9.帝国へ逆襲 その1
夜。私は意識を王宮にいる量産型ワタシに切り替えた。記憶が共有される。
謀反人たちの取り調べはかなり進んでいる。最初は全員がかなり渋っていたが、私がにっこり微笑んで、
「どうか本当のことをお話しくださいませ。」
と言ったら、皆、震えながら、急にペラペラしゃべるようになったそうだ。
おかげでイルキア帝国が陰で関わっていることも明白になってきた。
ここから先は父上様のお仕事だから、私がどうのこうのと口出しできることではないけど、帝国に何か具体的な報復をするのは、多分無理なんだろうな…ということは、子どもの私にも分かる。
アストラは小国だから軍事力も大したことがない。帝国に対して何の圧力にもならない。西方諸国の援軍を借りれば可能かも知れないが、国土は広いが見るべき資源も利権もない「貧乏大国」には、大遠征をする魅力はどこにもない。
抗議をしても、惚けられて、無視されて、おしまいであろう。
(何か、報いをくれてやる.良い方法はないのか...)
タケミナカタの軍事力を以てすれば、帝国を無人の更地に変えることなど容易いことではあるが、それは違うだろう。
そこにはアストラは関係ないからだ。それでは二度とアストラ王国にはちょっかいを出さない…という教訓は得られない。
そこで私は考えた。題して、「神罰作戦」。
「他国にちょっかいを出すとこういう報いを受ける・・・」
それを具体的に実行する。
別に帝国の人、全員が悪いわけではない。悪いのは一部の欲に目が眩んだ連中だけで、そいつらにだけはたっぷりとお仕置きをする。
今回の王位簒奪未遂事件は、謀反人たちの処刑と処分をもって他国へも含めて公表されることが決まっている。帝国への抗議も同時に行うことになる。
しかし、既にお膝元のアストラ王国の王都では噂話として、かなり正確な情報が流れている。
これに「黒幕の国に神罰が下る…」という尾鰭を付けて、帝国を含めた各国にばらまくのである。
そして、本当に「神罰」(に見える出来事)を起こす。
私たちはデマをばらまく旅に出ることにした。
今回は、私とミニエ、パラ、シータ、そしてジジの4人と1匹で出撃する。
孔明も行きたそうにしていたが、宿屋に泊まる必要もあって、それだと女子だけの方が行動しやすいので、遠慮してもらった。
アストラの周辺国だけに噂を撒けば、後は勝手に広がるだろうから、隣接する国を順に回ることにした。
一番最初はミラトリア王国から反時計回りに、エスタリア王国、ユラニア王国、テントラ王国、ミトラ王国、スルタン王国と廻って、最後にイルキア帝国の帝都に行く。
各国の王都と大きな街をそれどれ1~3日滞在して、宿屋や食堂、商店、風呂屋とかで、アストラ王国であった事件と、その黒幕の国に神罰が下るらしい・・・という噂話をしゃべりまくる・・・という計画であった。
ミニエ、パラと合流して2日後の夜明け前、私たちは小型揚陸艇でミラトリア王国の王都へ向けて出発した。1時間ちょっとのフライトである。
今回は、生身の人間が3人もいるので、安全策として、私が新たに開発して、「パワードアーマースーツ」と名付けた装備を三人とも身につけている。
これは特殊繊維でできた全身タイプのボディスーツのようなもので、防弾、防刃、対衝撃性を持ち、おまけに筋力強化機能と温度調整機能まで持つ、いわば「軽くて便利な多機能鎧」みたいなものである。
対衝撃性は、打撃を百分の1程度に減らせる。ある程度のダメージは受けるが致命傷は防げる。
衝撃はほとんど吸収せず反射する。重い剣を使った場合、攻撃者側に十分な膂力がないと、自分に打撃が跳ね返り、ダメージを受けることになる。
筋力強化機能はそれほど劇的なものではない。私が使って、普通の成人男性ぐらいのパワーが出せる程度。敏捷性とかは強化されないので注意が必要だ。
温度調整機能は、外側が寒いと内側を温かくし、外が暑いと内を涼しくする・・・地味だがとても有り難い機能である。
この素材を肉に巻きつけて、パラに試し斬りをしてもらったが、跳ね返されて、剣が弾き飛ばされてしまった。
ミラトリア王国の王都の周辺はほとんどが森なので揚陸艇を隠しておくのは簡単だった。念のために光学迷彩を施しておく。
私たちは王都に入る。ここはいわゆる城郭都市なので城門がある。特に荷物もないし、少女4人組という何とも非力そうな陣容なのでフリーパスと言って良い感じだった。
ジジは既に街の中に入り込んで情報収集を開始している。
私たちは、まず商業ギルドへ行ってみた。
今回の旅では、私がさる大店のご令嬢で、ミニエとシータが使用人。パラが護衛。という設定にしている。
実は私たちには現金がないのである。王都を脱出した際に持たされたお金は、パラに預かってもらっているが、いずれ二人が王宮に帰参すれば、それを精算する必要があり、使い込むのはマズいということになった。
それで、艦内在庫の資材を換金して旅費を賄おうということで、まずは情報収集のために商業ギルドを選んだのである。
持ってきたのは、艦内に無造作に転がっていたアルミの塊。それを2Kg分ぐらい持って来た。
前世の記憶では、アルミニウムは鉄の次ぐらいに安い金属という認識があるが、この世界では、何と金の千倍ぐらい高い!
精錬技術がないので、隕石の衝突とか、何かの弾みで自然にできたものしかないからしようがない。金属のくせにやたらと軽いのが神秘的なのかも知れない。
そんなわけで商業ギルドへへ来てみると、ここでも買い取りをやっていて、相場もまあまあだったので、ここで売ることにした。
ただし、全部売ると金貨が持ちきれないので、20gぐらいのナゲットを一つ売った。それでも金貨に換えると大変な重さになるので、金貨を500枚と残りは金塊三つにしてもらって、みんなで分担して持つことにした。
商談の時に、さりげなく噂話を混ぜることは忘れなかった。
その後、ハンターギルドで、定番の「かららん」をやって、視線を一杯集めて...でも、私たちに絡んでくる人はいなかった。
(これ、いっぺんやってみたかったんだ...)
依頼ボードと情報ボードを眺めてから、隅っこの飲食コーナーで、例の噂話をボリューム一杯で撒き散らした。
そもそも小娘4人組というこの場にはおよそ不釣り合いな集団がピーチクパーチク囀っているのだから、周りが聞き耳を立てないわけがない。
(うんうん、聞いてる、効いてる...)
ハンターギルドを出て、私たちは今晩の宿屋の確保に向かった。
高からず、安からず、という感じの、けっこう流行っていそうな宿屋を選んだ。この街では今日1泊して、明日の夜、揚陸艇で、ミラトリア第二の都市へ向かう予定である。
宿屋の確保を済ませて、私たちは昼ご飯を食べるため、中心街で適当な食堂を探した。
あまり騒がしくない大きめの店を選んで、そこでも噂話を拡げまくった。
その後、街中のお店やカフェ、公衆浴場を廻って、夕食は宿屋の食堂で食べた。もちろん、噂話をかなり盛りまくって拡散した。
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