2.軍師 孔明
ミニエとパラが王宮に戻った日の夜、私は量産型ワタシに意識を移した。記憶が共有される。
三人の茶番劇が脳内で再演されて...吹いた!
1ヶ月以上も私を探して、あちこち放浪して廻ったというのに、妙に小ざっぱりした身体に、最新流行のおしゃれな服、装飾はないが何やら業物(わざもの)らしい剣まで履いた二人の姿は、どうやら突っ込みどころ満載であったらしい。
あと、案の定、父上様から、今回お世話になった人たちにお礼がしたいから連れて来い!というお願いというか、命令というか...、これは予想していたことではあるが。
私も彼らの居所が判らないので困っている・・・ということにしてあるが、元々、折を見て会わせるつもりだったので、段取りしようと思う。
ちょうど孔明も自分用の戦闘アンドロイドを作ったことだし、ミニエとパラが王宮に戻ったことで、王女殿下としての私の行動が割と緩くなったのもあって、頃合いだと思う。
筋書きは簡単。私がミニエとパラを伴って王都に出たら。たまたまシータと再会して、話を聞いたら、皆は今、王都に滞在している・・・という感じである。
私たちが王都に出るだけで、後は話だけで良いかとも思ったが、多分、私たちには影護衛が付いているだろうから、シータとの再会は本当にやって、あとは宿屋を決めておいて、まず私たちがそこへ赴き、次に王宮へご招待・・・という展開にすることにした。
孔明、ユキ、シータの3人が小型揚陸艇で王都へ到着。
当座の現金が必要だったので商業ギルドへ先に寄って換金した。
今回はルビー、サファイア、ダイヤモンドなどの宝石。人工ではなく月の裏側で資源サンプルとして採取してきたもの。
艦内工場でカット加工してある。ダイヤモンドは加工が難しいのでこの世界では人気がないが、144面のブリリアントカットされたものはどう評価されるのか? 見物である。
後で聞いたらもとんでもない高値で売れたそうだ。即金では払えないから数日待って欲しいと言われたので、ありがたくその提案を受け入れて、ルビーとサファイアだけを換金したそうだ。
この世界、大金は持ち運ぶだけで大変な労力を必要とするのだ。
その後、けっこう高めの宿屋に宿を取って、シータが私たちと偶然再会したように見せかけて、宿屋へ案内してくれた。
私は意識を量産型ワタシの方に切り替えて参加している。
ここまでは計画通りである。
王宮へ戻った私は、父上様にことの次第を報告した。
もちろん、「すぐにお連れしなさい!」ということだったが、本人たちが謁見などま大仰なことを望んでいないと言って、王家の私室で非公式に会うことで了承さぜた。
かくして当日。
王宮から差し向けた馬車で孔明一行が到着した。
孔明はローブのようにゆったりとした服を着ている。ユキはチャイナドレスのようなぴったりめのドレス。シータはモンペのようないかにも動きやすそうな服を着ている。
みんな黒髪なのでどこか東方の国の人っぽい雰囲気である。
一応、設定は孔明が東方の様々な知識と技に長けた博士という位置づけで、ユキはその弟子、シータは小間使い、という感じにしている。
王家側は父上様、母上様、兄上様、とワタシ、それに宰相の5人。
まずは軽く、メンバー紹介。私が皆を紹介していく。
「その節は娘をお助けいただき、その上、我らまで助けていただいた。心から礼を言う。」
父上様は頭を下げた。王が身分の判らない人物に頭を下げるのはかなり異例のことである。
王家側が、それに合わせてみんな頭を下げる。
「いいえ、勿体ないお言葉でございます。どうか頭をお上げください。私たちは私たちができる範囲のことをしたまで、お礼になど及びません。」
孔明が言う。
「そなたたちは見たところ、東方の国の方々とお見受けするが、何か目的のある旅をされているのかな?」
父上様が探るように聞く。
「いいえ、ただの物見遊山の旅でございます。」
本当のことは話さんぞ、と匂わせるフリの孔明。まあ、当たらずとも遠からずなのだが...
「孔明様は、軍略、薬学、天文、占術、工匠、ありとあらゆる分野に長けた、東方では『博士』と呼ばれるお方なのですよ。」
私が孔明の得意とする分野を紹介した。これはこれからの展開に必要な伏線なのである。
「そうなのか...」
父上様は合点がいったという感じでゆっくり頷いて...
「孔明殿、もし、よければ、我が王宮に来てはくれぬか? 爵位をもって報いたいと思うが。どうであろう。」
(キターーー! 父上様、最初からこれが狙いだったのよねーーー)
「大変ありがたきお言葉ではございますが、私は既にあるお方にお仕えしたいと思っておりますので、その儀はご容赦いただきますよう、お願い申し上げます。」
孔明は私の顔を見ながらそ言う。
「えええっ! まさか...」
父上様が狼狽えながらそう言った。
「はい、シャルナ様でございます。」
「し、しかし、シャルナはまだ10歳。そなたに何も報いることはできぬと思うが。」
父上様は動揺から少し復帰してたたみかける。
「それならば、私が富や領地をシャルナ様に得ていただくよう働き、その一部を頂戴すれば良いこと。つまり...」
孔明は少し間を開けて、ゆっくり話す。
「つまり、それは、主を選ぶ大した理由にはならぬ、ということでございます。」
「わ、わかった! ならば礼がしたい。何か欲しいものはないか?何なりと申せ。」
お父様はとりあえず諦めたらしい。次の作戦に切り替えたみたいである。
そこですかさず私が口を開く。
「孔明様は、薬師、工匠としても優秀なお方、この国の民のために働いて下さるそうです。なので、家とお店を差し上げて下さいませんか。父上様・」
「ほおおっ、孔明殿がここにいてくれるならいくらでも用意するぞ! それは礼には入らぬがなー... 他に何かないのか?」
「それならば、シャルナ様にご褒美を差し上げて下さいませ。陛下。」
孔明が言った。
「うーむ。シャルナは何か所望するものはあめか?」
父上様が私に問う。
「父上様、アストラは大砂漠のどの辺りまでを領土としているのですか?」
「塩の山の少し先ぐらいまでだな。」
塩の山とは、大砂漠を少し入ったところにある塩の砂丘のこちだ。そのままでは砂が混ざっていて使えないが、水で溶いて上澄みを煮詰めれば簡単に精製できる。
アストラの特産品として収入源の一つになっているので、道を整備し馬車で行き来できるようにしている。
父上様は言葉を続ける。
「しかし、人が行けぬ土地は国ではない。どこの国も領土とはしておらぬから、全部がアストラと言っても、誰も文句は言うまい。何の役にも立たぬ土地ゆえ。」
「ならば大砂漠を私にいただきとうございます。」
私は真面目な顔でそう言った。
「なんと! おお、良いぞ。では、シャルナを大砂漠の領主として認めよう。爵位はまだ年少ゆえやれぬがな。」
父上様が微笑みながらそう言った。
きっと私が気を遣って、王家の懐を全く痛めない、形だけの褒美を所望した...と思っているに違いない。
「ありがとうございます! 父上様。それで孔明殿。今、国王陛下より賜った大砂漠の半分を、そなたの忠節に報いて与えることにします。」
私は孔明に向かってそう告げた。
「ははーっ。謹んでお受けいたします。」
孔明は深々と頭を下げる。
王家側の参加者は皆、微笑みながらそれを見つめている。
宰相はうっすら涙を浮かべて、盛んに頷いていいた。
こうして私たちは、王都での拠点と大砂漠の利権を手に入れた。
そして、私の王宮での発言力と、行動の自由度は大幅に向上したのであった。
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