7.閑話-オーストル帝国皇帝執務室
オーストル帝国の帝都、帝城にある皇帝執務室。
「陛下。遠征隊が帰還いたしました。」
宰相がちょっと口ごもりながら報告した。
「おお、そうか。ならば、土産の品を、早う、ここへ持って参らぬか。」
皇帝が嬉しそうにそう言う。
「それが、陛下。遠征は失敗でございます。」
宰相は消え入りそうに言う。
「何じゃと! 偵察部隊からは、王も兵士もおらぬ、言っておったではないか! 何故、失敗した?」
皇帝が怒鳴った。
「それが、王らしき少女が現れ、巨人兵と蟲の魔物を操って我が方に大損害を与えたとか。おまけに巨大な箱船まで所有しているそうでございます。」
宰相が、妙に伝聞口調で告げ、さらに続ける。
「恐れ多くも畏くも、皇帝陛下に対して『他国には礼を以て接するが良い』というあちらの王の言を伝えております。」
「何を戯言を! 夢でも見ておったのではないか?」
皇帝が呆れ、そして激怒して、
「その司令官とやらが自分の失敗を隠すために虚偽を申しておるのではないか?」
と続けた。
「あちらの王に命じられて、大勢の部下の首をはねた、という報告を、ともに帰還した兵士から聞いております。」
と、宰相。
「そうであろう。そんな者の言うことを信じられるはずがなかろう。その司令官は捕らえて、責任を取らせよ。判ったな、」
皇帝が命じる。
「ははっ、仰せのままに。」
宰相が応えた。
「して、宰相。帝国の威信を傷つけられた上は、その島の件、捨てては置けぬな。」
皇帝は話を変えた。さらに続ける。
「新造艦はいつ、艦隊に加わるのだ?」
新造艦とは、長らく建造中であった、3枚帆の大型船のことである。現時点では、帝国最大の船である。
オーストル帝国では、先の皇帝の時代に、天才造船技師が現れ、次々と画期的な技術を生み出していた。
それまでの四角い1枚帆の船とは異なり、2枚の三角帆、3枚の三角帆・・・と、帆の数が増えていくとともに、船体もそれに伴って大型化していった。
一つの大陸が単一国家となったことで、平和で安定を手にすることができたが、それと引き替えに、何かしらの閉塞感も生じていたのであろう。
人々の外への関心が、造船ブームに一層の拍車をかけた。
「ははっ。まもなく、ということでございます。遅くとも、ここ半月以内には可能かと。」
宰相が答えた。
「ならば、それも加えて6隻の艦隊をもって、その島を完全に帝国の領土とし、島の者どもを皆殺しにするのだ。艦隊は、余、自らが指揮を執る。よいなっ!」
皇帝は自信たっぷりに宣言した。
「ははっ。すぐに準備にとりかかります。」
宰相が部屋を辞した。
(今まで三代目は頼りないとか、父に比べて器が小さいとか、色々、陰口をたたかれてきたが、ここで実績を上げれば、誰も文句は言うまいて・・・)
皇帝はほくそ笑んでいた。未開の島など一捻りだと多寡を括っていたのである。
オーストル帝国は、建国50年にも満たない若い国である。
この大陸には、元々、幾多の部族国家があったが、やがて、それらが集散を繰り返していくつかの王国が成立。それらが群雄割拠する状態が長く続いていた。
それを運と根気と、幾ばくかの知謀で、ひとつずつ潰していき、遂に統一国家としたのが、この男の祖父、初代皇帝であった。
そして、二代目皇帝が、度量衡の統一や、統治機構の整備、収穫率の高い農作物の開発などを成し遂げ、帝国は未曾有の繁栄の時期を迎えた。
それが、一昨年、先代の突然の崩御によって、その息子が帝位に就いたわけだが、先帝二人と比べると、いささか、と言うか、かなり、見劣りのする人物なのであった。
特に、思慮分別、という点では、致命的と言えるぐらい、資質に欠けていたのであった。
最近、新島発見の報に浮かれて、少し調子に乗っていたところに、今回の事態、元々ない思慮分別が、さらに希薄になってしまっていたのである。
この時の、この判断が、後に大きな負担となって帝国にのしかかることになろうとは、この時点では、宰相すらも予想していなかったのではあめが...
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