第7話 クラウゼンは自由で楽しい!

1.アストラ王家クラウゼン出張所

時間は少し遡る・・・・


ブランゲルン王国の王都に約2週間滞在した後、私たちは、クラウゼンに到着した。


王都からクラウゼンまでは、通常、馬車で、鐘三つ分(9時間)より少し早い、と言われているが、私たちの馬車は5時間とかからなかった。


途中は見渡す限りの麦畑。大穀倉地帯である。あちこちに小さな集落が見えた。


クラウゼンには、アストラ王家が所有する別邸がある。


今回、兄上様がここの高等学院へ入学することになって、新たに取得したものである。


実は、これには一悶着あった。


クラウゼン高等学院は、元々、世界の王族や高位貴族の子弟が入学してくるケースが多いため、VIP用の寄宿舎が完備されている。


兄上様は、そちらへの入居を強く望んだが、父上様が断固として、それを拒絶した。


兄上様としては、厳重な監視の眼のない、自由な場所でもっと気楽に過ごしたかったのだろうが、そうは問屋が卸してくれなかったのだ。


もうすぐ王太子となる身に、万一があつてはならない・・・と考えるのは、当然のことである。


父上様は、この別邸から通学することを条件に、兄上様のクラウゼン行きを許可したのであった。


ただし、父上様は、ただの親バカではない。


この屋敷を、ブランゲルン王国における、領事館のような機能を持たせて、ここでの権益拡大を目論む気、満々である。


で、私たちも、当分はこの屋敷に居候することになっている。


まあ、元からそうだったけど、アストラ王宮内の侍女や使用人の人たちは、母上様の方針もあって、私には、それほど過保護な扱いをしてこなかったから、ここも居心地は悪くない。


ここでは、クラウゼン・メッセの準備や、王都のケッヘン子爵邸への往診もまだあるし、仲良くなったヒルダ嬢と会う約束もある。


でも、何はさておき、市内観光に出撃することにした。メッセの会場も見ておきたいし...


市内見物は、私、ミニエ、パラ、孔明、ユキ、シータ。みんな一緒だ。


クラウゼンの街は、世界一治安が良いと言われているので、私が一人で歩いても、多分、問題はないと思う。


ここには、世界の天才児が集まるというクラウゼン初頭学院もあるから、11歳の少女が一人歩きをしていても、特に違和感はないのである。


ただ、天才児は飛び級で、上の学院へ行ってるだろうから、初頭とは限らないけどね...


私たちは、まず、メッセ会場となる、クラウゼン・シティ・ホールへ行った。


書物で読んで想像していたものより、はるかに大きい。


併設されている宿屋も、前世の記憶にあるホテルの姿そのみのだった。


前世の私は、学会で何度かヨーロッパに行ったことがあるが、そこで泊まった、クラシックなホテルとよく似ていた。


宿の前には、色々な国の旗が掲げられていた。多分、現在滞在している客の国なのか? とても新鮮で、しかし懐かしい光景だった。


ホール内へも入ってみた。今は催し物がないらしく、そこは何もない空間だったが、それにしても広い。


よくも、こんな建物が建てられるものだと感心した。


(ここが、満杯になるほどの展示会・・・)


私は、それを想像して、かなり興奮していた。


次に、私たちは、色々なギルド事務所を見て廻った。


ハンターギルドや商業ギルドといった定番はもちろん、ここには出版ギルドも存在していたので、そこを訪ねた。


私は、この街で出版社を作りたいと考えているので、色々と質問をする。


先方は、質問するのが子どもなので、最初はちょっと戸惑っていたが、ここではさほど珍しくもないことなのか、丁寧に教えてくれた。


それによると、出版自体はギルドに加入しなくても可能だが、この街の書店や配本業者に扱わせるには、ギルド加入が必要となるとのこと。


あと、筆耕職人の斡旋や、筆耕の請負もしてくれるらしい。


筆耕職人は、出版社が直接抱えているのが普通だが、ベストセラーになったとかで一時的に大量の筆耕が必要になった時に備えてだそうだ。


まあ、私の出版社は、筆耕を必要としないけどね。必要なのは版画職人だけど、それはここではムリみたい...


その後、私たちは、中心街の店を見て廻ったり、色々な学校を外側から観察したりした。


ちなみに、ジジは、私たちがここへ来る途中に立ち寄った各国街の先行調査をしながらこの街へ来て、だいぶ前からここで野良猫をしながら情報収集をしている。


今は、アストラ王家の別邸にも入り込んで、皆から「クロ」と喚ばれていたりする。


私は、この街では、メッセの準備と出版社のための空き事務所探し。そして、王都ではヒルダ嬢との交遊を計ろうと思っている。


孔明は、メッセのために、もう1台、馬車を作ろうと張り切っている。



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