2.兄上様の入学式
私たちがクラウゼンに着いて、2週間と少し経った今日が。
兄上様の入学式である。
兄上様は、クラウゼンに着いてからの猛勉強のおかげで、クラス分け試験では3番目と、首席は逃したものの、堂々のAクラス入りを果たした。
アストラ王家のメンツを保ったのであった。
それで、私は兄上様の父兄、いや、正確には、父妹?として、入学式に列席することになった。
本心を言えば、兄の入学式など、別にどうでも良いのであるが、「付きそう。」と言って付いてきた以上、義理は果たさないと・・・という責任感だけのことであった。
学院内は、明日の見学会で見せてもらえるし・・・本当にどうでも良い行事であった。
しかし、学生たちは別として、列席者側は、誰が誰やら判らないものの、見た目は、いずれも、それなりの身分の人たち
のように思えた。
ここには、私と、別邸の長をしてくれている官、そして孔明が護衛約として付いてきている。
式は。厳かにはじまった。
兄上様は主席ではないので挨拶することもなく、何の緊張感もないなあーと思っていたら、いきなり、ブランゲルン国王が挨拶に出たのでちょっと驚いた。
(へえ-。この人が王様かー。ミラトリアの叔父様と同じぐらいかな...)
私はぼんやり眺めながらそんなことを考えていた。話は何も頭に入っていない・・・
延々と、色々な人の話が続いて、ようやく新入生代表の挨拶があった。
何と、首席は女子だった! ここブランゲルン王国の南にあるアルタニア王国の姫君だそうだ。名前は・・・? 咄嗟には思い出せない...
たしか、アルタニアはタフト海に面した良いところだと聞いたことがある。
(帰りは、南周りルートで帰ろう!)
私は、まともやどうでも良いことを考えていた。
式は、滞りなく済んだ。
兄上様たちは教室に移動して行った。
私たちは、兄上様を待つため、しばらく控え室で待機している。
そこへ、一人の男性が不意に近づいて来た。すごい服装をしている・・・と思ったら、さっき壇上で挨拶してた王様ではないか。
「突然で申し訳ないが、アストラの姫殿下ではありませんかな?」
男性はそう切り出した。
孔明は静かに後ろに控えている。
ここでは帯剣は許されていないが、孔明にとっては、それは全く関係ない。
「はい。私は、シャルナ・アズル・アストラでございますが。」
私は答えた。王様とは判っているが、相手がちょっと不躾な態度だったので、あえて礼は取らない。
「これは失礼した。私は、ウィルヘルム・フォン・ブランゲルン。一応、この国の王ということになっております。」
彼は、にっこり笑って、戯けた表現でそう言った。
そして、今の非礼をもう一度詫びて、今度、王都に来られたら、是非、王宮にお立ち寄り下さい、と言って、立ち去っていった。
何とも身軽な王様である。大国の王、という固定観念が呆気なく崩れていった気がした。
ふと、気が付くと、私の隣で、同行の官が固まっていた。
しばらくすると、兄上様が戻って来た。
兄上様の隣には、何と、女子学生がいた。
(兄上様。ちょっと、手が早すぎではありませんかー?)
と思って、その子の顔をましまじと見たら、さっき、新入生代表で挨拶してた子だった。
「兄上様。そちらの方は?」
私がそう言うと、兄上様は。
「こちらは、アルタニアのエリザベート殿下だ。私の、付き添い人は妹だ。とお話したら、是非、お前に会いたいと仰ってなー...それで、お連れした。」
「シャルナ姫殿下。レムニス殿下と同じクラスになりました、エリザベート・デ・ラ・アルタニアと申します。お目にかかれて光栄ですわ!」
エリザベート嬢は作法に則って華麗に挨拶をした。
「シャルナ・アズル・アストラでございます。こちらこそ、お目にかかれて光栄でございます。我が兄をよろしくお願いいたしますね。」
私はそう言って、返礼をした。
その後、ひとしきり雑談をした。兄上様のクラスには、なかなかすごい人たちが揃っているらしい。
そして、兄上様の政経学科以外のクラスには、親が偉いのではなく、既に本人が偉い・・・という人がゴロゴロいるらしい。
(明日の見学会が楽しみだなあー!)
私は早くも明日のことを考えていた。
その日は、そのまま、屋敷へ戻った。
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