5.盗賊団
その日は、時間的には少し早いが、野営場所としてよく使われているらしい場所があったので、そこで野営することにした。
普通は、多分、そこが夕方に辿り着ける場所なのであろうか? 私たちの軽量馬車は、やはり、かなり快速なんだと実感した。
私にとって、野営は生まれてはじめての体験である。
前世の私は、キャンプの経験があるが、いや、あれはグランピングだったので、本物は、どっちにしても初体験だ。
馬車のトランクルームから、組み立て式のカマドや簡易テーブル、椅子、テントなどを出して設営。
料理はユキとシータ、兄上様の従者が作る。
昨日、買い込んだ食材なので、けっこう新鮮である。
鶏肉と野菜の煮込みとパン。
割とまともな食事である。本当は肉を焼きたがったが、狼や熊を呼び寄せる危険性があると言われて断念した。
特に、熊さんは、そろそろ冬眠から目覚める時期なので、警戒が必要なのだそうだ。
食事後、しばらくたき火を囲んで雑談をしていた。
ちなみに、トイレは車内にあるので、いわゆる、お花摘みをする必要はない。
停車中は蓄めておいて、適当な場所でポイ捨てできるようになっている。
基本的に、車内にベッドがあるので、テント泊する必要はない。
私とミニエ、パラは、元々は、寝るのは艦内の私室で・・・と考えていたが、初の野営ということで、寝心地を確かめるために、こちらで寝ることにした。
孔明たちは、そもそも眠る必要がないので、車内のリビングで待機している。
兄上様の方は、兄上様と従者が車内で寝て、護衛の騎士たちと御者が、見張りもあるから、と車外のテントで仮眠することになった。
孔明たちもいるし、うちの馬たちがいるから見張りの必要は全くないと思うけど、お仕事なのだろうから仕方ないか...
ついでに言っとくと、うちの馬たちは馬型の戦闘アンドロイドなので、ヒグマであろうがグリズリーであろうが、一撃でミンチ肉にしてしまうぐらいの戦闘力がある。
そういうことで、熊も狼もヤバい気配を察知したのか、近寄りもせず、何ごともなく一夜が明けた。
次の日も、夕刻にはまだまだ早い時間に、山間の小さな街へ着いて1泊。
朝、そこを出て、適当な場所で野営したが、この夜も何事もなく朝を迎えた。
そして、最後の峠を越えて、後、半日で、ザールン王国の国境の街へ辿り着く・・・というところまで来て、
孔明が、馬車に停車を命じた。
実は、私たちの馬車の上には、常に偵察ドローンが帯同していて、周囲の警戒、監視を行っているのだが、それが前方の切り通し付近で待ち伏せ攻撃の気配を察知したのであった。
ちなみに、さらにその上空の低軌道上には小型揚陸艇が待機していて、いつでも、戦闘ロボットを展開したり、目標物を砲撃できるようになっている。
「この先の切り通しの所と、その手前に伏兵がいます。おそらく、挟み撃ちを目論んでいると思われます。」
孔明が説明を続ける。
「先に手前の伏兵を潰します。」
御者台のシータが飛び降りて、後ろの馬車へ指示を伝えに行った。
馬車がゆっくり動き出す。シータは馬車の横を併走している。
私たちの馬車は、馬に直接指示しているので、御者は本来、必要ない。シータが御者台にいるのは、無人だと怪しまれるのと、こういう場合に動きやすいからである。
伏兵が隠れていると思われる地点の少し手前で馬車を停めた。
時間が経過する。馬車は停まったまま・・・
しびれを切らして男たちが出てくる。10人ぐらいいる。
リーダーらしき男が、切り通しの所にいる本隊に事情を知らせるよう指示を出す。
一人が反対方向へと小走りで駆け去ろうとしたその時。
馬車の死角にいたシータが突然、抜刀して、男たちの中へ駆け寄った。
そして、野道で草をなぎ払うかのように、前を塞ぐ男を斬り飛ばし、そのまま、先ほど走って行った男を追って行った。。
慌てて道を空ける男たち。
しばらく呆然としていたが、御者の娘が血路を開いて逃げたのだろうと、都合良く考えて、立ち直った。
馬車に殺到する男たち。
