3.拠点をどちらにするか・・・?

私は今、大いに悩んでいる。


それは、タケミナー商会の支店と、今度、新たに立ち上げようと思っている出版社の事務所をどこに置こうか?ということである。


出版社の方は、クラウゼンの方が圧倒的に便利なので、それで決まりとして、問題は支店の方である。


たしかに、支店もクラウゼンにまとめてしまえば、同じ建物を共有すれば良いし、何かと都合は良い。


ただ、アストラの別邸との鉢合わせを避ける意味と、商談の場所としての適性からは、王都の方に軍配が上がる。


そこに来て、今度は、ケッヘン子爵から、自領の屋敷を差し上げる・・・というお話をいただいた。


ケッヘン子爵領は、決して広くはないが、王都とクラウゼンの中間辺りにあり、幹線の街道からは外れるものの、いずれへも、鐘二つ程度で行ける好立地にあるのだ。


ヒルダ嬢の往診の折に、何かのはずみで、こちらでの拠点の場所で悩んでいる・・・みたいな話を、子爵にしたところ。


ならば、使っていない屋敷がいくつもあるので、どうせ使わなければ朽ちるだけだから、良ければもらってくれ。ということになったのである。


私は、アストラへ一度戻ってしまえば、次、王女シャルナとしてこちらへ来れるのは、いつになるか判らない。


なので、ワープゲートでお忍びで来ようと考えると、ついつい、場所選びに迷ってしまうのである。


私はしばらく考えて、結論を出した。


(出版社はクラウゼン。支店は王都。宿舎はケッヘン子爵領。・・・ということにしておこう。)


実のところ、ワープゲートで、母艦やアストラの支店へ戻ってしまえば、こちらで寝泊まりする必要はないので、屋敷は不要なように感じるが、こちらに滞在場所がないというのは、馬車の保管ひとつ取っても、かなり不自然なので、やはり必要と判断した。


ということで、私たちは、まず、クラウゼンに出版社の事務所を確保した。


1階が書店になっている3階建の建物の2階部分である。とりあえず賃貸物件とした。


次に、王都でタケミナー商会の支店の店舗を確保した。


中心街から少し離れた商業区域の端っこ辺りの小さな2階建ての建物である。


こちらは買った。144面カットのダイヤモンドとの物々交換で交渉成立である。


王都の北側なので、ケルナー工房へも、クラウゼン、ケッヘン子爵領とも割と近くて、私たちには、むしろ便利な立地である。


ケッヘン子爵領の屋敷は、領都の中心街から少し外れた、小ぶりな邸宅をもらった。


タダでもらうのに、かなり恐縮したが、子爵は大喜びで、ヒルダ嬢も、また、一緒に遊べると、嬉しそうにしていた。


ちなみに、ヒルダ嬢は、長い療養生活を紛らわすため、物語を書くのが得意であった。


書いたものを一度、読ませてもらったが、それがけっこう面白い! 私の出版社から出さないかと、とお誘いしたら、大乗り気であった。私の出版社の、専属作家第一号である。


こうして、ブランゲルン王国での足場は、着々と、進んでいくのであった。


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