5.クラウゼン・メッセ開幕前夜

いよいよ明日、クラウゼン・メッセが開幕する。


私たちは、ホール内の、タケミナー商会へ割当てられた区画へ展示物を搬入している。


業界では、これをタテコミと言うが、ブースを設営するわけでもないので、何かを建て込むことはない。


私たちの展示物は、馬車が2台と、製紙材料を作るミル、紙すき機、木版印刷機。それと、紙のサンプルと、各種印刷見本といったところ。


製紙、印刷関係の機材は、折りたたみ式のテーブルに並べて、馬車は直置きである。


一角に、板で囲んだスペースを二つ作り、片方には、折りたたみ式のローチェアとテーブルを置いて商談コーンーとし、もう片方は控え室と物置スペースにした。


かなりの搬入物だが、私たちのてんじ物は馬車である。


中に積み込んで、直接、ここまで持ってこれるので、私たちだけで楽々作業できた。


今回、孔明は、馬車をもう1台作った。


こちらは、1頭立ての小型馬車。いわゆるクーペだ。


私が、王都のケッヘン子爵邸へ訪問する際、いつもの馬車では大きすぎて、何か気後れする...と言っていたので、作ることにしたとのこと。


基本、二人乗りで、真っ赤な流線形のボディ。あのイタリアの有名スポーツカーを彷彿とさせる。


圧縮集成材の薄板を、熱で曲げ加工してある。


塗料は、東方の漆に似た木の樹液を使っている。


いわゆる朱漆である。ただ、必要分の採取が間に合わなかったので、不足分は、分子合成で補っている。ちょっとインチキである。


普通はオープンカーで、雨や寒い時は、布製の幌をかけるようになっている。


私の方は、機材だけ展示しても、何のこっちゃ?なので、実演をメインにしている。


原料の木を粉砕、すり潰すところ。


紙すきをするところ。


木版で印刷をするところ。


料理番組のように、時間のかかる部分は、予め用意したものを使って見せるようにした。


あと、私たち、女子全員はお揃いのユニフォームを用意した。


まあ、前世の記憶にある、こういう場所のユニフォーム・・・ミニのタイトスカートとかだと、この世界の感覚だと、来場客を怪しい世界へ連れて行きそうなので、騎士服みたいな、ちょっと凜々しくて、可愛いのにしてある。


それと、私たちの区画を少し削って、ケルナー工房の展示区画を用意してあげた。


掛け時計は高い壁を作るのが大変だし、大型壁掛け時計のシェアは、ブランゲルン王国ではほぼ独占状態ということで、今回は小型の時計中心の展示にしている。


目玉は、揺れに強い馬車用時計と、置き時計タイプのからくり時計である。


どちらも、富裕層には人気を集めそうに気がする。


そして、翌日。ついに、クラウゼン・メッセが開幕した。

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