殿。うちの造船所と、技術的な提携をしていただけませんかな。」
実はこちらも、提携工房の話をしようと思っていたところなので、この話は、まさに「渡りに舟」であった。
「できれは、ここにも支店を出していただけるとありがたいんですが... ブランゲルンの王都は少し遠いですからなあー」
造船所長が話を続ける。
「もし、よろしければ、うちの敷地に事務所を置いていただいてもかまいませんよ。見ての通り、空き地だらけですからなー。ここでは、商会の事務所が港にあるのが普通ですしね。」
「ありがとうございます。支店の開設は、少し先になるかと思いますが、その節はよろしくお願いいたします。」
「それでは、本日は、長々とありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそ、貴重なお話を伺えて... どうか、また、おいで下さいね。」
私たちは、そう言って、その場を立ち去った。
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