その時、馬に近づきすぎた数人の男が、馬に蹴られて、姿が見えなくなるほど遠くへ飛ばされた。ものすごい速さだった。
そこへ、天窓から屋根に上がっていたユキが、頭上から飛び降りざまに一閃。あっという間に3人が斬り捨てられた。
幸い、逆方向から回り込んだ男たちは、後ろの馬車まで辿り着くことができたが、結局、車内からボウガンで狙撃されて、無駄な足掻きとなった。
至近距離から撃ち込まれたボウガンの威力は凄まじかった。
一人は頭を射貫かれて即死。もう一人は肩に当たったものの、致死性の毒ですぐに絶命した。
撃ったのは、護衛の騎士と兄上様だった。
兄上様は、この時のために、妹に良いところを見せようと、こっそり練習をしていたらしい。
数分後、シータが戻って来て、路上に転がる男たちや、元。男たちであった何か、を道路脇へ片付けた。
多分、生きている者はいないだろう。
結局、彼らは一声も発することなく、盗賊らしい働きをしないまま、退場することになったようだ。
シータが、後ろの馬車に、馬車を再出発させる旨を伝えに行った後、馬車はゆっくりと動き出した。
孔明も馬車から降りて、代わりにシータが御者台へ戻った。
孔明とユキは馬車の両サイドを護衛するようにして進んだ。
やがて、切り通しに差しかかったところで、遠くに丸太か何かが置かれてあるのが見えてきた。
馬車をそこで停めて、そのまま待つ。
別に、相手が望む場所まで行ってやる必要はない。
多分、ここでは連中が潜む場所からは、ただ馬車がいる、ということだけで、詳しい事情が何も判らないであろう。
案の定、すぐにぞろぞろと出て来た。
根気や辛抱が足りないから盗賊になるのか、盗賊だからそうなのかはよく判らないが...
20人以上いるようだ。弓手も2人いる。
連中は20mぐらいまで距離を詰めてきて止まる。弓手が油断なく構えている。
孔明とユキは馬車の後ろに隠れているが、シータの眼を通じて前方は視認できている。
頭目らしき男が叫んだ。
「お前たち。馬車から降りて来い! この馬車を引き渡せば、生命だけは助けてやるぞ!」
(馬車が狙いかー! 目立つもんね。この馬車。)
しかし、完全に無視。こちらからは何も発しない。
頭目は、自分たちが無視されたことに怒り、怒声を上げた。
「ならば航海させてやる! 者ども、かかれー!」
そう言った瞬間、シータが足下に置いていたボウガンをすばやく取って、弓手の一人を速射した。
シータの動きに合わせて、弓手が弓弦をさらに引き絞って射殺しようとするが...
一人は間に合わず、シータが放った矢で胸を射貫かれ、
隠れていたユキがボウガンでもう一人を射殺した。
そして、これに合わせて、孔明が焙烙玉を3発ほど、連中がかたまっている所へ目がけてポンポンと投げ込んだ。
「バカン! ボカン! ドンっ!」
手榴弾タイプの焙烙玉である。
小さいので威力は低いが、確実に1~2人を爆死させ、周りの者に傷を負わせた。
そこへシータが御者台から飛び降りて乱入。何人かを斬り捨てた。
それでも、かいくぐって馬車に回り込もうとする者は、両サイドに居る孔明とユキに阻まれ、幸運にも、それを突破できた者は、馬車の小窓からボウガンで狙撃された。
盗賊団はあっという間に壊滅した。
3分の1ぐらいは生きていた。
しかし、街まで連行するのは、実際のところ難しいし、止めをさすのも面倒臭い。
こんな連中にわざわざ時間をかけること自体が無駄である。
そういうことで、次の街で事情を報告して、警吏か軍に任せることにした。
軽傷の者は逃げられぬよう足の骨を折っておいた。
まあ、血の臭いを嗅ぎつけた熊や狼の餌になるかもしれないけど、それならそれで良いだろう。何かの役に立つのなら...
夕方にはまだ早い時間、私たちはザールン王国の国境の町、コンタに着いた。
ここから先は、西方地域。クラウゼンまでは、やっと半分を過ぎたところである。
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