3.迷子の猫

次の日も私たちは王都の店を覗いて廻っていた。


大通りから一本入った細い道を歩いていると、後ろから何かが追ってくる気配を感じた。


振り返ると、そこには一匹の三毛猫がいた。


アストラにはたくさんの猫がいたが、三毛猫は珍しかった。東方の国にはたくさんいるが、西へ行くほど数が少なくなると聞いたことがあるので、西方地方では非常に珍しいのではないかと思う。


私はしゃがみ込んで猫に聞いてみた。


「どうしたの? どこから来たの?」


猫は「ニャオオーん。」と鳴いて、すがるような眼で私を見た。


私は、鳳魔鳥とは話せたが、さすがに普通の動物との意思疎通はできない。でも、何となく、要求とか依頼とか忠告とかいうニュアンスは判るのである。


(この子は、私に何かをお願いしているのか?)


「どうしたの? 私に、何をして欲しいの?」


と聞いたら。着いてこい!という態度で私の顔を見て歩きはじめた。


私たちは、しばらく、猫の後ろを着いていくと・・・


そこには、一人の少女が、建物の壁にもたれかかって、座り込んでいた。


周囲の地面には、少量の血が点々と落ちている。


「どうしました!」


私が慌てて駆け寄ろうとすると、孔明がそれを止めて、代わりに少女に近づいた。


孔明は、声をかけながら、少女の顔に手をかざしたり、覗き込んだりしている。


少女は小さな声で話す。


「迷子になった猫を探しておりましたら、気分が悪くなりましたの...」


「ニャー!」


猫が少女の側に座って一声鳴き、心配そうに見つめている。


どうやら、少女の危機を察して、意思が伝わりそうな私を見付けて、助けを求めに来たらしい。


「ああっ、ミーちゃん。いたの...」


少女は嬉しそうに微笑むが、その眼に力が無い。


孔明が、馬車をここへ回すように、シータに指示をする。


「すぐに馬車が参りますから、もう少しここで辛抱なさって下さいね。」


孔明が優しく少女に言った。


「ありがとうございます。私は...」


と、そこまで、少女が言った時、突然、執事らしき風体の初老の男性が、血相を変えて、駆け寄って来た。


「お嬢様! こちらにおいででしたか。心配しておりましたぞっ!」


「ああっ。ヨハン。この方たちに助けていただきました。ミーちゃんも無事ですわ。」


少女が執事らしき男性に言う。会話のニュアンスからして、本当に執事だったようだ。


「それは、ありがとうございます! それにお礼もしとうございますので...」


執事がそう言いかけた時、シータが馬車に乗って戻って来た。


聞けば、この執事さん。行方不明のお嬢様を探すため、取る物も取らず、屋敷から飛び出して来たらしい。


私たちの馬車で、少女の屋敷まで送ることになった。




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