第9話 海は広いーなー大きいーなー
1.ゴルドンの王都で大航海時代の夢を見た
ゴルドン王国の王都に着いた。
ここもポルトナと同じく港町である。ひょっとしたら、世界で最も海に近い王都かも知れない。
普通、この世界では、海の近くに街を作っても、風害やら塩害やらでロクなことがないので、街は内陸部に作るのが常識的なのである。
ただ、ここはタフト海の、ちょうど、巾着の口の部分に位置していて、色々な意味で好都合なのであった。
タフト海は内海なので海上交通が盛んであることに加えて、「巾着の口」、つまり対岸との距離が最も短いことで、タフト海沿岸諸国のみならず、南方地域も含めた、一大物流拠点となっているのであった。
そういうわけで、この街は物資に溢れている。しかも、南方地域の、今まで見たこともないような珍しい物があるのだ。
前に、ヒルダ嬢が言っていたショコラや、コーヒー豆も、ここではごく普通に存在する。
ただ、南方地域は交通の便が悪い。
途中にジャングルがあり、そこには、猛獣や毒蛇、毒魚、毒虫、風土病・・・と、この世のありとあらゆる凶悪と災厄に満ちているのである。
現地に行けば、もっと珍しい食べ物があるらしいが、とても運べないという。
(南方地域へ行ってみたいなー!)
私は、好奇心が入道雲みたいにもくもくと沸き立つのを感じながら、今日のところは、先日、ポルトナで食べ損なった、海の幸を堪能することにした。
「ああー、食べた、食べた! もう入りません。」
と、私。
「美味しかったですねー! 姫殿下。」
と、ミニエ。
「私はもう動けません!」
と、パラ。
結局のところ、真新しい料理方法、なんていうものはなかった。
エビとカニと、ちょっと大振りの二枚貝の焼いたのと、何か魚と海草のスープで大満足してしまったのである。
エビやカニ、貝は、食べる時に、塩とレモンみたいな柑橘系果物の絞り汁をかけるとものすごく美味しかった。
スープは、何か前世の記憶で、海辺の民宿で食べた潮汁を思い出した。多分、味付けは塩だけだろうけど、魚と海草の出汁がよく出てて美味しかった。
なお、この世界では、生の魚介類は絶対に食べない。寄生虫がいることは広く知られており、調理そのものにすら忌避感があるぐらいである。
この辺が、魚料理が発達しない要因の一つかも知れない。
その日は宿屋で泊まった。
夜、寝るには少し早いが、私は、ベッドで横になって、意識を、量産型ワタシに移した。
最近、出番が減っている量産型ワタシは、実は今、別の大陸の調査に出ているのである。
あちらは朝方のようであった。
この惑星には、私たちが今いる大陸の他に、後、三つの大陸があるのだが、そのうちの真裏に位置する一番小さな大陸の西岸。今から揚陸艇に乗り込むところだった。
アストラから見て南東方向の南半球になる。
私たちの大陸よりもやや進んだ文明レベルを持っているらしいが、今まさにそこは大航海時代を迎えようとしているそうだ。
そこから西方向に大きな島が発見されたのである。
元々、その大陸が、この惑星で最も小さい大陸であったものの、居住可能なエリアが多いため、人口が多く、新天地の発見が、人々の外への膨張に火を点けたようだ。
その島は、私たちの大陸から見ると、アストラ王国のはるか南方、大砂漠の南側に位置するカンドール藩王国の南南西ぐらいの海上に位置することになる。
遠からぬうちに、二つの文明が接触するのは必定と言えよう。
量産型ワタシは、まさに今、その島の様子を見に行こうとしていたところだったのだ。
文明レベルが高い、西方、ミッドランド、東方地域では、軍事力もけっこう高いので問題ないとは思うが、未開の地が多い東南地域や南方地域だと植民地化されかねない。
(そろそろ、こっちの大陸にも船の技術を弘めるべきかなー!)
ちなみに、残り二つの大陸は、西方地域と東方地域の中間辺りの南北に分かれて存在する。
もう一つの大きな島は、スーレリアの真西方向にある。
と、なれば、今も、沿岸ながらも海運を手がけ、良港にも恵まれている、スーレリアとゴルドンが圧倒的に有利になりそうだ。
前世の記憶にある、西欧の列強による蛮行を許さない枠組も必要なようである。
そんなことを考えているうちに。揚陸艇が離陸した。以前、私たちが使っていた一番小型の機体である。
今は、戦闘ロボット2体と、サンプル採取などのために、支援ロボット2体が同行している。
船だと風向きにもよるが半月ぐらいかかるらしいが、揚陸艇を弾道軌道で飛行させれば15分程度で到着する。
生身の人間を乗せていないからこそできる芸当である。いかに重力制御で動いているとは言っても、小型の機体では完全に重力加速度を中和することができないからだ。
量産型ワタシの私は、島の端っこにある人気のない砂浜に降り立った。
上空から確認しておいた集落の方向へ一人で歩いて行く。
ちなみに、この惑星で使用されている言語と文字はほぼ調査済みである。まず、そこを押さえておかないと、情報収集もクソもないからである。
アンドロイドたちは既に対応済みで、私は量産型ワタシと記憶を共有した時点で習得したことになっている。
集落の人と出会ったので、言葉を交わす。
この島の人々が話す言葉は、ガンドール藩王国の古語に似ていた。顔立ちからしても、あの辺りの人々に近い気がする。
向こうは少し警戒しているようだが、言葉が通じる上に、私の容姿が小娘以上の何者でもないので、いきなり攻撃されることはない。
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