3.毒と薬は紙一重、バカとハサミは使いよう
管制システムが艦の現状について延々と説明を続けた。
「・・・・・現在、即応可能な近傍恒星間の跳躍航行が可能な巡洋艦は2隻、大型揚陸艦が1隻です。軌道上に遷移後48時間以内に巡洋艦10隻が出撃可能になる見込みです。」
(巡洋艦12隻って、一体何と戦うつもりなの・・・?)
何となく想像していたけど、この船はかなりヤバい船みたいだ。
でも、戦争や災害で行き場を失った人々を救えるのは有り難い。しかも誰も手出しできない強大な軍事力と卓越した科学技術力。何だったらこの船をひとつの独立国にしてしまっても良い。
「民間人の収容人数はどれぐらいですか?」
「最大2万人です。これは食料供給力の制限による数字です。」
彼は続ける。
「しかし、ここから見える乾燥地帯のような無人の土地を利用すればその制限は事実上なくなります。」
「砂漠でも人が住めるのですか?」
「はい。要は植物と人間が必要とする水だけの話ですから。地下水が確保できればそれで良し、最悪、大気から生成すれば問題ありません。」
彼はこともなげにそういった。実際、それは大したことではないのだろう。
(うん、やっぱりすごいね! もう決まった感じだけど、最後に、今の私にとっては一番重要なことを聞いておこう。)
「私が指揮命令権を持ったとしたら、私はずっとこの艦にいないといけないのですか?」
「いいえ、あなたは本艦と通信可能な範囲であればどこにいらしてもかまいません。もちろん本艦とその場所間の移動も可能です。」
さらに...
「また、あなたは本艦のすべての機能と資産、情報を制限なく利用することができますので、お望みの物資を開発、製造しお届けすることもできます。」
私は決意した。この話は引き受けて損はない。いや、受けるべきだ。
たしかに、この船はとても危険な船だ。多分、惑星の一つや二つ、簡単に吹き飛ばしてしまえる力があるだろう。
でも、その力は人を救い幸せにする方向へも使える。要は使いようなのだ。私は人々の幸せのためにこれを使う! それで良いのだ。
「じゃあ、この船を発進させましょう! 私がこの船の命令権を引き継ぎます。」
「おおお~っ! ありがとうございます。それでは今から発進のための準備作業に入ります。概ね30分後には発進できると思います。」
(何か喜んでいるみたいだ。その言葉に急に感情がこもったような気がした)
「あの、外の鳥さんに事情を知らせたいのですが、外に出ることはできますか?」
「先ほどの乗艦用ののりものを使って下さい。行き先を念じれば移動できますので。」
「ありがとう、ちょっと出てきますね。」
私は艦外に出ると鳥さんが待っていた。
ずっと待ってたみたい。この鳥さん、基本的に面倒見が良いらしい。
「おおっ、出てきたか。喰われたかと思ったぞ!」
「これ生き物じゃないから何も食べませんよ。今から30分後にここから離れる、ということです。」
「そりゃ良かった! おまえが交渉してくれたのか? ありがとな。それでおまえ、どこまで送って行けばいい?」
「いいえ、私はこれと一緒に乗って行きます。適当な所で降ろしてくれるって言ってるし、食べ物もあるらしいから。」
「あと、これは大事なことだけど。これが飛び立つ時に巻き込まれないよう、できるだけ遠くへ逃げて下さい。」
「わかった。世話になったな。俺はゴラドっていう。何かあったら俺たちの仲間かその辺の鳥に声をかけてくれ。じゃあ元気でな。」
「私はシャルナよ。じゃあ、あなたもお元気でね。」
私はそう言って再び艦内へと戻った。
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