4.不治の病
私たちの馬車で、少女の屋敷まで送ることになった。
車中で、執事から事情を聞いた。少女はまだ苦しそうだったので、車内後部のベッドで横になってもらっている。
少女の名は、ヒルデガルド・フォン・ケッヘン。ケッヘン子爵家の一人娘で、12歳と言う。
しばらく走って屋敷に着いた。よくも、この距離を走ってきたものだ。
屋敷に通されて、応接間らしき部屋でしばらく待っていると、ケッヘン子爵家当主が出てきた。
「この度は、我が娘をお助けいただき、心から、お礼を申し上げる。」
子爵は頭を下げた。普通、貴族は、素性の判らぬ者に頭を下げることはまずない。つまり、これは本当に感謝している、ということだ。
「いえいえ。私たちは、こちらの飼い猫、ミーちゃんに導かれて、あの場所へ行き着いただけです。どうか頭をお上げ下さい。」
私が言う。
私たちは、アストラ王国の商家のご一行で、私がお嬢様。孔明とユキが番頭とその部下。シータとミニエが私の世話係。パラが私の護衛・・・ということにしてある。
「お嬢様のご病状について、お聞かせいただけませんか?」
孔明が、単刀直入に切り出した。私がそれを補足する。
「私の所は薬店で、孔明は優秀な薬師なのです。何かお力になれそうに思いますが...」
子爵は沈痛な面持ちで騙った。
「薬師であれば、既にお気付きかと思いますが、娘は肺の病を患っております。実は半年前に、あれの母親が同じ病で亡くなっておりまして...」
そうなのだ。私と孔明は、あの時、孔明が私に近づくのを止めた時点で、既に思念波で少女の病気について語り合っていた。
医者でも何でもない私が見ても、ドラマなどでよく見た、典型的な肺結核の症状だったのだ。
そして、言うまでもなく、この世界では、それは不治の病であった。
しかし、私たちは違う。
地球の結核菌と、この世界のそれが同じかどうかは判らないが、星間連合でも、似たような病気があるそうだ。
孔明が言うには、星間連合に属する惑星は約3200もあるので、その病気の病原菌は少しずつ違うらしい。
それにいちいち対応するのは面倒なので、共通している部分を抽出して、まとめて対応する薬剤を使っているとのこと。
多分、この惑星のそれにも対応できるだろう、ということだった。
「やはり、そうでしたか。絶対に治る。とは申せませんが゛、私たちにお任せいただけませんか?」
孔明は静かに言う。子爵はしばらく考えた末。
「それでは、よろしくお願いいたします。」
子爵は頭を下げて、そう言った。
褄の病状をずっと見てきた彼は、娘が後どれぐらい生きていられるかの見当を付けていた。
(後、1年がせいぜいだろう...、ならば、この異国の薬師にかけてみるのも悪くはあるまい。半年か1年の違いにのだから...)
その後、孔明は一旦、馬車に戻って、診断装置一式の入った鞄を持ってきた。
それを使って、ヒルデガルドことヒルダ嬢の、胸部X線撮影と血液、痰の採取を行った。
その日は、翌日の訪問を約束して、宿に戻った。
孔明は、採取したサンプルを持って、母艦に戻って行った。
ワープゲートは本当に便利である。
実は、私も、クラウゼン・メッセに出展するための装置を作るため、しょっちゅう母艦に戻っている。
翌日、私たちは、再び、ケッヘン子爵邸を訪れた。
孔明は、昨夜、母艦で病原菌の特定を行い、星間連合の既存薬での薬効を確認してきていた。
ついでに、ヒルダ嬢の遺伝子的な特性や、現在の栄養状態など、治療に必要な対策と薬剤をすべて用意してきていた。
今回、孔明は、この世界に合わせて、新しい治療機材を持ってきた。
それは、点滴のように作用する、一見、湿布薬のように見えるシートであった。
これを手首に巻き付けておくと、必要な輸液が丸一日、静脈を通じて体内に少しずつ注入されるというものである。
輸液には、治療薬と栄養剤が含まれており、これを1日1階交換するだけで、治療が進む・・・というものである。
これを、とりあえず1週間続けるよう指示した。
1週間後、再び、X線撮影と血液、痰の採取をして、今度はその場で検査器具でデータ化した。
データにしてしまえば、母艦に通信で送って、脳内に結果を表示させられる。
かなり、病状は改善されていたが、もう1週間、同じことを続けた。
この時点で、私たちはクラウゼンへ向けて出発する予定になっていたので、次回以降は、クラウゼンから訪問することになる。
私たちの馬車なら半日の距離である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます