11.閑話-国王と宰相

アストラ王国、王宮にある国王執務室。


「詳細はまだ掴めぬのか?」


国王が宰相に尋ねた。


「申し訳ございません。今のところ、手がかりすら掴めておりませぬ。」


宰相が悔しそうに答えた。


実のところ、国王と宰相は困惑していた。


エンセル、グラドス父子の簒奪未遂事件は呆気なく解決した。


エンセルだけでなく、加担した貴族たちも処断できた。以前は24家あった貴族家が17家にまで減り、王家の自由裁量権が飛躍的に増大した。


特にエンセルは小国アストラには元々3家しかない領地貴族、しかも最大領地の領地貴族であったため、その領地を没収できたのは大きかった。


「しかし、シャルナがここまでやるとはな...」


国王が独り言を呟くようにそう言う。


「臣も、正直、驚愕いたしております。あの姫様が... 証言では、グラドスの護衛の男を叩き潰したとか?」


「いや、それは見間違いだとは思うが、ラゴラス邸におったあの娘も、シャルナと同じ年頃に見えたが、説明がつかぬか。」


国王がため息混じりにそう言うと。


「恐らく声を立てられぬよう、背後から一人ずつ片付けたと思われますが、甲冑の兵士にそれは無理ですから、その娘がやったとしか...」


宰相も困ったように言った。


「しかし、ナイフや吹き矢ならともかく...どうやれば首の骨を潰せるのだ! 子どもに...」


国王が諦めたように言った。


国王はあの日見た、ラゴナス邸の光景、王宮へ戻って見た、エンセルたちが捕らえられた部屋の様子を思い出していた。


捕らえた者の証言では、いずれも僅か3人に制圧されたと言い、しかもその内の一人はシャルナなのである。


それが剣も使わず素手で?


王宮で唯一、斬られて死んだ者がいたが、それは自分で自分を斬ったものだった。


(よほどの軍略家とそれに応える精兵でなければ無理だ...)


シャルナも、助けてくれた人とその仲間が手伝ってくれた、と言っているので、その人物について調べているのだが、それが一向に埒があかないのであった。


「何としてもその者たちを探し出し礼をせねばな。できれば、是非、我が配下に迎えたいが、せめて、我らの敵に回らぬよう配慮せねばなるまい。」


「さようでございますな。調査の方は引き続き続行いたします。」


宰相は話題を変える。


本当はこの件を報告するためにここへ来たのだが、国王の愚痴、というか、懸案事項の方に付き合わされていたのである。


「ところで陛下、エンセルの事件の黒幕の国に神罰が下ると民の間で噂になっているのをご存知ですかな?」


「おお、私も最近、耳にした。」


「それが、スルタンに入れている草の者からの報らせによりますと、本当にイルキアの帝都で神罰が下ったとかいう噂があるそうでございます。」


「なんと!」


国王が驚いて問い返す。


「まだ、真偽のほどは判りかねますが、皇帝以下、主だった者が悉く雷に撃たれて骨も残さず死んだとか。」


「その件、早急に調べよ! 真実であればスルタンをこちら側に戻す好機になりそうだな。」


「御意!」


小国アストラの軍事力は全く大したことがない。


実際のところは、交易路の巨大な利権で強大な軍事力を持つことも難しくはないが、あえてそれはせず、他国に守らせる道を選んでいる。


そうすることで、他国が互いに監視しあい牽制しあうことになり、結果、平和が保たれて来たのである。


これを破るのは、今回のイルキアのように内側から崩す方法だけだが、もちろん、王家はそれを十分理解しているので幾重にも対策を講じている。


諜報活動もその一環である。


どこの国も自国の諜報能力を公開するバカはいないので、比較するすべはないが、ミラトリア王国の兵が強い、という程度に、アストラの諜報員は優秀、というのが、周辺諸国の共通する認識であった、

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