6.閑話-ブランゲルン王国王宮

ブランゲルン国王が、ケッヘン子爵から報告を受けたのは、今から3週間前のことだった。


不治の病に伏せていた一人娘が回復の途上にあり、その奇跡をもたらしたのは、あの噂の「アストラの神子」らしいという話であった。


王は最初、信じなかった。


妻に先立たれ、同じ病で最愛にして唯一の娘までを失おうとしている子爵が、ついに正気を失って、妄想の世界に堕ちたのだろうと考えていた。


念のため、信用できる者に調べさせたところ、その話は事実だった。


アストラ王国王女シャルナとその一党の特徴そのものだったのである。


国王は、アストラ王国の王子がクラウゼンの高等学院へ入学することは知っていた。


それは、別に諜報筋の情報ではなく、アストラ王国から公式にもたらされたものであった。


いかにクラウゼンが自由都市とは言っても、一応はブランゲルン王国の都市である。王族が何年も滞在するのにだまっているわけにはいかないからである。


しかし、王女まで同行しているとは予想していなかった。


そして、ブランゲルン王国を含めて各国は、シャルナの方が重要人物であると認識していた。


それは、単に、、齢11歳の聡明な少女・・・ということではない。シャルナに付き従う謎の一党の存在が、シャルナを世界トップクラスの重要人物にのし上げているのだ。


国王は、シャルナとその一党に俄然、興味を抱いた。是非、直接、見てみたい。会って、話をしてみたい...


しかし、相手も王族である。公式に自分の身分を明かし、接見を求めて来ない限り、こちらも王としは会えない。


時間とともに増殖、拡大していく好奇心に、悶々とする国王であった。


ケッヘン子爵に、シャルナに会える機会があれば、何でも知らせるよう伝えておいたところ、娘のお茶会の話が報告されたのであった。


まさか、国王が年頃の娘のお茶会に参加するわけには行かないが、そこで白羽の矢が立ったのが、同じ年頃の第3王子、オットーであった。


「父上様。ただいま戻りました。」


「おお。オットーか。して、どうであった。」


国王が問う。


「はい。シャルナ殿下は、本日はシータと申す護衛とお二人で来られていました。」


オットーは言う。


「孔明と申す者は来ておらぬか。」


「はい。男の護衛はおりませんでした。ただ、このシータと申す者も東方の出身と思われます。年、格好からして、あの事件で姫とともに謀反人を殲滅した人物かと思われます。」


「して。シャルナ姫の印象はどうじゃ? そなたはどう思った?」


国王は。前のめりで息子に問いかける。


「とても聡明な方と思いました。私より年下とは思えませんでした。」


オットーは、シャルナが考えたという仕掛け絵本の話をした。


「何とっ! 紙で、美しい絵が描かれていて、建物や木が飛び出すとっ...」


国王はオットーの話を聞きながら、自分の頭の中にそれをイメージして驚きながら、質問を続ける。


「それで、姫はこの後のことを何か話しておったか?」


「クラウゼン・メッセに何かを出展なさるそうです。それと、クラウゼンに支店ができるから、今後もまた来ると。


「おお。そうか。それは楽しみであるな。また、頼むぞ! 姫と友誼を結ぶのだぞ。」



国王は、シャルナが自国との縁をこれからも持ち続けてくれることに安堵し、そとして、大きな希望を感じた。


国王は、実のところ、シャルナをオットーの褄にしたいと考えていた。


そうすれば、この聡明な少女と卓越した知力と武力を持つ一党を丸ごと自国へと引き込めるのである。これ以上、おいしい話はない。


ただ、シャルナと釣り合いそうな男子を抱える各国の王家は、みんな、同じ事を考えているのであった。


今や、シャルナは、本人の全く気付かないところで、世界最強のモテ女となっていたのであった。


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