2.遠い島で起きていること その1

「どうしたのですか?」


今は、量産型ワタシになっている私が尋ねると、島民は苦々しげに言った。


「大きな船に乗った連中が突然やって来て、島の者を何人か殺して、女たちを掠ったんだ。お前も早く逃げろ。」


その人が言うには、まだこの辺にまでは来ていない。こことは少し離れた、港のある、ちょっと大きな街の話だと言う。


私は、家族を探す…とか適当なことを言って、その人と別れて、そっちの方へ向かう。面倒なので、道なりには行かず、間にある山を越えて行く。


港に着くと、入江の中ほどに、私がこの世界で見た中では最大?と思われる、大きな船が停泊していた。


2枚帆の構造船だろうか? 私は詳しくないのでよく判らないが、大航海時代初期ということなら、そんなものか。


街は静かだった。港らしい喧噪はどこにもない。


念のために、待機させていた揚陸艇を呼び寄せて、近くに潜ませておくことにした。


私は、島の人を探して街の中を歩いていると、男が声を掛けてきた。


身なりからして船員、いや、この間、ポルトナで見た海賊に近いか...


「よう。娘! こんなところを一人で歩いていると危ないぞ! こっちへ来な。仲間がたくさんいるぞ。」


私の肩に手をかけて、腕を掴みに来る。


「やめてー! 何するのー!」


私は叫んでみたが、捕まえた手を離すことはない。


(ここは、連れて行ってもらった方が好都合だわ・・・)


心の中でニンマリして、そのまま男に連れ去られた。


連れて行かれた先は、岸壁にほど近い粗末な倉庫らしき建物だった。そこには、10人ぐらいが閉じ込められていた。下は私と同じぐらいの10歳前後、上はユキぐらいの若い女性ばかりである。


明らかに違法な人身売買を目的としたものだろう。


最初は、双方の話を聞いて、話し合いで解決できないかと思っていたけど、これは完全にアウトである。だいいち、私自身を捕らえて売り飛ばす気満々なのである。


(こいつら、絶対に許さんっ!)


私は、島民の側につくことを即決した。


本来なら、救出作戦は夜を待って行うのが定石だが、何せ、私は今、ゴルドンの王都の宿屋にいるわけで...


そこでじっと待っていることもできないので、電撃戦で行くことにする。


私は、揚陸艇から、あるだけの戦闘ロボットと支援ロボットを出動させ、この倉庫の裏手で待機させる。


それと同時に、縛られている縄をぶち切って、他の人たちの縄もちぎり、繋いである鎖も外した。


そこにいた人たちは、私が、まるで焼き菓子か何かをつまんで粉々にしていくように、鎖や金具を壊していくのを驚いて見ている。


脱出の準備が整ったところで、外に待たせていた戦闘ロボットに倉庫の裏の壁を超音波振動剣で切り抜かせた。


軽いブーンという音とともに、人が楽に通り抜けられる四角い穴が綺麗に空いた。


「さあ、ここから脱出しますよ! どなたか、道案内をして下さい。」


一人の女性が先頭に立って歩きはじめた。2体の戦闘ロボットが斜め後ろに付き、後方に私が付く。支援ロボットは、倉庫内に残した。


支援ロボットは戦闘用ではないが、元々は同じ設計のロボット、簡易型汎用ヒト型デバイスである。


この世界の武器程度では傷すら付けられないだろうし、武器もある程度は使える。ここでは、パルスレーサー銃とビームサーベルをを持たせてある。


捕らえられた人たちを安全な場所に送り届けた後、倉庫の裏に廻しておいた揚陸艇に戻って、私仕様の超音波振動剣を装着し、マジックボックスからマジックバッグを取り出した。


バッグを袈裟がけにして、倉庫の隣にある建物へ向かった。


そこには、男たちが10人近く板。さっき、私を捕まえて、ここへ連れてきた奴もいる。


(こいつらが、あの船で来た連中ということか。)


私は、扉をいきなり開いて、大声で叫んだ。


「船長、もしくは司令官に話があります。呼んで来なさい。」


さっきの男が私を見て、驚いて声を上げた。


「お前。さっき、縛って、閉じ込めたはずじゃないかー! 何でここにいるんだ。」


別の男が言う。


「ガキが何を生意気なこと言ってんだよ。大人しくしてりゃ良いものを...」


さっさと捕まえろー!」


何人かの男が掴みかかって来たが、前に出てきた手を先着順に手で払い落とす。」


「ばきっ。グキ。ぐしゃっ!」


あらぬ方向へ向いてしまった腕を呆然と見つめる男たち。


一人の男が外へ駆けだしていく。おそらく、停泊中の船に知らせに走ったのだろう。


私は、それを追わずに、マジックバッグから、例の暴動鎮圧用のガス弾を取り出し、男たちの頭上に放り投げた。


「パカッ!」


軽い爆発音の後。


「ぎゃああああーっ!」


建物中に、転げ回る男たちの絶叫と呻き声が響き渡った。


ここまで30分足らず。速攻である。



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