4.クラウゼン高等学院見学会
兄上様の入学式の翌日。
クラウゼン高等学院の見学会があった。
これは、新入生と父兄を対象に、学院内の様々な施設や、学院生活の一端を紹介する催しである。
また、在校生にとっては、日頃のクラブ活動の内容や成果をここで紹介して、新入部員の勧誘を行うという側面もある。
今日は、いつもの6人で、ここへやって来た。
兄上様は、エリザベート嬢を含む何人かと、早速、仲良くなったらしくて、そちらのグループで行動している。
学院の中では、護衛は原則、不要である。
帯剣は禁じられているし、学院の警備員がたくさんいて、万全の警備体制をしいているからだ。
この学院は、兄上様が入学した政経学科をはじめ、商業、軍略、医薬、工匠の五つの学科がある。
クラスの定員は30人。政経と商業はA~Dの4クラス。他はA~Bの2クラスで構成されており、3学年合わせて、1260人の学生が在籍している、この世界では最大級の学校である。
私たちは、普通の教室から、色々な専門教室を見て廻る。
薬の調合室や実験室らしき部屋、色々な工作器具が並ぶ部屋、鍛冶場なんかもあった。
続いて、体育館らしき広い空間があったり、闘技場、射的場・・・などを経て、食道へ辿り着いた。
食堂では、普段、学生に提供されているメニューが私たちにも食べ放題で提供されていた。
私は、鶏肉と根菜のシチューとチーズ、ソーセージ、ライ麦パンを食べた。ブランゲルンの名物らしい。
食後にハーブティーでまったりくつろいだ後、研究棟へ向かった。
ここは、主にクラブ活動の部室が集まっている建物だ。
新入部員を勧誘するため、展示をしたり、デモンストレーションをしたり、ここが、一番、盛り上がっているように感じた。
各専門学科に沿ったクラブが多いが、どの学科の学生が入部しても良いという。
だから、政経学科の学生が軍略系のクラブに入ったりするのは普通らしい。
廊下を歩いていて、最初に目に付いた「戦略将棋研究会」というクラブを覗いてみた。
将棋と言っても、前世の記憶にある将棋やチェスのようなものではなく、戦略シミュレーションのボードゲームによく似たものだった。
ルールはかなり複雑そうで、相手と、ジャンケンのように指を折った手を出し合い、指の本数の合計で、当り判定、効果判定などを決めているようだった。
コマは粘土製らしい。盤面は敷物のようなもので、幅の広い織り糸を使って、方眼目を表し、何かの染料で、山や川、平原、森、街を描いてあるようだった。
「これはどこかで売られている物ですか?」
私は学生の一人に尋ねてみた。
「いいえ。すべて自分たちで作りました。ルールも自分たちで考えています。」
学生は、子どもの私にも、丁寧に教えてくれた。
「あの敷物のような盤もですか?」
私はさらに問う。
「はいそうです。木の皮から作った糸を小さな機織り機で織った物を繋いでいます。」
学生は説明してくれた。
「すごいものですね。まるで、本当の軍隊みたいです。あなたは軍略学科の方ですか?」
私が尋ねると。
「お褒めいただきありがとうございます。私は、政経学科です。軍略学科の者もいますが、色々な学科の者がおります。」
とのことであった。私たちは軽くお礼を言ってそこを辞した。
次は、「萬国甘味研究会」というたいそうな名の付いた研究会。要するに、世の中のありとあらゆるお菓子を食べ、作り、また食べる・・・という、女子には夢のようなクラブ活動である。
ここにはミニエとパラが食い付いた。
この世界では、甘味料、すなわち、砂糖、蜂蜜、糖蜜とかは貴重品である。
すべて生産量が知れているからである。中でも、偶然の産物でしかない蜂蜜は秘薬扱いの代物である。
それが、ここでは、小さいかけら程度とは言え、全品、試食し邦題! 食い付かないわけがない。
私は、半透明の不思議な菓子を口に入れた。人差し指の先ぐらいの大きさで、周りにはガラス粉のようなものをまぶしてある。
ものすごく甘い! まぶしてあったものも砂糖だった。
前世の記憶が蘇る。
(これ。色はちょっと茶色いけどグラニュー糖だわ。中身は寒天? たしか琥珀糖って言うんだったっけ・・・)
私が驚いているのを見て、女子学生が先に声をかけてきた。
「それは海の中に生えている草を煮て固めたものです。周りは大根から作ったお砂糖ですよ。」
子ども向けに、かなり端折った説明だが、寒天とグラニュー糖に間違いなかった。
「その草は、どこの海でも生えているのですか?」
私が聞くと、女子学生が、
「いいえ。ゴルドン王国の西岸のごく一部でしか採れないようです。お砂糖の大根はタフト海沿岸の国で採れますよ。」
どうも、先手を取るのが好きな女子学生である。
ちなみに、砂糖大根とは言うが、こちらはナデシコの仲間で、普通の大根とは別種の植物である。
アストラで見かける砂糖は、黒砂糖のようなもので、明らかにサトウキビを原料としたものであった。
大砂漠の東南にある国々から来るもので、私はてっきり、この世界にはテンサイ糖は存在しないものと考えていた。
(世界をもっと見て廻らないといけないなー)
私はつくづくそう思った。
私たちは、研究棟で、その後もいくつかのクラブを覗いた後、校舎の外に出た。
そこの中庭では、剣術の模擬試合をやっていた。
大勢の見物人が取り囲んでいる。パラが人垣の中へ入って行ったので、私たちも後を続く。
そこでは、二人の女子学生が模擬戦をやっているのかと思いきや、それは、戦いをイメージしたダンスのようなものだった。
服装も華やかで、それはもう、エンターテイメントの域に達した、と言って良いものだった。
パラが食い付いて離れない。
私は、ふと、違う方向へ目を向けると、あちら側では、馬車のようなものを何台か並べているところがあった。
私は、パラにそこで見ているよう言ってから、そちらの方へ向かった。孔明も付いて来る。
馬車を並べた所は、「乗物研究会」と称するクラブの展示コーナーだった。
色々な乗物を考え、作るクラブとのこと。
みんな一人か二人が乗れるぐらいの、小型のものばかりだが、その中には、私たちの馬車と同じく、中で寝泊まりできるようにしたものもあった。
こちらは、木の骨組みと布張りで軽量化を図ったものだった。
さらに向こうで、ちょっと人だかりができた所では、3人乗りの小さな箱車を人が押している。
箱車の下には何とレールが敷かれていた。鉄道である。
まだ、鉄の棒を木の上に留め付けただけで、直線しかないようだが、人一人で楽々、3人乗りの箱車を動かしている。
人だかりは、試乗を待つ人たちだった。
孔明が私に許可を求めてきたので、それに頷くと、
「私たちは、あなた方に、様々な材料を無償提供をする用意がありますが・・・・」
孔明がそこにいた学生の一人に声をかけた。その学生は、代表者らしき学生を連れてきて、ひとしきり、話をした。
私たちは、アストラの商会の者で、支店が王都にあることを話して、彼らの技術開発を支援することを約束した。
その後、私たちは、どう見てもプロレスにしか見えない「体術研究会」や「馬術研究会」、「園芸部」とかを見て、アストラの別邸へ戻った。
なんだか、一日中、学園祭に行っていた気分であった。
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