3.遠い島で起きていること その2

私は、一旦、先ほど、捕らえられた人たちを送り届けた場所へ戻った。


そこには、彼女たち以外に、大勢の人たちが集まっていた。


「あなたさまが、この者立ちをお救い下さった方ですかな?」


一人の老人が私に声をかけてきた。


「はい。私も捕らえられましたので、一緒に逃げ出したのです。」


私がそう言うと、老人は、


「そうでしたか。本当にありがとうございました。」


その後、これまでの経緯を聞いた。


三日ほど前に、あの船が突然やって来て、何人かが上陸し、街の中の店などを略奪しばじめ、止めに入った人を何人か殺して、娘たちを掠ったという。


「ここには兵士がいないのですか? 領主は何をしているのですか?」


私が聞くと、この島には領主のような支配者はおらず、村長のような役割をこの老人が努めているそうだ。


従って軍隊も存在せず、戦うといっても素人ばかり。


しかも、相手は鉄の玉を放つ、謎の武器を使うという。


(まさか銃? 火縄銃ぐらいならあっても不思議じゃないけど・・・)


おそらく、さっき、急を知らせに戻ったから、様子を見に来て、それなりの準備を整えるとして、ここへ攻めてくるのは最短1時間後ぐらいだろう。


(今の戦力でも戦えるけど、脅しが必要だよね・・・)


増援を決意した。


私は、今後の地上戦の増加を見越して、地上戦用の装備の拡充を図ってきた。


航宙艦は元からあったものだけだが、揚陸艦は、取り回しがしやすい、新設計の小型~中型艦を、それぞれ12隻と6隻建造していたのである。


今回は、相手を脅す目的があるので、戦闘ロボットはいつものSサイズではなく、Mサイズ(4m)を4体、それと、航空機と戦車の両方に相当する戦闘デバイスを4機、投入することにした。


揚陸艦もより大きい中型を持ってきたかったのだが、長さが100mほどあって、ここの街中に降りる場所がなかったので仕方なく、50m級の小型揚陸艦を使用した。


すべて、大高地の地下基地からなのでここまで10分とかからなかった。


戦闘デバイスというのは、飛行能力を持つ戦闘ロボットの一種であるが、ヒト形ではなく、揚陸艦艇のような箱形でもない。


どこかカメムシに似た平べったい形をしている。見た目はちょっと気持ち悪い。


大出力の拡散レーザー砲と、背中を羽のように開いて発射する多連装パルスレーザー、腹の部分に格納されている精密誘導弾が主武装である。


30分とかからず、港の前の広場に、Mサイズの戦闘ロボット4体と戦闘デバイス4機を降ろして、建物の後ろ側とか、目立たない場所に待機させた。


揚陸艦は一旦沖に出してから、潜航し、入江の入口辺りに待機させている。


私は、島の人たちと後ろの方で待ち構える。


しばらくすると、小舟が4、5艘、こちらへ向かって来た。


武装した兵士らしき者がたくさん乗っているようだ。


(上陸だけはさせてあげるわ...)


連中がこっちへ来るのを待った。


やがて、上陸をはじめた連中がまず向かったのは、倉庫の隣にある、さっきの建物。すぐに何が起きているのかが判るだろう。


案の定、血相変えてこっちに向かって来た。


「お前たち。我々にこんなことをすればどうなるのか判っているのか?」


リーダーらしき男が怒鳴った。


「船長、あるいは司令官に話があります。その者をここへ連れて来なさい!」


私が言う。


「俺が船長で司令官だ。小娘風情が俺様に何の用だ。」


(コイツが?船長だったのか...)


「あの船の所属と、あなたの官姓名を言いなさい。」


私はあくまでも命令口調でそう告げる。


「お前たちに、それを言う必要はない。ここは我々、オーストル帝国の領土であり、お前たちは全員、我々の奴隷である!」


船長と名乗った男がそう言うと、後ろにいた兵士らしい男が数人、この世界では見たことのない鉄の筒のようなものをこちらに向けた。


私は、島の人たちの中に紛れ込ませていたSサイズの戦闘ロボットと支援ロボットを前に出し、私と4体の戦闘ロボットて盾を作った。


同時に、建物の陰に潜ませておいたMサイズの戦闘ロボットを連中の側面に展開し、戦闘デバイスを前後の空中に待機させた。


突然、鉄の筒から轟音とともに火が吹き出た。


筒から飛び出した何かが、私と戦闘ロボットに当たった。


鉛の玉のようだった。次弾を装填しようという動きはない。


(蒙古軍が使っていたという、鉄砲のご先祖様みたいなヤツか...)


