姫の国は↑(ソラノウエ)~
絵川芭庵
第1話 不毛の台地の巨大な落とし物
1.空から女の子が降ってきた
「きゃあああああーっ!」
唐突に前世の記憶が蘇った。
しかし、しかしである、タイミングが悪い。
(何で、よりにもよってこんな時に...)
実は今、空から地面に向けて真っ逆さまに落ちている最中なのだ。
人は、交通事故とかでクルマにはね飛ばされたり、高いところから落ちた時とかに、走馬燈のように今までの記憶がゆっくりと巡るって言うけど、まさにそんな感じ。
そして、その後、すーっと意識が遠ざかった。
(眩しい)
横たわった身体の足下から差し込む光が、まぶたの間をすり抜けて、気が着いた。
ゆっくり眼を開けると、空が明るかった。
私はしばらくぼんやりとしたあと、身体に意識を集中して痛いところがないかを確認した。
前進に筋肉痛のような痛みはあるが特に大きな痛みはない。
続いて、手足が動くかを確かめてみたが問題なく動く。
骨が折れている様子もなかった。
(身体の方は無事みたいだけど、問題はここがどこか?ってことだよね...)
私はゆっくりと立ち上がって周りをきょろきょろと見渡してみる。
少し黄色みがかった灰色の地面が一面に広がっている。木は1本もない。所々に枯れかかった背の低い草が疎らに生えている。
遠くを見やると一方には妙に角張った変な形の山があり、別の方角には青々とした高い山脈ががすごく小さく見えた。この感じからするとここもけっこう高い場所らしい。
(大砂漠のどこかかしら? ひょっとして大高地?)
5分ほど歩いて歩くのをやめた。そこで地面が突然なくなっていたからだ。
ちょっと下を覗き込んでみたが、落ちたら確実に死ぬな!と確信できる光景だった。
(やっぱりここは大高地みたいね...これは完全に詰んじゃったのかしら...)
『大高地』と言うのは、私の国、アストラ王国の南に広がる大砂漠の東側にある台地のことだ。
垂直に切り立ったものすごく高い崖の上にある場所のこと。
人間が行ける場所ではないので上がどうなっているかは知らされていなかったが、そもそも大砂漠自体が広すぎて大高地のある所まで辿り着くことすら難しいのだ。
ここは、百年に一度現れるかどうか?というような命知らずの冒険者によって語り継がれてきた「伝説」みたいな場所なのである。
(楽園みたいな所を期待してたけど、ここも砂漠だったのか~ 私がとうとうナゾを解いたんだわ!)
(でもここから帰れなかったら意味ないよね...)
そんなことを思ってちょっと落ち込んでいると、私の上に大きな影が近づいてきて、バサバサという羽ばたきの音とともに1羽の巨大な鳥が舞い降りてきた。
多分、魔物だ。
鳳魔鳥(ほうまちょう)と言う鳥の魔物だ。
「人間の子どもよ。生きておったか。良かった、よかった。」
一瞬、私はギョっとした。
(コイツ、しゃべる? いや、頭の中に直接響いて来る?)
そして、私はすっかり思い出した。
私はコイツに掠われて、ここまで連れて来られて、ここに落とされた。
つまりコイツこそが今の事態を招いた張本人、いや、張本鳥だ!
あの日、アストラ国王である父上様からラゴナス親子の謀反の話を聞かされ、世話係のミニエと護衛のパラと共に王城の秘密の抜け道から脱出。
王国北部の大森林の中にある「王家の隠れ郷」という王家口伝の秘密の避難地を目指して丸2日歩き続けた。
まだ10歳の私にはとてもキツかったけど、何とか森の入口まで辿り着いて少し安心したところで、この巨大な鳥の魔物に襲われ、私だけが掠われたのだ。
「あなた、私をどうするつもりなの? 食べるの?」
私は、私をジッと見つめている鳳魔鳥に聞いてみた。
「俺はお前が助けてくれ! と言うから助けてやったんだが・・・! 」
「ええっ?」
私は驚きの声を上げた。
「俺たちは牛や馬は喰うが、人間は喰わんぞ。ましてやこんな貧弱な小娘、見るからに不味そうだろうが。」
鳥は続ける。
「目が覚めたら人間の里の近くで下ろしてやろうと思ってたが、一向に気がつく様子がないので、その辺で放っぽり出すわけにもいかず、まずここへ連れて来ようと思って飛んでいたら、ついウトウトしてここの崖にぶつかりそうになって、慌てて舞い上がったら、おまえが急に暴れ出して落ちた・・・ってことだ。
まあ、とにかく無事でよかった。」
(この鳥さん、ひょっとしてかなりのお人好し、じゃなくて『お鳥好し』か?)
そういえば、前世の記憶で「とり善」と言う鍋料理屋さんに学生時代の飲み会で行ったことがあったなあ…と思い出したが、今はそのままスルーにしておこう。
よーく考えてみると、あの時、私はミニエとパラに向かって思わず「助けと~!」と叫んでしまったけど、この鳥さん、バサバサ~っと出て来ただけで、私たちを襲ったわけではなかったようだ。
それを襲われる…と勘違いして叫んだものだから「はいはい、助けますよ!」ということになったのか...
一応、お礼を言っておこう。
「ありがとう。とりあえずお礼を言っとくわ!」
「そういや、お前、俺たちと話ができるんだよなー。たまにそういう人間がいるが、久しぶりだな。30年ぶりぐらいか。」
感慨深そうに鳥は呟いて言葉を続ける。
「後で人間の里の近くまで送ってやるつもりだが、その前にちょっと見てもらいたい物があるんだ。」
遠くに見える奇妙な角張った形の山の方を振り向いて鳥さんが言う。
「かまわないけど、何、それ? 私に判るの?」
「ここは俺たちが大昔から渡りをする時に羽を休める場所なんだが、いつの間にか変なもんが居座るようになってな。」
「あの変な山? 採石場の跡か何かじゃないの?」
「いや山じゃないな。女、子どもは気味悪がるし、たまによそ見していてぶつかるバカもいる。昔はあんなものなかったんだがな... 」
「へえー」
(鳥にも色々いるんだなー)
「本当はどけられたら一番良いんだが、せめて正体が知れたら少しは安心できるかなと、今までに何人か、俺たちと話かできる人間に出会ったら見てもらっているんだが、みんな判らないと言ってた。」
(以前もここに人が来たこと、あるんだ...)
「とりあえず、傍(そば)まで行くから俺の背中に乗ってくれ!」
鳥さんは片方の翼を地面の方に傾けて、私が背中に乗れるようにした。
両翼の中央辺りに凹んだ部分があって、そこにすっぽり座れるようになっている。ふわふわしててとても温かい。
「ちゃんとつかまってろよ! 行くぞ!」
私は上空から見る景色に目を見開いた。こんな生身の状態で空を飛んだことなんて前世の記憶にもない。
件(くだん)の物体までは意外と距離があった。その間、私はずっと大高地の大きさに圧倒されていた。
そして、『それ』は想像をはるかに凌ぐ、巨大で異様な物体だった。
(先史文明の遺跡か何かかしら?)
その物体のすぐそばに降り立った私の第一印象はこれだった。
遠くから見ている限りは岩山か何かを採掘した跡みたいに見えていたが、実際に近くで見ると明るい灰色の壁はつるんとしてて光沢があった。
(金属? プラスチック? セラミック? 何でできているのか全く見当がつかないな...)
(継ぎ目が全然ない! 入口らしきものもない! 建物という線は薄いかなー。 建物としては大きすぎるし...)
私が思案にくれていると不意に頭の中に誰かの声が聞こえた。
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