5.西の島を覗き見しに行く

造船所に行った日の夕方。辺りが暗くなった頃。私たちは、ゴルドン王国を後にした。


南方地域にも興味があるが、先に、西の島に行ってみることにした。


一昨日、量産型ワタシが大暴れした南の島より、こちらの方がかなり大きい。ミッドランド地域と同じぐらいある。亜大陸と言って良い広さである。


島までは、揚陸艇で2時間ほどかかった。帆船だと逆風になるので、1ヶ月は優にかかるだろう。


事前に衛星画像で見当を付けておいた、島の西側にある一番大きい街の近くに着陸した。


山地が3割、平地が7割。それほど険しい山はない。何本かの川が見える。それと、この島には重要な要素がある。


それは、あの精霊の木が生える森があることだ。私がわざわざ見に行こうと思った最大の理由がそれだった。


(なかなか住みやすそうな島だな...)


ただ、街の数は少なく、どれも小さめだ。平地にポツポツと集落が点在し、その周りに少し畑がある・・・という感じである。


あれから2時間も経っているのに、まだ、かなり明るい。



私たちは半時間ほど歩いて、街の中へ入った。


情報が欲しいので、ギルドのような団体がないかと探して廻ったら、ここにも似たような団体が存在していた。


多分、全くの別組織であろうが、ハンターギルドと商業ギルドと同等の事務所があるのだ。


早速、聞き込みを開始する。ここでは、島の辺境部から出てきた一行ということにした。


貴族とか商人とかは、こっちからは言わずに、相手の想像に任せることにした。貴族や商会が存在するかも判らないからである。


聞き込んだ結果、次のようなことが判った。


この島には、「国」という権力構造はなく、血縁や地縁で集まった集団がいくつか存在している。


基本的に、自給自足の経済構造。近傍の島との交易が限定的に行われているらしい。


銅や錫の鉱山があり、金属製品の生産も行われている。


・・・ざっとこんな感じた。


(ここにゴルドンから船が来たら? 先日の南の島と同じことが起きそうだよねー。こっちの方がもっと美味しそうだし...)


私の懸念に反応して。


孔明は、私に、この島を、あの南の島と一緒に直轄領とすることを勧める。


「まず、足がかりを築かせないことが、先進国による蛮行を防ぐ基本です。」


孔明は言う。


「でも、それって、アストラ王国10個分ぐらいあるよー。私、まだ11歳なんだけど。それ、無理じゃない?」


私がぼやくように言うと。


「直接統治なさる必要はないと思います。軍事と外交以外は自治に委ねるべきです。クラウゼンと同じやり方で良いのではありませんか?」


孔明がさもこともなげに言ってのける。


「それでは、計画案を作ってくれますか。私にでもできそうなら、そうします。」


私たちは、その後も街の中を見て廻った。


夕食にはまだかなり早いので、カフェのような店でひと休みすることにした。


こんな中途半端な時間帯にも関わらず、けっこう客がいる。


周囲の会話に耳を傾ける。


ちなみに、この島で使われている言語は独自のもので、私たちの大陸で使われているどの言語とも似ていなかった。


私は、量産型ワタシのおかげで理解できるが、ミニエやパラはチンプンカンプンだという。


人々の話題は、専ら、この街を支配する部族長の後継問題だった。


一月ほど前に、前の族長が亡くなり、その跡目を巡って、族長の息子と、族長の弟が対立しているのだという。


(うわあー。壬申の乱やんか。)


と、私は思ったが、ちょっと様子が違う。どうやら、族長の座を取り合っているのではなく、押しつけ合っているのだった。この島は平和すぎて、利権や欲望というものを忘れてしまっているらしい。


(ここに血に飢えた外国勢力が来たら、ひとたまりもないだろうな・・・)


私は、この島の人たちのことを心底心配していた。


暗くなったので、揚陸艇を発信させて、ゴルドン王国の方へ戻り、南方地域で最大の国、ミンゴ王国を目指した。


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