もちろん、私たちには何のダメージもない。


これで鎮圧完了・・・と多寡を括っていた船長以下、25人近い男たちはしばらく様子を見ていたが、やがて驚愕の表情に変わった。


誰も倒れず平然としていたからである。


私はにっこり微笑んで告げた。


「他国に非礼を以て押しかける。これは盗賊か海賊と断定してよろしいですね。お前たちをそのように扱うことにします。」


その時、私の横にいた戦闘ロボットと支援ロボットが一斉に手にしていたパルスレーザー銃を発射した。


一瞬で10人ぐらいが倒れた。鉄の筒を持った者は全員姿を消した。


私は、大きい方の戦闘ロボットで連中を取り囲ませた。


今の一撃で戦意を消失しつつあった男たちは、これによって恐怖心が爆発した。


一人の男が、突然、走り出して、小舟に乗り込もうとしたが、空中から戦闘デバイスの拡散レーザー砲を喰らって、舟ごと蒸発した。


その時、1機の戦闘デバイスから、船上に不穏な動きあり・・・との通信があったので、撃沈しないように念押しして、攻撃を許可した。


戦闘デバイスは、船上の大砲らしきものに向けて、拡散レーザー砲を超低温で発射した。


拡散レーザー砲は通常、8000度ぐらいの高熱で一定の範囲を焼き尽くすが、ここでは可能な限り低温...250度ぐらいの温度で、周囲にいた人間にⅢ度の熱傷を与え、大砲の中の火薬を引火させて、砲身はその場で破裂した。


大砲の自爆は陸からも見えた。


「た、助けてくれ! ふ、船を沈めないでくれ。こ、降伏する。」


船長と名乗った男が叫んだ。


「降伏? 盗賊や海賊はその場で処刑・・・というのが決まりではありませんでしたか? 何か勘違いなさっているのではありませんこと?」


私は意地悪くそう言う。


「いや。我々は帝国海軍の軍人だ! 盗賊の類ではない。この度の非礼は詫びる。この通りだ!」


男はその場で平伏した。他の者たちもそれを真似た。


「では、略奪と殺人、人身売買目的の誘拐に対して、それを犯した者の処刑と、賠償金の支払いを求めます。」


私がそう言うと、


「それは、あそこの建物にいる者たちが勝手にしたことだ。引き渡すのでそちらでやってくれ。」


船長が言う。


「いいえ。あなたたちが軍人と自称するなら、それらは立派な軍律違反。あなたたち自身の手で行わなければなりません。」


私がそう言うと、船長は渋々承諾した。


私は支援ロボットに命じて、建物内でのたうち回っている男たちのところに、ガス弾の中和剤を撒布することを命じた。


男たちは、ようやく痛みが取れてホッとしたところで、いきなり、岸壁に連れて行かれて、味方によって首を跳ねられていった。


泣き叫ぶ声、怒鳴り声、色々な声が入り交じる。


島の人たちは、それを遠巻きに眺めていた。家族を殺された人もいるだろうが、これで少しは気が晴れただろうか。


賠償金は残念ながら、大した物は取れなかった。そもそも、交易に来たのではなく、略奪しに来たのであるからしようがない。


仕方ないので、船員たちの個人的な財貨や、武器を置いて行かせた。金目の物は殺された人の家族へ。剣や弓は村長に。鉄砲モドキと大砲モドキは私たちが接収した。


死体はすべて持って行くよう命じた。すべては自分たちがしでかしたことの結果である。自分で撒いた種は自分で刈り取るのが原則だ。


私が、彼らに罪人の処刑を命じたのは、この船長の責任を問うためであった。


この男は、生かして国に帰さないといけないので、ここでは見逃してやったが、そもそも、一番悪いのはコイツなのだ。


意味も分からぬまま、突然処刑された者の家族や、同僚たちは、この船長のやり方をどう感じるのか...


遺体は、船上で水葬に処されるだろうが、その時また、そういう感情が蘇って来るだろう。


「国に帰ったら、あなたたちの皇帝に伝えなさい。他国には礼を以て接するが良い。そして、決して次はない。と・・・」


私はそう言って、船長たちを見送った。


私たちが立ち去った後、また戻って来たら鬱陶しいので、船は揚陸艦で適当なところまで曳航した。


船員を半分以上喪っているので航海は大変だろうが、せいぜい頑張ってもらおう。


「あの連中、当分の間はやって来ないと思いますが、また来て、乱暴を働くようなら、これを使って下さい。」


私は島の人たちにそう言って、ボウガンと焙烙玉を渡した。


あの、クラウゼンへの旅で、盗賊対策に使った物である。


これなら素人でも女性でも扱える。多分、あの連中が持っていた鉄砲モドキよりも射程が長いと思う。


「何から何まで、本当にお世話になりました。島民一同に成り代わりまして、心より御礼申し上げます。」


事実上の村長を務める老人がそう言って、さらに続ける。


「それで、私どもはあなたさまのお名をまだ伺っておりません。もし、お差し支えなければ、お教え下さいませぬか。」


「私はシャルナと言います。この地のはるか北にある大陸の者です。また、ご縁がありましたら交易に参らせていただきますね。」


私はそう答えて、別れを告げた。


「それでは皆さん、どうかお元気で!」


「ありがとうございましたー!」


「お元気でー!」


「シャルナ様。また、お越し下さいねー!」


私は小型揚陸艇で、再び。オーストル帝国へ、事の顛末をたしかめるために向かった。


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